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ジェームズ・レッドフィールド『聖なる予言』にて

この書物には、心理学者・河合隼雄さんの解説があります。

近代科学が偶然を嫌ったので、その影響を受けて、近代文学も偶然を嫌うようになった。うまい偶然でハッピーエンドになるのなどは、十八世紀のオペラでは許されたが、近代文学では、偶然にうまくゆくようなお話は敬遠されることになった。(もっとも、実際には思いがけない偶然の一致ということが、人生でどれだけ大切かは、私のように生身の人間にかかわる仕事をしていると、よく体験するのだが)そこで、文学者は偶然を排除しつつ、何もかもおきまりのではない作品をかく、という難しい仕事に直面しなくてはならなくなった。しかし、このような難しいことに挑戦してこそ、よい文学作品が生まれてくる、とも言える。――p.408「近代科学の枠組を離れて」

『聖なる予言』は、次のように、行って帰る物語です。
ペルーへの旅立ち・・・神秘体験・・・アメリカへの帰国

その構造は、言語学者・井筒俊彦さんが説く次の構造と相似します。
分節(Ⅰ)・・・無分節・・・分節(Ⅱ)

神秘体験をした主人公は、現実世界の見方が変わるのです。
現実世界(Ⅰ)・・・五次元の意識・・・現実世界(Ⅱ)

五次元の意識とつながれば、個性を発揮して、エネルギーを流すことやエネルギーの流れに乗ることに集中できます(第三章→第七章)。すると、誰かのエネルギーを奪う必要がなくなるので、権力闘争が解消するし(第四章→第六章)、子供のエネルギーを支配して、子供の内に秘める男性性と女性性のバランスを崩すこともなくなるのだ(第二章→第八章)。

五次元の意識が浸透すれば、「偶然の一致」に「新しい知恵」を見出す能力が身について、私自身が、現実世界の共同創造者であることを思い出すことになるのだろう(第一章→第九章)。

さて、次の引用には、言及しておかねばならない。

私たちは両親から肉体をもらっただけではありません。霊的なものも受けついでいます。あなたはこの二人の間に生まれましたが、両親の人生はあなたが何者かということについて消しがたい影響力を持っています。本当のあなた自身を発見するためには、本当の自分は両親の真実の間から始まっていることを、認めなくてはなりません。それがあなたが二人の間に生まれた理由なのです。彼らがどんな生き方をしたか、高い視点から見ることです。あなたのゆくべき道は、両親の信念をより高い次元で統合した真実を探究してゆくことなのです。――p.219

その「本当の自分」とは、霊魂のことではありません。

個人に宿る霊魂は高次元にあります。だから、自分を俯瞰することができるのだが、そんな高次元の霊魂が、人間という表現形態を通して学ぶ基軸として、パーソナリティ(社会的個性)を設定しています。

「本当の自分」とは、そのパーソナリティのことです。

以上、言語学的制約から自由になるために。