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【探究学習】「クエスト」経験者の大学生に聞いてみた。ぶっちゃけ、どうでした?

教育と探求社の探究学習プログラム「クエストエデュケーション」(クエスト)に取り組んだ大学生2人のオンライン座談会が8月に開かれました。中学・高校時代を振り返り、当時の「生徒」の目線で、先生のファシリテーションや生徒との接し方について本音で語りました。

スピーカーの紹介

(左)荻原涼(おぎはらりょう)さん:慶應義塾大学総合政策学部2年昭和学院秀英中学校・高等学校 卒業生。2017年度(中2) POWER OF INNOVATION参加2018年度(中3) 社会課題探究コース「ソーシャルチェンジ」受講(右)植村 誠輝(うえむらせいき)さん:近畿大学 法学部・法律学科 4年2016年度(高1) 企業探究コース「コーポレートアクセス」受講2018年度(高3) 起業家コース「スモールスタート」受講

中学・高校時代にクエストエデュケーションを経験した荻原涼さんと植村 誠輝さんは、今大学生。クエストの経験者(アルムナイ)として、イベント運営やファシリテーターとして携わっています。

まず、荻原さんの話から。

常識が覆る強烈体験が、その後の探求につながる

荻原さんは中学2年の時、「POWER OF INNOVATION」(POI)に参加しました。POIは全国の中高生が東京に集まり、探究課題に取り組む3日間のイベントです。

ーーPOIに参加した時のことを教えてください。

中学の職員室でPOIの参加者募集のポスターを見つけたのがきっかけでした。東京で宿泊付きで参加できるイベントだから楽しそう、という軽いノリで参加しました。「探究学習がやりたい」「社会課題に興味があった」という動機があったわけではありません。

POIは、3日間の探究学習プログラムで、デジタルハリウッドの杉山知之学長と、一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授(当時。現・法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)のトークセッションがあり、その後、参加者がグループを組み、協賛企業が出す探究課題に取り組みます。

初日の米倉教授のキーノートスピーチが強烈でした。リニア新幹線について、いきなり「そんなものは、もういらない!これからはテレビ電話が発達する。自然を壊してまで早く遠くにいく必要なんかない」と。常識が覆りました。それまでニュースや学校で習ったことを疑問に思わずそのまま受け取っていた僕ですが、そういう習慣を断ち切って、どう思うのかを考えるようになりました。この時の経験が、大学生になるまで続いていく、探究学習のきっかけになりました。

POIには高校生や大学生も参加していました。すごく優秀でいろんなことを知っている学生が多くて、初日のグループワークで彼らが話す単語がわからなくて、僕は全く話せないし、悔しいしで、なんとかしなければ、とホテルに戻って、話し合いで出た単語の意味や、企業から出されたテーマに関連する情報をネットで調べました。

2日目は、間違っていても、単純なことでもいい、いいことを言えなくてもいい、だから自分の考えをとにかく言わないともったいない、と気持ちを切り替えて臨みました。そうしたらグループワーク全体もうまく回り始めました。知識量の差を感じつつも、自分なりにどうにかしようと思ったことは、大きかったと思います。

ーーPOIでの体験を経て、その後、学校の授業で社会課題に取り組むプログラム「ソーシャルチェンジ」が始まりました。先生との関わりについて教えてください。

POIから1ヶ月も経たないうちにソーシャルチェンジが始まったので、そこで得た熱意を持ったまま4月の学習に取り組みました。

中学3年の担任は、ルールに厳しい先生でした。でも総合的な学習の時間では「黒子」に徹していたことが印象に残っています。

活発でパワフルな人が多くて仲も良いクラスでしたが、ガミガミ言うとやる気がなくなるし、のびのびした空気だと生徒も輝くのが分かってたから、総合的な学習の時間では教科学習よりも生徒がより楽しめるように接しくれたのではないかと思います。振り返るとありがたいです。

プログラムの開始後は、自分のグループはトラブルが起きることは少なかったし、POIを経験したからか、クラス全体、学年全体が総合的な学習の時間を楽しむための工夫を考えるような気持ちの余裕も生まれました。

ーー先生との関わりで、これはやめてほしかったと思ったことはありますか?

思いうかばないですが、もしアイデアや企画に「そういうのはできないよ」と言われていたらイラッとしていたかもしれません。探究学習に限らず、文化祭や体育祭などの学校行事でも「できないよ」って言われたら、テンションが下がってしまうかもしれないです。

ーー探究学習を通じて、大人たちと関わってみてどう思いましたか?

プレゼンを正面から評価してくれたのが嬉しかったです。子供扱いせず、ここが良くてここがダメで、実現性やマネタイズの面で真摯に話してくださいました。僕はコーポレートアクセスには取り組んでいないので、企業で働く方々と話す機会は多くはなかったのですが、自分のしていることを、自信を持って自分たちに伝えてくれるのを見ると頑張ろうと思えました。「我々の会社はすごいんだ」と、自分事として話してくださると、こういう会社に行きたいな、こういう人になりたいなと思いました。

アルムナイとしてクエストカップにファシリテーターとして関わってからは、協賛企業の富士通社員の方々に優しくしていただきました。自分の話に聞く耳を持ってくれて、一人の大人として、評価してくれたのがうれしかったです。

ーー探究学習を経て、今の進路に影響を与えていることがあれば教えてください。

米倉教授のお話がきっかけで、ニュースをただ見るのではなく、自分はどう思うのかを考えるようになりました。社会にある問題、課題に向き合う姿勢を身に付けさせてもらったと思います。

POIに参加するまでは、小6の時にドラマ『HERO』を見たことがきっかけで法律家を志してましたが、POIの後は分野横断で社会課題を解決したいと思うようになりました。だから大学は学際系と呼ばれる領域ができる、SFC(慶応大学湘南藤沢キャンパス)に入りました。ソーシャルチェンジの体験はクリエイティブなことをやろうと思ったきっかけにもなりました。

ーー探究学習に取り組む生徒や先生にメッセージをお願いします。

探究学習は自分の考え方や進路を考えるきっかけになりました。この秋から教育に関する研究会で研究や活動をすることにしました。今の自分につながっている活動を中学時代に体験できたのは嬉しかったです。国語も数学も社会も英語も大事だけど、そういう勉強とは違う頭の使い方をする経験をいろんな生徒にしてもらえるといいんじゃないかと思っています。

【先生からの質問】

Q:荻原くんのように探究のスイッチが入る生徒もいれば、興味がないままの生徒たちもいると思います。探究学習を、そういった生徒にも意味のある活動にするにはどうしたらいいでしょうか。

ソーシャルチェンジは、4月から12月まで取り組むので、行事や夏休みの間に気持ちが失速する時期もありましたし、メンバーのモチベーションにも差がありました。

だけど11月に、探究学習に取り組む他校との交流会に参加したことが刺激になりました。交流会の様子を動画に編集し、クラスで報告したんですね。交流会の楽しさが伝わってクラス全体のやる気が出ましたね。最終的には12月の発表で楽しめたと思います。

「一歩踏み出してやってみる」が鍛えられた

植村さんは、高校1年生の時に、企業から出された課題を探究する「コーポレートアクセス」(CA)に、3年生で身の回りの課題から商品を開発する「スモールスタート」(SS)に取り組みました。

クエストを知ったのは常翔学園高校の入試説明会です。クエストでの取り組みが紹介されていました。

中学生の時は、勉強が将来の役に立つと実感できなかったんです。先生に「数学の考え方自体が将来役に立つ」と言われても「本当に?」と思っていました。でも、クエストは将来に直結しそうだな、絶対役に立つな、とわくわくしていました。

CAに取り組んでいる間に出会った企業の方や教育と探求社の方と話すうち「こういう大人になりたい!」と思いました。

中学生の頃は「大人」になりたくなかったんです。電車で見る大人は疲れていて、月曜日の朝は嫌そうで、金曜の夜はすごく楽しそうで。「働くって楽しくないのかな」と。だけどクエストで会う大人たちは「うちの会社はこんな事業をしていて、自分はこういう仕事をしている。それがこんなふうに人の役に立っている」とイキイキした表情で話していたんですね。こういう働き方の大人もいるんだ、こういう風になりたい、働くならこういう人たちと働きたい、と思いました。

勉強する意味も少し見えた気がしました。CAでアイデアを練る段階で、科学について調べなくてはいけない場面が出てきます。プレゼンの原稿を作る時は現代文をしっかりやっておけばよかったと思ったり、歴史や古典の視点を入れると提案の説得力が増すことにも気がついたり、数学の証明問題は論理的に話すのに必要だ、と思ったりしました。

クエストをやるからには座学の勉強もやろうと思いました。そう思わせてくれたクエストだから、どんどんのめりこんでいきましたね。

ーー高校3年生でSSに取り組んだ時について教えてください。

3年生の時にもう1回クエストがやれると知った時は飛びつきました。あのワクワクをもう一度体験したくて。先生に言われて2秒で返事をしたと思います。1年生で取り組んだ時の心残りもあったし、2年生で後輩たちの校内発表の支援スタッフを経験した後、やっぱりもう一度やりたい!と思うようになりました。

ーー探究学習に取り組んでいる際の、先生との関わり方を教えてください。

担任の先生の言葉が印象に残っています。1年生の時CAで行き詰まったことがあって、思わず「先生、わからん!」と漏らしたら、先生が「俺もわからん」と返してきました。それまで先生が「正解」を全部知っていると思ってましたけど「先生もわからないことがあるんだな」「先生も人間なんだな」と気づきました。そのあとの学校生活や先生との接し方も変わりました。

ーー先生との関わりで、これはやめてほしかったというエピソードはありますか?

CAでミッション(課題)に取り組んでいたとき、ある先生にプレゼンを見ていただいて「原稿が長いから早口になってるね。どっか削ろうか」と助言されて一部削りました。ただ、そこが「企業がこのプランをやる意義」を説明する大事な箇所でした。そこをごそっと削ってしまったのに気がついたのは、本番のプレゼンが終わった、その瞬間だったんです。

審査後の講評で、提案したプランをなぜその企業がやるのか、その意義について触れていない点を指摘されましたし、私たちのチームを企業賞に推してくれた企業の方々もいましたが、その企業がなぜこのプランをする必要があるのかが、プレゼンからは見えてこなかったので、企業賞から外したと言われました。

この一件で、担任の先生が言っていた「俺もわからん」を思い出しました。何が正解なのか「わからない」のは、他の先生も同じなのだ、だから、自分で考えなければいけないと強く思うようになりました。

それから、これは自分が実際にそういう態度をされた訳ではないのですが、生徒の雑談を止めさせないでほしいと思います。雑談から生まれるアイデアってたくさんあるのに「雑談しないで、ちゃんと取り組みなさい」と言われると、本来自由な発想が生まれる場が「しなければならないもの」になってしまいます。私の学校ではむしろ雑談に先生が乗ってきてくれて、それがすごく印象的でした。

ーー探究学習が進路にどう影響しているか、もしあれば教えてください。

やっぱり「一歩踏み出してやってみる」が鍛えられたと思います。SSに取り組んでいる時に「人体の透明化」というアイデアが浮かびました。皮膚や骨、肉を透明化させる商品を提案したら、手術でも体の中身が透けて見えて便利ではないかと思ったんです。

そういう動物がいないか調べたら腹が透けたカエルを見つけました。もっと調べたくて、理化学研究所の研究者の英語論文を利用しようと思ったのですが、そもそも科学の知識が乏しいし、英語もわからない。理化学研究所に直接電話をして、教えられた広報のメール通じて問い合わせたら、研究の責任者をしている東大教授から連絡をいただきました。「問い合わせたらきちんと返してくれるのか!」と思いました。

今は学業と並行して、SNSマーケティングの仕事もしています。先日、著名なTikTokerに連絡したら早速会っていただけることになりました。クエストで経験した行動力で機会を得る大切さを思い出しました。

ーー探究学習に取り組む先生や生徒たちに向けてメッセージをお願いします。

クエストでたくさんのことを学ばせてもらいました。自分の経験が、出身の学校だけでなく、広くクエストをやっている後輩たちの力になれたら嬉しいなと思います。

アルムナイとしてクエストに携わるうち、生徒だけではなく、先生や企業の方々など、大人の目の色も変わることに気がつきました。未来を作るだけではなくて今を作る教育なんだ、それに関われて嬉しい、と思っています。

【先生からの質問】

Q:植村さんが探究学習を通じて教科学習の必要性に気がついたようなことを、ほかの生徒たちがもっと早く気がつくために、先生ができることはありますか?

そう思ったのはプレゼン作りの最中でぶつかった時だったので、自分で調べて考えて行動に移す中で見つけるしかないと思います。普段の授業で自分で動けるように促してもらったら気がつくのも早いかもしれません。

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