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怠デレ彼女は今日も「めんどくさい」 (3/3)

■彼女は今日も「めんどくさい」■

 那楽だらめぐみはそれなりにモテる。
 高校一年の間だけでも四人には告白されていた。見た目は悪くないし、他とキャラ被りすることもない。唯一無二の魅力があるっちゃある。男子が相手でも女子が相手でも特に緊張することなく話すしな。とげとげしい部分がなくもないが、人格に嫌味がないのだ。

「ねぇねぇ、那楽だらさんって、彼氏とかいるのかな?」

 俺の数少ない友人、二戸にこ翔平しょうへいが体育の時間、サッカーボールをパスしながら聞いてきた。

「いないんじゃないか」

 俺はサッカーボールを蹴り返しつつ言う。

「つーか、なんで俺に聞くんだよ」
「だって古津君、那楽さんと仲いいじゃない」
「仲いい……のか?」
「いいでしょ。那楽さんがあんなに長く喋るのって古津君ぐらいじゃないかな」

 言われてみれば確かに。

「そんで、那楽に彼女がいないことを知って、お前はどうするんだ?」
「ふふ……決まってるでしょ」

 その時、校舎に帰ろうとしている女子二人が「二戸く~ん!」と二戸に手を振った。
 二戸は笑顔で手を振り返す。

「いいね……今の二人、そそるよ」

 二戸はイケメンで、いつも笑顔で、女子からの人気は絶大。
 だがその裏の顔はとんでもない。

「ポニテの子が攻めで、長髪の子が受けだね。お姉さん気質の長髪の子が、あの子供っぽいポニテの子にいいようにやられるんだ……それがベスト」
「また例の妄想か」
「うん! まったく、ウチの高校はキャラのバリエーションが多くて百合妄想ファンタジーが捗るよ」

 二戸は百合(女性同士の恋愛)が大好きな百合男子なのである。
 二次元だけで飽き足らず、三次元でもこうして妄想するのだ。もちろん、女子の前ではそんな顔は一切見せないけどな。

「那楽さんに彼氏がいなくてよかった。これで思う存分百合妄想ファンタジーできる。めんどくさがり屋の那楽さんと機敏な吉比さんで百合妄想ファンタジーをしよう! 正反対な属性の二人がある日偶然事故でキスしたところから物語は始まるんだ! 楽しいなぁ~! やっぱり、普段はめんどくさがり屋な那楽さんが逆に攻めの方が捗るよねぇ! 古津クン!」

 コイツの本性を知ったら、誰もコイツに甘い声をかけなくなるだろう。

「知るかアホ。まぁなんだ、お前のファンタジーとやらに水を差すようであれだが」

 一応、これだけは言っておかないとな。

「那楽は恋愛とか苦手だと思うぞ」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって恋愛ってめんどくさいだろ。せっかくの休みにデート行ったり、こまめにメッセージ送ったり……アイツ、女扱いされるのも嫌いだし。恋愛とか、ホント興味ないと思うぞ」
「なるほど。恋愛が苦手な彼女が、直球勝負の吉比さんに攻められる方が、解釈として正しいと言いたいわけ――ぶはっ!」

 俺は二戸の顔面にサッカーボールを当てた。

「わりぃ。足が滑った」
「ああっ!? せっかくの百合妄想ファンタジーが今の衝撃で飛んだ!」

 まったく、イケメンの無駄遣いもいいとこだ。

「おい」

 後ろから、なじみのある声が聞こえた。
 振り返ると、那楽が機嫌悪そうな顔で見上げてきていた。

「先生さっきから集合かけてるぞ。お前らのせいで授業が終わらないじゃないか」
「あ、すまん。いま行く」

 今の話、聞かれてたかな。
 まぁ聞かれててもいいか。間違ったことは言ってないと思うし。二戸の発言は色々と問題あるがな。

 ---  

 
 ふと、隣の席を見ると、

「……」

 那楽がむすっとしていた。もしかして、

「那楽、さっきの二戸との会話、聞いてたのか?」

 自分の話を自分がいない場所でされるのは煩わしいものだ。俺と二戸が那楽の噂話をしていたから、それで機嫌を悪くしているんじゃないかと思って聞いてみた。

「ああ。最後の方だけ」
「そっか。悪かったな。別にお前のことを悪く言ってたわけじゃない。お前が恋愛に興味ないって話をしてただけでな」

 那楽はまたむすっとする。

「えーっと、アレ? 別に俺、間違ったこと言ってないよな?」
「お前はどうなんだ?」
「へ?」
「恋愛、興味あるのか?」

 ふむ、逆に質問されるとはな。
 嘘ついても仕方ないし、正直に答えよう。

「あるよ。健全な男子高校生だからな。女性に興味がないと言えばウソになる」
「そういえば、前に牟頼むら先生の誘惑に乗りそうだったもんな」

 牟頼先生は保健の先生である。めちゃくちゃ美人でめちゃくちゃエロい先生だ。あれこそ、男子高校生の天敵だろう。

「仕方ないだろ。あんな魅力的なボディーの持ち主に誘惑されたら普通の男だったら断れない」
「……変態」
「なんだお前、もしかして嫉妬してるのか?」

 と冗談のつもりで聞いてみると、那楽はブチ切れた顔で、

「してるわけないだろ」
「はい。すみません。調子乗りました」

 余計に機嫌を損ねてしまった。反省。

「別に、興味なくはない」

 那楽はボソッとそう言った。

「なににだ?」
「……恋愛」
「お前が恋愛なんてめんどくさいの塊に、興味あるだと……!?」
「お前な、私だって乙女だぞ」

 那楽は前髪を引っ張り、目元を隠す。

「恋愛なんてめんどくさいけど……でも、してやらんことも……ない。めんどくさいけどな」
「なんで上から目線?」

 しかし意外だ。あの那楽が恋愛に興味あったとは。

「……つまりだ、私にだって恋愛感情ぐらいはある……ってことだ」
「そっか。それはすまない。勘違いしていた。デマ話を流しちゃったな」
「バツとして、今度私にアイマスク作ってくれ」
「アイマスク!? お前、簡単に言うけどな、修理するのとゼロから作るのじゃ難易度が――」
「ちゃんとこの世で唯一のデザイン性にしてくれよ。あと目元を温める効果もつけてくれ」
「素人の俺に、温暖効果を搭載しろと!?」

 那楽は腕枕に頬を押し付けながらこっちを見て、小悪魔いたずらっ子な笑顔を浮かべた。

「くれなかったら、ダル絡みするから覚悟しろ」

 不覚にも、いまの彼女の笑顔はどこか色気があって……ドキッとした。

 俺の隣人、那楽だらめぐみは今日も無気力で不愛想で眠たげだ。そして彼女は今日もいつも通りめんどくさい。


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