優先度の誤謬

僕は夜シャワーを浴びずに朝シャワーを浴びることが多い。

その理由はこうだ。まず、なんらかの理由で夜シャワーを浴びずに寝てしまったとする。そうすると朝は体が気持ち悪いので、シャワーを浴びる。夜になると、「今日は朝シャワーを浴びたし、まあいいか」と思って、シャワーを浴びずに寝る。しばらくそのループが続く。

しかし、本当は夜シャワーを浴びてから寝る生活スタイルのほうが、自分の幸福度は高いのである。しかも、朝浴びても夜浴びても頻度は1日1回、労力は変わらない。

だったらなぜ夜シャワーを浴びるべきだ。たまに失敗して寝落ちして朝浴びても、その日だけまた夜浴びればいいだけだ。大局的にみれば間違いなくそうだし、これを書いている今もそう思っている。

残念ながら実際にはそうはならない。なぜなら、朝シャワーを浴びた日の夜、その瞬間において、シャワーを浴びる行為は「優先度が低い」と感じるからだ。少なくとも朝シャワーを浴びたので、いまその瞬間は気持ち悪く感じていない。だったら他の娯楽に時間を使おう、となってしまうわけだ。

ソフトウェア開発の文脈

いつシャワーを浴びるかなどというくだらないテーマについて長々と書いてしまったが、これはソフトウェア開発の現場でも起こる。

たとえば、Webアプリケーションフレームワークのアップデート。基本的には、新しいものが出てからすぐにアップデートしたほうがいい。日々進歩していて、アップデートするだけでも速度的にメリットがあったりする。しかし、たいていは優先度が高くないと判断されたまま、サポートが切れそうなタイミングになって始める。先にやっても後にやってもコストは変わらない(むしろ後にやったほうが増える)にも関わらず。

緊急度と重要度

優先度を、緊急度と重要度に分解したマトリクスで表すパターンがある。そして、緊急度高・重要度高は誰でも注力する。両方低ならやらない。ここまでは当然だ。

問題は、緊急度高・重要度低のものに振り回されすぎて、緊急度低・重要度高のものがおろそかになりがち。だから、緊急度低・重要度高にしっかりとフォーカスするべきだ、というのが結論になる。

上の話ではどうだろう。夜シャワーを浴びるのはたしかに緊急度は低い。では、重要度は高いのか? Webアプリケーションフレームワークをアップデートするのは、重要度は高いのか?

たぶん、高い、と答えるのが正しいのだと思う。しかし、例えば他のビジネス価値を生む実装と比べて、どちらが高いかと言われると、だいたい困ってしまうのではないか。

優先度ではなく習慣を

緊急度と重要度、という概念を持ち出しても、個人的にはしっくりこないときがある。それよりも、「常に夜シャワーを浴びたほうが、常に朝シャワーを浴びるよりも、幸福になる」「常にWebアプリケーションフレームワークのアップデートは早めにやったほうが、常にサポートが切れる直前にやるよりもメリットがある」という事実のほうが直感的に理解できる。

そういう事柄については、いちいち優先度を判断するのではなくて、習慣化してしまえばよいのではないか。夜シャワーを浴びないのは、その日その日で優先度を判断しているからだ。そうではなくて、自分は夜シャワーを浴びると決める。そこでは価値判断をせずに、単に行動する。Webアプリケーションフレームワークの新しいバージョンが出たら、すぐにアップデートすると決める。そういう個人や組織の習慣にする。

まあ、考えずに行動する、というのはデメリットもある。ある特定の日では、シャワーを浴びるよりも夜のうちに優先してやるべきことがあるかもしれない。限度を越して硬直化してしまうかもしれないような、習慣化の負の部分にも自覚的になっている必要はあるか。

noteの通貨流通量を増やしていきたい!!