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『退職代行を使う前に読む本』第1章まで無料全文公開!

2020年9月1日に発売された書籍『退職代行を使う前に読む本』(著:清水 隆久/増森 俊太郎/吉田 名穂子)の第1章までを無料公開いたします!

内容紹介

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メディアから取材殺到!知られざる退職代行サービスの最前線

「会社を辞めたいけど、どうしても辞められない」

そんなご相談が後を絶ちません。それもそのはず、日本ではまだまだ「辞めると申し出ること」自体に高いハードルがあります。

本書は、ここ数年メディアでも度々取り上げられている「退職代行サービス」について、サービスの概要や具体的な活用方法、注意点など必要な情報を網羅しています。

そしてさらにもう一歩、会社を辞める勇気を出すきっかけとなる1冊です。

必要なのは「決断」のみです。

さあ、まずはこの本を読むところから始めてみませんか?

【目次】
はじめに
弁護士3名よりご挨拶
第1章 退職代行サービスとは何か?
 退職代行サービスの定義
 民間業者と弁護士の違い
 依頼する前に自分で確認しておくべき4つのこと
 引き継ぎはどうなるのか?
 残業代の未払い請求
 パワハラ被害の損害賠償請求
 公務員の退職代行を行えるのは弁護士のみ
第2章 退職代行24時。私たちが対応した恐ろしいブラック企業の実態
 退職代行を行う弁護士のリアルな実務
 退職代行の現場。実際にどんな人が使っているのか?
 簡単な理由でも退職代行は利用できる
第3章 退職代行サービスの是非と民間業者の問題点
 退職代行サービスを使うのは「無責任」なのか?
 民間業者に退職代行サービスを依頼するリスク
 弁護士に退職代行を依頼する心理的&金銭的ハードル
 民間業者の退職代行サービスは弁護士法72条に抵触する?
 これから退職代行サービスが向かう先とは
おわりに
巻末付録:退職代行サービスに大きく影響のある法律について

※本書は各電子書籍ストアにて好評発売中です。

***

はじめに

 はじめまして。弁護士の清水隆久と申します。

 私たちの事務所のもとには、こんなご相談が毎日10件近くも舞い込みます。

「辞めたいけど言い出せないから困っている」

「引き継ぎに2年かかるから辞めるなといわれる」

 事務所では、私を含めて3名の弁護士が昼夜を問わずご相談を受け付けているので、時には交代で「寝ずの番」をすることもあります。

 そんな私たちがこの本を書こうと思った理由は、「退職代行サービスのリアルな現状を皆さんに知っていただきたい」と考えたところにあります。そして本書は「退職代行サービスを使って会社を辞めたい」と思っている方はもちろん、「会社を辞めたいけど辞められなくて困っている」という方にも、ぜひ読んで欲しいと思います。

 前提としてお伝えしたいことがあります。それは、退職代行サービスを使うことは「決して無責任なことではない」ということです。そのことを本書でしっかりとご説明させていただき、あなたや周りの大切な方の苦労が少しでも緩和されることを願っています。

 そもそも、私が退職代行サービスをスタートしたきっかけは、前職での経験でした。私は社会保険労務士の資格も保有しており、弁護士になる前は社会保険労務士として活動していました。実際の仕事はというと、企業様から入社や退職の際の手続きを依頼されることが少なくありませんでした。

 その中で特に多かったご相談が、「前の会社を辞めずに、次の会社に就職してしまった従業員」に関するものです。「どうやったら辞めさせることができるのか?」と、何件もお問い合わせいただいておりました。

 当時の私はあくまで「社会保険労務士」でしたので、弁護士のように代理人となって従業員の方と直接交渉する権利は有しておりません。ですから、企業側に「従業員に会社を辞めてもらう方法」をアドバイスすることしかできませんでした。

 しかし、私はその経験から「働く人が会社を辞めることは大変なことなんだ」という認識を強く持ち、むしろ従業員の方をサポートする「退職代行サービス」をスタートしようと思ったのです。

 退職代行サービスに限らず、近年では就職に関しても求職者が直接企業とやりとりをするのではなく、エージェントに依頼する形式が人気です。つまり、企業も個人も、不得意な作業やコストがかかる作業は外部の方にお願い(アウトソース)する時代だといえます。ですので、退職代行サービスのニーズは非常に大きいと考えたのです。

 実際に退職代行サービスをスタートしたところ、前述のように多くのご相談、ご依頼のお電話をいただくようになりました。中でも私自身驚きだったのが、弁護士や司法書士、行政書士といった法律の専門家である士業の方々からもご依頼いただいていることです。

 弁護士や司法書士などは、法律の知識は十分に有しており、退職するための方法も熟知しているはずです。にもかかわらず、私たちに相談するということは、「いかに辞める勇気を出すことが大変か」ということにつきると思います。日本において、「辞めることはどれだけ難しいのか」ということを痛切に感じました。

 私たちの事務所には、非常に多くのお問い合わせをいただいており、毎日電話が鳴り響いている状態です。ですが、本当はいつかの日か退職代行サービスがなくても、誰でも簡単に会社を辞められるときが来ればいいなと思っています。

 退職代行サービスが広く知られて、会社は簡単に辞められることがもっと知られるようになれば、弁護士に依頼しなくても辞められるようになるはずです。企業側も、従業員の退職を阻止してはいけないことを理解するようになるはずです。

 私たちは、会社を辞められなくて困っている人が、一人でも多く救われること、ご自分の人生を取り戻すことを目指しています。そして本書が、辞めたくても辞められない方の救いになればと思っています。

 この本を多くの人に読んでいただき、退職代行サービスの知識を深めるだけでなく、辞める勇気を出すきっかけにしていただけると幸いです。

弁護士3名よりご挨拶

清水隆久

 はじめにでも書きましたが、私は社会保険労務士の資格を取得して実務をこなした後に、弁護士資格を取得しました。今は数千件の退職代行を引き受け、ほぼ毎週のように労働審判(労働者と事業主との間で起きた労働問題を解決するための裁判所の手続き)に通っています。

 私の武器は、社会保険労務士の経験を活かした、一歩踏み込んだ退職代行サービスです。社会保険労務士ならではの切り口で企業と交渉しますので、非常に速いスピード感で事案を解決できます。また、社会保険や労災、税金の問題までワンストップの退職代行サービスをご提供可能です。

増森俊太郎

 はじめまして。弁護士の増森俊太郎と申します。

 私は「法律を通して人の悩みを解決したい」と思い弁護士資格を取得しました。現在は、「1件1件を懇切丁寧に」をモットーに日々案件をこなしています。

 退職に関しても、相談される方の悩み、業種、雇用形態、現在の立場、人間関係などの状況、要望など、抱えている問題は1件1件異なります。例えば退職に関してこのような悩みを抱いていないでしょうか?

「会社を辞めたくても辞めさせてくれない」

「上司に言い出しづらい」

「パワハラが酷く寝られない日が続いてもう限界」

「残業代が支払われない」

 1件1件異なるからこそ、その悩みに真摯に耳を傾け、依頼者と一緒に考えながら、依頼者と一緒に最善な道にたどり着けるよう全力で取り組んでおります。

吉田名穂子

 はじめまして。弁護士の吉田名穂子と申します。

 私が弁護士になったきっかけは、大学生の頃にとある事件に巻き込まれたことでした。私は示談交渉や刑事裁判の対応などを弁護士に依頼して、事件は無事に解決。解決しても私の心の傷は癒えないものの、困っているときに助けてくれた弁護士を非常に頼もしく、心強く感じ、私も困った人の助けになりたいと思うようになりました。

 退職代行をはじめたきっかけは、本当に多くの困っている方を救うことができる領域だからです。1日に何件もの相談を受け付けて対応をしています。いつか退職代行を使わなくても退職できる社会になればいいなと考えていますが、それまでは一人でも多くの方を助けたいという一心で突き進むつもりです。

第1章 退職代行サービスとは何か?

 第1章では、我々が行っている「退職代行サービス」の概要をご説明します。具体的にお伝えする内容は、民間業者と弁護士の違いや、ご依頼いただく前にしておくべきことなどです。

 まずは退職代行サービスというものが何なのかを簡単にご理解いただき、その上でこれから退職代行を実際に依頼するかどうかの判断材料にしていただければと思います。

┗退職代行サービスの定義

 退職代行サービスとは、とても簡単にいえば「退職に関する作業を代行するサービス」のことです。

「会社を辞めたいけど勇気が出ない」

「会社を辞めたいのに引き留められている」

「辞める前に後任を探してこい」

「全ての引き継ぎが終わるまで辞めるな」

 こんな理由で退職できずにいる人たちをサポートするのが、退職代行サービスの主な内容です。退職の意思を会社側に伝えて認めてもらい、退職に関して必要な書類の発行等の手続きを全て完了させるのが退職代行サービスのゴールだといえます。

 当事務所では2018年7月から退職代行サービスを開始して、インターネットニュースやSNSを通じて広く周知されるようになりました。

 利用者の6割から7割が男性、3割から4割が女性です。年代的には、20代から30代が全体の70%を占めます。40代が15%、50代が10%、60代が5%です。

 多く見られる職業は、介護・医療系、営業系、システムエンジニア、公務員などです。激務である職場やストレスが多い職場で働く方が依頼されることが多いように感じます。

 なお、「退職代行サービス」には大きく分けて下記の2種類があります。

1.民間の業者が行っているもの
2.弁護士が行っているもの

 どちらも「退職に関する手続きを代行してくれること」は同じですが、途中の経過やできることには差があるので注意が必要です。

 一般的には民間の業者よりも弁護士のほうが費用が高額なので、民間業者を選ぶ方が多いですが、実は民間業者にはできないことがたくさんあります。

「退職代行をどこに頼んだらいいのかわからない」

「退職代行業者に本当に丸投げできるのか」

 このような悩みを抱えている方のために、次の項目で、弁護士と民間業者の違いを詳しく説明しますので、参考になさってください。

┗民間業者と弁護士の違い

 民間の業者と弁護士による退職代行サービスの大きな違いは、「本人の代理人として法律事務を行うことができるかどうか」です。

 弁護士は、法律(※弁護士法3条)で報酬を受け取って代理人になることが認められているので、本人の代理人として退職の意思表示ができます。

 一方で、民間の業者は代理人になれないので、退職の意思表示はもちろん、有給の申請等もすることができません。

 中には「退職の意思表示や有給の申請も行う」としている民間の業者もありますが、それは「非弁行為」という法律(※弁護士法72条)に違反する可能性がある非常にグレーな行為ですので、利用する際は注意してください。

 実はというと、会社側が「代理人でもない以上、本人と何の関係もない業者さんと話す道理はない」と介入を拒んでしまえば、民間の業者にはもう何もできません。その後、会社側が離職票などの必要な書類を送付してくれないといった事態が発生すれば、困るのは依頼者さんです。

 しかし、弁護士は正式に代理人となって会社と交渉できますので、弁護士に依頼いただければ会社と一切話す必要はなくなります。

 よく「会社に申し訳ないな」と考えている依頼者さんが「退職の意思だけは自分で話します」とおっしゃることがありますが、私たちは「全部任せていただいて大丈夫ですよ」とお伝えしています。私たち弁護士にお任せいただければ、退職に関するやりとりは全て代わりに行いますし、離職票や退職証明書、源泉徴収票まで取り寄せます。

 中には、「離職票や退職証明書などの取り寄せは、自分でやってね」という弁護士さんもいるのですが、私たちの事務所ではそこまで完遂してこその退職代行だと思っています。時折、「弁護士さんは、退職日だけを決定してその後の手続きをやってくれない」と困っている方からのご相談もいただきますので、弁護士に依頼する場合は、「どこまでやってくれるのか」を把握しておきましょう。

┗依頼する前に自分で確認しておくべき4つのこと

 退職代行を依頼する前に、以下の点をクリアにしておくとスムーズに手続きが進みます。

1.正しい勤務先はどこか
2.勤続年数は何年か
3.期間の定めがある雇用契約かどうか
4.私物の整理と貸与品の有無

1.正しい勤務先はどこか

 「正しい勤務先を知らない人なんているの?」と思うかもしれませんが、実は最近こういった依頼者さんが増えています。

 例えば、システムエンジニアの方は出向で客先に常駐して働くことも多く、実際にどこが自分を雇用しているのかがわからなくなることがあるんです。名刺には子会社の名前が書いてあるものの、雇用は親会社というケースもありますので、確認しておいてくださいね。

 それによって、退職の意思表示をする先が異なります。本人に聞いてもわからずに、上司に勤務先を確認したという事例もありました。

 一番簡単に正確な勤務先を知る方法は、「給与明細」や給与の振り込み名義、健康保険証を確認することです。

2.勤続年数は何年か

 勤続年数がわかると、有給休暇の日数がわかります。有給休暇を全て取得していない場合は、残った有給休暇を申請することができます。なお、退職を通知してから有給休暇を申請しても、実は認められる場合が多いです。

3.期間の定めがある雇用契約かどうか

 それから、退職代行サービスを利用する際にとても重要なのが、「期間の定めがある雇用契約かどうか」です。「1年契約」や「6か月契約」のように、契約期間に定めがある雇用契約の場合は、退職に関する民法の規定が異なります。

 期間の定めのない雇用契約の場合は、解約の申し入れから2週間を経過すれば、雇用契約が終了(退職)します(※民法627条1項)。

 一方で、期間の定めがある雇用契約の方は、一般的な正社員のような期間の定めのない働き方よりも、退職に関しては若干不利になってしまうのです。

 契約期間が定められている場合、労働者側から退職を申し入れるには、「やむを得ない事由」が必要とされています(※民法628条)。もちろん、やむを得ない事由がなくても、当事者同士が合意すれば、期間満了前に退職することもできますので、弁護士に相談してみましょう。

4.私物の整理と貸与品の有無

 民間の業者はもちろんのこと、弁護士でも対応が基本的にできないのが、「私物の整理や貸与品の返却」です。前もって私物の整理は自分で行っていただいておくと、退職通知後に会社に行かずに済みます。

 仲の良い同僚や上司が職場にいる場合は、彼らに整理して送ってもらえるときもあります。とはいえ、私物を確認されるのは抵抗があるという方は、退職代行を頼む前にできる限り私物を持って帰っておきましょう。

 私物を持って帰り忘れたけれど、二度と会社に行きたくないという場合は、日当や交通費をお支払いいただいて取りに行くこともあります。

 また、会社から貸与されているロッカーの鍵や会社の鍵、制服などは返却しなければなりません。返却をしないと、場合によっては費用を請求される恐れがあります。

 ただし、直接手渡すのではなく配達の記録が残る郵送方法(簡易書留等)で発送する、安全な場所に置いておき写真を撮っておくなどの方法でも、貸与品の返却は可能です。これは、後になって会社から「鍵が返ってきていない」などと言いがかりをつけられないように間違いなく返却したことを記録として残しておくためにも有効です。

┗引き継ぎはどうなるのか?

 退職代行を依頼したいと考えたときに真っ先に頭に浮かぶのは、「引き継ぎはどうするの?」という疑問だと思います。

 会社によっては「引き継ぎには1年ほどかかる」なんてとんでもないことをいってくることもあります。

 確かに、労働者には業務を引き継ぐ義務がありますが、だからといってそれを理由に辞められないということはありません。先ほどもいったとおり、期間の定めのない雇用契約の場合には、解約の申し入れの日から2週間を経過すれば、雇用契約が終了(退職)します。ですから、「引き継ぎが完璧に終わるまで退職できない」ということはありません。

 私たちのサービスでは、文書やメールでの引き継ぎをメインにしていて、やりとりは最長でも4回程度で区切るようにしています。引き継ぎを口実に引き留められることはありません。

 ただし、以下のような事例では損害賠償を求められることもあります。

・引き継ぎをしなければ業務に著しい支障をきたす
・会社側からの引き継ぎの要請に正当な理由なく応じない
・引き継ぎをしなかったことにより会社に損害が発生した

 不安がある方は、引き継ぎに関してどのような対応を行うのかをあらかじめ把握してから、退職代行サービスを選びましょう。選択を誤ると訴訟リスクを招く恐れもあります。

┗残業代の未払い請求

 退職代行サービスを依頼する方の多くが、「残業代の未払い問題」を抱えています。

 そもそも従業員の方が自分で退職を言い出せない会社の中には、〝ブラック企業〟と呼ばれるような劣悪な労働環境の企業が多く存在しますので、残業代を支払っていないケースも多いのは当然といえば当然です。

 前述のように、民間の退職代行業者は企業側と交渉ができないため、残業代請求はできません。一方、私たち弁護士は残業代の請求が可能です。ですから、必ず「未払いの残業代があるかどうか」だけでも把握しておいてください。

 ちなみに、誰もが名前を知っているような株式上場企業でも、従業員に残業代を全額支払っていない場合があります。「残業時間は60時間で切るように」というように指示をだして、実際の残業代よりも少ない金額しか残業代を支払っていないケースです。また、端数が切られている場合もあります。本来は1分単位で支払うべきですので、切り捨てられた残業代を請求することができることも覚えておいてください。

 なお、残業代は正社員かパート・アルバイトを問わず、法律上の要件を満たせば支払わなければならないとされています。

 よく「管理職だから残業代を支払わない」としている会社がありますが、労働基準法で残業代を支払わなくて良いと規定してあるのは「管理監督者」です(※労働基準法41条2号)。

 管理監督者の範囲については、厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署が作成したパンフレットで下記のように明確に指定されています。

・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
・現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
・賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

 経営の方針を決定するような役割を担っていることや、その業務が通常の勤務時間以外にも発生すること、他の社員と比較すると十分な報酬を受け取っていることなどが管理監督者の要件となります。したがって、「係長」や「課長」などの役職があるからといって、管理監督者に該当するとは限りません。

 企業の規模にもよりますが部長でも、管理監督者ではないとみなされる場合がありますので、管理職で残業代請求を諦めている方も、退職代行と同時に相談してみると良いでしょう。

 また、「みなし残業(固定残業代制度)」だから、残業代が支払われないといわれている場合も、残業代の請求ができるケースは多数あります。就業規則にみなし残業時間が規定されている場合も、みなし残業時間を超えた分は残業代の請求が可能となります。

 当事務所でご相談を受けたとある事例では、企業側がタイムカードを改ざんして、残業代の支払いを拒んでいるということがありました。結局この事例では、労働審判でタイムカードの改ざんが露見し、未払い残業代の支払いが認められています。

 この依頼者は、退職直前の1か月分だけタイムカードをコピーしていました。コピーしたタイムカードと企業側が提出した資料の同月を比較したところ、残業時間が全然違うのです。これは、この1か月だけでなく会社が「全体を改ざんしているのでは?」と直感しました。

 ちなみに、そのタイムカードは指紋認証型のものです。指紋認証型であれば改ざんが難しいように思えますが、実はパソコンがあれば簡単に改ざんできます。労働審判では、コピーがない部分についてもタイムカードの改ざんが認められました。

 この事例に限らず、退職代行と残業代請求はセットになることが多いので、未払い残業代がある場合は、退職代行と合わせてご依頼ください。

 その場合は以下のような残業をしていたことを証明できる証拠が必要となります。先ほどの事例のように証拠が1か月分しかなくても、全期間の未払い残業代の支払いが認められるケースが多いですので、証拠を確保するようにしておいてください。

【残業代請求の際に役立つ証拠】
・タイムカード
・パソコンのオンオフのログ
・セキュリティシステムのセキュリティがオンになった時間
・交通系ICカードの記録
・業務連絡のメールやLINEの履歴

 証拠の確保が難しい、全く証拠がないという方も全く対応ができないというわけではありませんので、ぜひ弁護士にご相談ください。

┗パワハラ被害の損害賠償請求

 残業代請求と並び、退職代行と同時にご相談いただくことが多いのが、「パワハラ問題」です。相談者の方からよく聞くお悩みは次のような内容です。

「上司が怖くて退職したいとすらいえない」

「退職したいといったら大勢の前で叱責された」

 このような会社は、多かれ少なかれパワハラの体質があると考えます。

 実は最近までパワハラについて明確に法律で規定されていませんでしたが、大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月から(努力義務期間あり)施行される「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」では、企業側にパワハラを防止する義務を課すことになりました。

【パワハラの類型】
・暴力や傷害などの身体的攻撃
・遂行不可能な業務を与えること
・仕事を与えないこと
・私的なことに過度に立ち入ること
・人格を否定する言動

 弁護士に退職代行を依頼する際は、パワハラの証拠があれば企業側に慰謝料等の損害賠償をあわせて請求することができます。さらに、パワハラによって精神疾患等を発症している場合は、治療費等を含めた損害賠償請求が可能です。

 パワハラ行為がある場合には、以下のような書類やデータが有効な証拠となりますので、損害賠償請求を考えている方はあらかじめ用意しておくと手続きがスムーズです。

【パワハラによる損害賠償に有効な証拠】
・パワハラが行われていたことが明らかな音声データや動画データ
・理不尽な叱責やいじめなどがあったことがわかるメールやメッセージアプリのスクリーンショット
・パワハラ行為が具体的に記載されている日記やメモ

 なお、パワハラでの損害賠償請求は証拠の有無や強さが重要ですので、退職代行の際に弁護士に実情を話して、請求可能かどうかを判断してもらうと良いでしょう。

┗公務員の退職代行を行えるのは弁護士のみ

 ここまで退職代行サービスの概要についてお伝えしてきましたが、公務員としてお勤めの方は例外となります。

 まず前提としてですが、公務員の方の場合は先述した雇用契約についての民法627条ではなく、地方公務員法などの法律が適用されます。

 これによって具体的に何が変わってくるかというと、公務員の場合は原則として退職の際に「任命権者(公務員の任命、休職、免職及び懲戒等について権限を有する者)の承諾」が必要となり、交渉が必要となります。前述のとおり、民間の退職代行業者は交渉行為ができないため、公務員の退職代行はできないことになります。

 また、公務員の場合は十中八九、委任状の提出を求められますので、やはり代理権がない民間の退職代行業者は、委任状を求められた時点でもうそれ以上進まなくなってしまいます。

 なお、退職代行サービスを行っている弁護士事務所であっても、公務員の場合について細かく記載していないケースも多々あります。仮に依頼が可能であったとしても、辞令の交付などのやりとりが多くなる傾向にあるため、料金は一般企業の退職代行よりも高めに設定されているケースが多い点に注意が必要です。


Copyright © 2020 Takahisa Shimizu, Shuntaro Masumori, Nahoko Yoshida All rights reserved.

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無料版はここまで。以降の本編では実際の依頼と対応例はもちろんのこと、退職代行サービスを巡る議論についても踏み込んでお伝えしています。

続きを読みたい方は、ぜひ各電子書籍ストアお買い求めいただければ嬉しいです。なお、Amazonでは紙書籍(プリントオンデマンド)での購入もできます。

著者プロフィール

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清水 隆久(しみず・たかひさ)

弁護士・通知税理士

1979年生まれ、埼玉県川越市出身。

城西大学附属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務にかかわる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆいところに手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む。)は、60件以上となる。

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増森 俊太郎(ますもり・しゅんたろう)

弁護士

1990年生まれ、埼玉県鶴ヶ島市出身。

明治大学法学部法律学科を卒業後、慶應義塾法務研究科に入学。予備試験合格後、2016年3月に慶應義塾法務研究科を修了、同年司法試験に合格。最高裁判所司法研修終了後、2018年に弁護士法人川越みずほ法律会計に入所し、弁護士業務に従事している。取り扱い分野は労働のほか、一般民事、離婚・相続などの家族法、交通事故、破産、刑事など。

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吉田 名穂子(よしだ・なほこ)

弁護士

1990年生まれ、奈良県出身。

四天王寺高校卒業後、千葉大学法経学部法学科在学中に犯罪被害に遭い、ある女性弁護士に助けてもらった経験から、弁護士を志す。2016年3月に早稲田大学法科大学院を修了、同年司法試験に合格。司法修習(70期、修習地:さいたま)の後、東京都内の法律事務所にて約1年間勤務し、債務整理、交通事故、家事事件、交通事故等の一般民事事件を中心に修行を積む。2019年に弁護士法人川越みずほ法律会計に入所し、労働事件を中心に幅広い分野の案件に取り組んでいる。

□■弁護士法人川越みずほ法律会計■□
http://www.kawagoemizuholaw.jp/
※詳しい料金等については事務所ホームページをご参照ください。