新説: 最後の審判 2. 将棋ルールの整理

1. ギミックの解説 で述べた通り、最後の審判は「打ち歩詰め」(うちふづめ)と「連続王手の千日手」の2つのルールを組み合わせたところが肝である。したがって、その成否を議論するには、少なくともこの2つのルールを正しく理解する必要がある。ここで理解というのは、一般的な将棋のルールとしての理解では足りず、ルールブックの内容を詳細に読み解く必要がある。

この記事では前段として、将棋のルール全般について整理する。

ゲームの「ルール」とは?

そもそも、対戦ゲームのルールとはなんだろうか、整理してみよう。とはいっても手広くゲーム一般のことを論じる必要はないから、ここでいうゲームとはなんとなく「将棋のようなゲーム」(囲碁、オセロ、チェス、etc...) を思い浮かべてほしい。

a. 局面(状態), 初期局面

まず、「状態」が定義できる。将棋ではこれを局面という。将棋の局面は、まず手番が存在する(先手, 後手という)。そして、9x9の将棋盤と先手後手それぞれある駒台に駒がまっすぐ配置されている。1マスに駒が2枚重なったり、横向きに置かれたりすることはありえない。そのような状態は、局面の集合に含まれない。

そして、初期局面が定義される。将棋における初期局面は以下で、手番は先手である。

画像1

b. 指し手 (Move)

指し手は、ある局面から次の局面に遷移させるものである。将棋の場合は、駒を動かす。ここでは表記は正式とは違うが、「先手8五→7三桂成 」のように、手番・動かす元のマス・動かす先のマス・駒の種類・成(裏返す)かどうか、で表すものと考える。「投了」(負けの宣言)も含まれる。

c. 終了条件と結果

指し手が行われた結果、そのゲームが終了するのはどんなときか、また、終了後の結果はどうなるか。将棋の最も基本の終了の仕方は、どちらか一方が「投了」(負けの宣言)をすることであり、投了を宣言した方が負け、相手が勝ちになる。また、千日手という条件を満たすと終了し、引き分けになる。

将棋の基本ルールとその分類

将棋ガイドブック (日本将棋連盟, 2003) にて、「将棋の基本ルール」としてルールの解説があり、以下の17項目に分かれて説明がある。

1. 対局
2. 対局者
3. 駒を初型に配置
4. 駒の存在とその空間
5. 各空間の駒の存在数
6. 駒の動きと性質
7. 指し手
8. 指し手の種類
9. 取る
10. 成る
11. 駒の帰属
12. 指し手の完了
13. 局面の定義
14. 盤上の駒と持ち駒の関係
15. 王手と詰み
16. 特に決められた禁止事項
17. 終局

これらの項目は基本的に a.局面/初期局面 b.指し手 c.終了条件と結果 に分類される。(1-5, 11, 13, 14)がa, (6-10, 12)がb, (15-16)がbとc両方に関係し, 17がcである。

指し手の分類: 合法手と禁じ手

将棋には「合法手」という概念がある。合法でない指し手を指すと、反則負けになる。

数学的な言葉を使うと、まず指し手の集合があって、合法手はその部分集合ということになる。ここで、どこまでが「非合法な指し手 (禁じ手)」で、どこからが「そもそも指し手と認められない」のかという問題がある。

代表的な反則負けである「二歩」(歩を縦の列に打ってしまう)は、将棋ガイドブックにも「指し手」であると明記されている。

直後のリアクションが好きすぎて何度も見てしまうやつ。どっちが二歩うったのかわからんでしょw

他にも、本来動かしてはいけない場所に駒を動かす、というのも「指し手だが合法手でない」と言える。

角はナナメ方向に複数マス動かせる駒だが、途中にある駒を飛び越えては動かせない。その反則をしてしまったことを菅井さん本人が振り返っている動画だ。この反則の後、相手の橋本八段は「そんな上手い手があったか」と思い、両者気づかない状態であった。その後 "その角はどこから来ましたか" と記録係に指摘されて初めて気づいたそうだ。

完全に余談だが、自分もとある将棋大会の決勝戦でこれと全く同じ状況になったことがある。相手に二歩を打たれ、そんな上手い手があったかと長考。そのあと数手進んだ局面で、周りから指摘が入って反則に気づき、自分の勝ちになり優勝した。その歩を取るか取らないか悩んで取らなかったのだが、もし取っていたら誰も二歩に気づかなくなるので、そのまま負けていただろうw。

将棋ファンとして一応補足すると、この二例の反則はいずれもトップレベルの棋士によるものである。プロ棋士なら反則をしないなんてことはなく、むしろ深く読みすぎたせいで反則をしてしまうなど、アマチュアには分からないような世界があるのだ。

指し手に含まれない反則負け

話を戻す。二歩や、本来動かしてはいけない場所に駒を動かすというのは、指し手には含まれるが非合法の指し手であり、反則負けになる。一方で、例えば以下のような行為は反則負けになるが、これらは将棋ガイドブックによるとそもそも指し手の中に含まれない

二手指し (相手の手番なのに駒を動かすこと)
待った (指した手を撤回すること)

他にも、極端なことを言うと対局中に相手を殴ったら負けになるだろうが、そういうのはまあ当然指し手には含まれないわけで、どこかに線引きがあるのは自然なことである。

終局

将棋ガイドブックによると、終局の条件は5つある。

1. 王を詰ます (王手をしている方が勝ち)
2. 投了 (負けの宣言。投了した方が負け)
3. 入玉 (これ以上続けても詰みに至らない局面。合意によって終了し、駒の点数で勝敗を確定する)
4. 千日手 (同一局面が4回出現すること。引き分け)
5. 反則負け

また余談だが、将棋ファン目線の話をすると実は 1 が意外だった。詰んだら詰まされたほうが投了して終わるのが通例なので、特別に定められているとは思っていなかったが、ルール上厳密には詰んだ局面の時点で対局が終わっているらしい。

さて、この中で今回のテーマにおいて重要なのは5の反則負けだ。以下に一部を引用する。(残りは本筋に関係ない付則なので無視する。強調は筆者による)

五、反則負け
前述の規則に反した場合、または『16項目』の禁じ手を指す、または禁じられた局面が出現した場合は、(略)その時点で負けとなる。

禁じ手というのは非合法な指し手のことですでに紹介した。では「禁じられた局面」とは何なのか。

これは実は「最後の審判」の主題にかかわるルール、「連続王手の千日手」のことを指している。

しかし、一体なぜわざわざ「禁じ手」と「禁じられた局面」というふうに別々の表現を使っているのか。それには明確な事情がある。これは最後の審判の成否を決定する重要な鍵になるので、次回掘り下げて行く。

まとめ

・ターン制対戦ゲームのルールは、状態・初期状態 / Move / 終了条件 の3つから成る。将棋ガイドブックのルールの各項目も、その3つに分類できる。
・将棋のMove=指し手には、合法手と禁じ手がある。
・将棋の終了条件のうち「反則負け」は、基本的に、禁じ手を指したか、または"禁じられた局面"が出現したときである。

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