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学校の“魅力”をどう伝えるか。新しい発信のかたちを考える【ナレッジカフェ】

全国の教育関係者が探究的な学びについて語り合う場「ナレッジカフェ」。今回のテーマは「学校の魅力づくりを考える」。
学校の「魅力」をどう伝えるか。小中校の関係者をゲストに迎え、それぞれの場所から見えているもの、考えていることを語りあっていただきました。

「広報力」で理想的な教育活動を可能にしていく


まずは、広尾学園中学校・高等学校副校長の金子暁さんから。


金子 暁先生(広尾学園中学校・高等学校 副校長 )広尾学園の前身、順心女子学園時代から社会科教諭として勤務。生徒急減期を経て、2007年の校名変更と共学化に合わせ広報を担当。09年からキャリア教育を兼任。11年からICT 教育兼任。13年からはそれらを統合した教務開発部の統括責任者。学校価値のプラスの循環を構築しながら、「学校は未来」の実現を目指す。2017年から副校長。


金子:これは現在まで約30年間の中高の全校生徒の数をグラフ化したものです。もともと全校生徒は1800人を超えていましたが、数十人単位で減り始め、最終的には数百人単位で減っていきました。これは一番少ない時期はピークの時代の3分の1以下です。実際、これではもう学校は運営できず、継続不可能なところまで追い詰められました。どんなにいいアイディアがあって、力があったとしても、それを叶えるスケールが、生徒数が、ない。

マイナスの循環の中で、もう教職員は今まで女子校として積んできた経験を一旦捨てるしかない。まったく新しい学校として、ここからもう1回作り直すと決めました。そして本当に幸いなことですが、この後の3年間で一気に学校定員は1500名まで盛り返し、生き残ることができました。

このような経験を積んできたなかで実感したのは、学校で行っている教育活動について広報活動を意識して発信することで、社会的な学校に対する評価はものすごく拡大するということ。そして社会的評価が上がることで広報活動が教育活動に力を与え、より高度なものができるということです。

「勉強と部活」から「教育の枠を越えた経験の積み重ね」へ


金子:我々の時代の指導は「勉強」「部活」の二つをやれば成功する、という枠組みの中で進めてきました。しかし、いくら「頑張れ!」と言っても、生徒たちのモチベーションは上がるのでしょうか。僕は、無理だと思います。

今の時代は学校の枠をどんどん乗り越えて、いろいろな活動を積み重ね、経験するなかで学ぶ意味もわかるようになるだろう、というのが私たちの仮説です。

結果として、生徒たちは我々の想定を超えてきてくれている気がします。校外の活動でモチベーションを高め、日頃の学習の意味も感じながら学校生活を過ごす。こういう姿がこれからの学校なのではないかと思います。

梅下:僕は小学校の教員です。小中の間で、学びが途切れてしまってるイメージがあります。小学校の教員として、高校のそうした学びに繋げていくために小学校のうちから経験できることなども意識するのは大事なのかなと思います。

探究学習の取り組み、広報で活用


淳心学院中学校・高等学校の進路指導部長の歌丸茂雄さんは、自身の広報の経験を語りました。

歌丸 茂雄先生(淳心学院中学校・高等学校、情報・探究・英語、進路指導部長)前任校までは入試広報や渉外業務に携わり、現在は広報部副部長を経て、進路指導に従事。現在は、特に進学指導的な観点から探究学習に取り組んでいる。10年前からクエストエデュケーションを通じて生徒の新たな学習ステージを提供し、「新しい学校の魅力」として注目されている。

歌丸:僕も実感として小学校時代までと中高との指導の違いを感じています。年齢的なこともあるかもしれませんが、やはり教室外にでることで 生徒たちは表情が変わってくる。何の成績にも繋がらないけれども、「先生以外の外部からの評価はどうだ?」みたいな活動によって、彼らはもっと面白くなる気がします。

私は大学を卒業してから公立4校、私立5校、そして3企業で働きました。現在は探究と情報と、英語の教員をしています。

歌丸:15年ぐらい前アクティブラーニングやキャリア教育が出てきたころ、私は英教師としてTT(ネイティブ教員と日本人教員のチームティーチング)の授業もあり、その先生が「幼稚園からShow & Tell(見せて、伝える)だよ」と言っていたのを覚えています。情報の時間にレポートを課していたのですが、普段「いろいろ面倒くさい」と言っているような生徒が発表のために自らボードを作り、レポート用紙43枚を提出したこともありました。

こうしたなか、私は「生徒に教室以外で活動できるステージを作ったらええんちゃうん」と思っていました。今の現場でいう「経験」です。

これらの取組は最終的に公募推薦(現在の学校推薦型・総合型選抜)の自己アピールの材料になります。医学部に関しては面接が必須なので、当然志望理由を書く必要があります。自分に関するプレゼンですから、探究学習をしていたことで結果に繋がるのではないかと思ってます。そしてそれを写真や動画におさめて、広報に活用する。

ただ当時は結果として定員は取れていませんでしたので、こうした取り組みがうまくいっているかどうかは正直わかりません。でも、もしそれらを広報に使っていなかったら、もっと減っていたかなと思います。

自分が広報にいたときの経験から、学校全体を巻き込むことの大変さは理解しています。「いやそこまでしなくても」「今まで集まってたんだから」など散々言われました。広報だけじゃなく、校長や副校長などの判断を仰ぐしかない部分も多々あります。

また広報をやっていて1年教育の現場から離れてしまうと、感覚が鈍ってしまうと思います。本当に難しい話ですが、広報担当の教員も、授業の担当は最低限持ちながらでないと、と思います。

金子:授業や部活を持ってその上で広報もというのは東京でもあり、一時期はものすごい根性でそれらを担い、生徒数を増やしたということが伝説的に語られていました。ですが今、広尾の場合は授業を持っている先生には、塾や中学校周りは担当しないことに決めました。広報専門のスタッフは事務職員が担当し、完全に分けました。

梅下:私立の小学校の先生の中には担任をしながら広報をされている先生方もいます。

でも先ほどの中高での広報のお話を聞いて、自分は「きちんと授業も広報も水準を保ってできるのか」と。授業も担任クラスも大事、となるといろんな「自分」を演じ分ける気もしていて難しいなあ、どうしようかな、と思っていました。

「ハッピー」へ向かっていく学校教育を、探究から


ノートルダム学院小学校学年主任の梅下博道さんは、小学校での探究学習の実践から見えてきたことを語ります。

梅下 博道先生(ノートルダム学院小学校、理科、学年主任)2007年度よりノートルダム学院小学校に勤務し、主に理科を教える。学びを通してHappyへ、子どもたちが自分事として、自己決定で進めるプロジェクト型、また子どもたちがワクワクするおもしろい理科の授業を目指して実践中。NHK for SchoolのGIGAサポ〜考える授業やるキット〜の理科の授業案を作成、ICT端末を活用しながら探究的な学びを行うプロジェクトに携わる。西日本私小連理科部会代表。

梅下:これまで6年生の担任を持つことが多かったので、進学担当として中学校の先生にお会いすることが多く、情報交換させてもらってきました。

学校は、「ハッピー」へ向かって行っていると思います。学校での学びをとおして、子どもたち自身が幸せに向かっていくためのきっかけに出会ったり、それも自分だけが幸せじゃなく周りの人も幸せにできることを考えたり。

うちの小学校での探究プロジェクトは、学びながら経験しながら、らせん状の階段を上がっていく意識を大事にしています。1回ではなかなか完成したと言えないので、低学年から6年生までの6年間で、総合の時間を使いながら経験できたらなと、ただいま挑戦中です。

本当にこれで力がついてるかどうか可視化できないですし、正直僕自身も全然わかっていません。ただやっていることは、明るい未来に繋がっているのではないかなという思いで接しています。

理科の動画を一つ作ることだけでも、理科の力だけではなかなかできません。完成までにどれだけ時間がかかり、どう逆算してやっていくかなど、本人が身につけていく大事な資質、能力の部分無くして、動画は作れないなと思います。

また、プロジェクトは1人ではなくグループでやります。チームでやっていくことで、それぞれの苦手を補い合いながらプロジェクトへ向かっていける。

金子:生徒たちの様子を見ていると、僕らの育った時代とはかなり違った感覚の気がしています。僕らの時代は、自分の得になることのために何かをやる、そういう世界観。今はそれだけだとかっこわるくて、貢献や共有がすごくかっこいいことと捉えられているように感じています。小学校ではどんな感じですか。

梅下:できるだけそういう機会を教育活動の中で設けているかもしれません。らせん階段を上がっていく探究は、中央に繋がってる力になっているなと思います。自分の時の感覚とは全く違うなと思います。

最初はそれ、何が面白いの?と思うこともありますが、生徒から話を聞いてみると「なるほど」と思います。生徒も先生がわかってくれたと思ったらそれに安心してまた次も話してくれるので、できるだけ話をしようと思っています。

探究って、生徒の募集に影響する?

ここまでの話を聞いて、参加者からチャットに質問や感想が寄せられました。「探究って、生徒募集に繋がるの?」をテーマに、メイン会場の登壇者とともに考えます。

ーー広報は「外にPRする力」だと思いますが、この広報力をもう少し解像度を上げるとどういうことでしょうか。

金子:どこの学校にもあるものをいくら出しても広報力にはならない。それだからといって、飛び抜けたものしか駄目なのではなくて。名称を変えるとか、何か違うように見えるように考えて、それを出していく。そのひとひねりが発信の力になっていくんじゃないのかな、と思います。

僕らが広報するとき、流行してることは基本的にやりませんし、みんなが使う言葉は使いません。同じものを使わざるを得ないときには何かそれに似たような言葉で、うち独自みたいなふりをします。 

広報的価値の高い活動は、教育価値も高いという仮説で進めています。人々に訴えかける力が強い教育活動は教育としてもいいものであるはずだ、という。

歌丸:広報力には、とりあえず色が必要。いわゆる学校を宣伝する上での独自性です。登校して楽しく授業を受けてクラブ頑張って試合出て、行事に参加して卒業する、だと「全部あたりまえやんか」となる。放課後に補習をやってますというメッセージも「いやいや、どこでもやってる」となり、色にはならない。

探究もそうですが、クエストカップの探究とは説明会で言いません。クエストの方をキャリア探究、もう一方はアカデミック探究、と名前をつける。そういう名前付けは必要なんだろうと思います。学校独自の色にしていくためには。今話を聞いて正解かなと安心しました。

梅下:小学校の保護者の方は共感してもらえる、評価してもらうことが大切です。生徒の姿を見て「ここに預けたら安心」「うちもこういう子に育ってほしいな」と広報を通して思ってもらうのが大事なのかなと。

ーー質の高い探究のためには教員の知識や技能が必要、と感じています。自分自身も含めてその力をつけるためにはどうすればよいかいつも悩んでいます。

梅下:答えはないですよね。綺麗事と思われるかもしれないけれど、子どもたちと一緒に走って、背中を押しているような形で、自分自身も学んで知っていってもいいと思います。全て知ってるからできるものでもないから。

歌丸:やり方はいろいろあると思いますが、僕の場合、最初に型にはめてしまう。まとめ方も、相談の仕方も、会議の仕方も考え方も全部やった上で、あとは任せた、でやる。

生徒は自分で応用をきかせると思うので、その手の本をある程度調べ倒して研究会や勉強会にでて、というのはありなのかなと思います。

金子:広尾には3つコースがあります。インターナショナルコース、普通科系、そして医進サイエンス。これがまさに探究で、まだ数学や理系の分野で論文が発表されてない、つまり誰も明らかにしていないものでないとテーマに選んでは駄目という。だから最初、2本分日本語と英語の論文を当たっていく。ここから先は誰も研究してないぞ、と。

教員はこの論文がいいんじゃないかといったサポートはしますが、優位には立ちません。生徒も教員もわからないテーマなので、フラットな状態で支えます。でもおそらくこういうふうに考えながら悩みながら進んでいく経験は振り返ってみたら確実によいはずです。悩み続けることが成長に繋がるのだと思います。とにかく、生徒の上じゃなきゃいけないというところは、今一度考え方を変えた方がいいのではと思います。

ーー今の小学校には、英語、プログラミング、AIなど、新しいものがすごい勢いで入ってきている。こうした新しいものが入ることで、生徒の能力が可視化できるチャンスにもなると思います。小学校ではそうした能力をどう評価されてるのかが気になっています。

梅下:なかなかペーパーテストでは現れない力だと思います。目に見えない情報の中に大事なものがあるとわかってきたなかで、現場でそれをどう評価していくかは課題です。目に見えない力を具体的に評価することで、すごく伸びる子がいたり、好きなものを発見したりする子がいるので。

あとは、その学校で大事にしている部分を入学試験などでも見てもらえるとありがたいなと思います。学びってそもそも楽しいもので、苦行にならないシステムがこれから先すごく大事になってくる。

これからの学校の魅力作りを考える

金子:広尾が共学化して間もない時期、塾などでの進路相談では「共学になったばかりでどうなるかわからないから入学はやめた方がいい」と言われるのが一般的だったようです。

実際は説明会でいかに保護者の期待値を高められるかがカギを握っていました。以前、推薦入試で女子短大とか女子大に推薦で入る生徒が多かったので、それまでの進路指導は面接指導が中心で、大半の教員は、筆記試験対策のノウハウを知りませんでした。だから共通センター試験をみんなで受けるところから研修を始めました。僕も受けてました。その時に撮影した動画や画像をあえて説明会に出したんです。研修で教員が大学入試問題を解いているいる様子を。これがかなりインパクトがありました。保護者はそれを見て、試験させる側の教員がこういう形で学んでいるのは面白いと喜んでいただきました。

ーー先生方の反応は?

金子:嫌がっていました。でも教員が一番嫌なことをやってそれを保護者の方に見てもらうなかで世間の期待が高まった。本当に自分たちは何も知らないから、「本気にならないといけない。」という覚悟でやってましたね。

梅下:うちの学校では、保護者に子どもたちの姿をみてもらおうかなと思ってます。

本当に正解が何かわからない状態なので、来てもらってた保護者にとって「こういうお兄さんお姉さんになっていくんやな」という姿を見てもらうことしかない。そこに共感してもらえた人は来てくれると思っています。

金子:「教員もアップデートしてます」ということをしっかり伝える、これも大切だと思いますし、生徒の成長の様子とか学校の雰囲気を伝えていくことも、主体的な関わりを含めて広報ではとても大事じゃないかと思います。
あれこれ言うよりも、1枚の写真の方がわかりやすい。映像を作るにしてもただ漫然と取るのではなく、生徒たちが活躍している一番かっこいいところを編集する、ことを徹底してます。

ですが最後は進学実績。進学実績はいい教育活動をしてるなら上がる。上がらないならば絶対に何かがずれているはず。そうやって成果を上げながら、いろんな探究型の教育活動をやっていく。

広尾学園は進学実績が出ないときから受験生数が増えてしまった。受験生の保護者の意識がかつてとは変わってきてる部分はある。ただし、僕らにとってはやはり進学実績は大事です。進学と教育内容の両面で魅力を作っていくのが大事ではないかなと思います。

【参考】
「働くこと」の意味に向き合う。探求型職場体験サポートブック「ジョブトライアル」
自ら課題を発見し、その解決を探究する「ソーシャルチェンジ」
探究学習はじめの一歩!【実例】探究学習のテーマ16種
「探究学習」の最先端 教育と探求社の総合パンフレット
教員向けイベント情報

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