死を遠ざけるのではなく、生を高めるのが医者のつとめだ
日本でも、アメリカでも、病院に行くと、患者の顔を見ないでパソコンを見ながら問診する医者が多くいる。
そんな中で、患者目線で接する医者がいた。彼の名前は、ハンター・パッチ・アダムス。
しかし、これでは面白くない。ハリウッドは、奇想天外でクレージーな男に仕立てて映画化した。
いい映画だと思ったら「感想文」で鑑賞をお誘いするのが普通。でも、この映画は、ロビン・ウイリアムスがはしゃぎすぎ。途中で不愉快になるくらいの出来。
じゃあ、書くな。ですが、脚本家ではなく、実在の主人公の生き方が素晴らしいので書きとどめます。
この映画をひとことで言えば「患者の気持ちに寄り添う良心派医師と、上から目線の権威派医師が戦って、良心派が勝つ」という道徳の教科書のようなつまらない話です。
そこで、ハリウッド流集客力アップの”脚色”になる。しかし、主人公のモデルになった、ハンター・パッチ・アダムス(以降アダムス)は、不満だった「誇張につぐ誇張で、これじゃあ、単なるクレージーな医者だ」。
映画プロデューサーは、そんなことにはお構いなし。奇想天外なスタンドプレーで、はらはらドキドキさせる医者で、ストーリーを盛り上げることにした。
ここからは、ショウアップされた脚色を削り、アダムス本人の生き方をご紹介します(これじゃあ、映画評ではないと怒る方は、ここでお終いです)。
アダムス本人は、22歳で大学卒業、26歳で医科大に入学している。
ロビン・ウイリアムスに合わせて、映画では47歳で医科大学に入学と変えた。
医科大学入学のきっかけまでは、映画通りの事実。
20歳で自殺未遂のアダムスが、自主的に精神病院に入った。そこで、リスを幻想で見て、一晩中叫ぶ男と同室になり、その幻想を消すために、二人が指鉄砲でリスを退治した。
リス男を治したことで、患者目線の治癒力を実感した。これを医学で活かしたいと、アダムスは医者を目指す。
ところが、3年生にならないと、インターンとして医療現場に出れない。アダムスは不満。病棟にこっそりもぐり込む。
患者目線で治そうと試みて成功したりする。これは偶然ではなく、患者の血や尿にまみれて苦労している看護師の体験観察をよく聞いて、対処していた。
例えば、いつも怒っている看護師泣かせの患者に、患者目線で心療内科医のような心くばりをした結果だった。
とにかくアダムスは、1日でも早く多く臨床例を積み重ねて、医師免許を取得したかった。
そんなとき、偽医者体験中に気に入られた大金持ちの患者が、広大な病院敷地をアダムスに提供してくれた。
もちろん、アダムスに病院は開設できない。保険を持たない患者とかが任意に集まってくるコミュニティのような、療養所なら出来る。そして、出来た。
しかし、インターンが、精神異常の患者に銃撃されるという事件が起きて、この
施設の存在が広く知られてしまう。
偽医者の医療行為が、大学の学部長にバレた。退学を強いられる。成績はいつもトップクラスだったのに、退学は承服しかねると、州の医師委員会に訴えた。
医師委員会の裁定の場には、アダムスのおかげで元気になった少年たちも詰めかけ、感謝の意を表した。
裁定の場などを通じ、アダムスが言った言葉をご紹介:
・情熱を持ち、不可能だと思っていた夢を見る
・ひとをケアする理由はただ一つ。人間を愛しているからです
・ケアは、愛を動詞化する。ケアは概念ではなく、行動です
・ひとを思いやるという人生を送ることによって、あなたは自分のなかで
一番深い平和と安らぎを得る
・”笑い”が健康に有効であるという科学的証明は少なからずあるが、
それを上回るのが、”友情”である
・生きていることをのぞけば、私たちは塵みたいな存在であり、生きていることに意味を与えるのは私たち自身しかない
・患者のクオリティ・オブ・ライフを高めるのが医者の仕事だ
・”死ぬ”ということは、死を迎える直前の数分間の出来事を指すのである。
それまでは、人は生きている
・死は敵ではない。病気と闘う戦場での一番の敵は”あきらめ”です
「成績優秀な学生を卒業させないという感情的な判断で、我々の手をわずらわせないように」と、医師委員会が学長に釘を刺した。医学生アダムスに卒業証書が授与された。
卒業後12年間で、アダムスは開設した無料クリニックで、15,000人の治療をほどこして、現在も活躍中。
⭐️
この映画が医者の卵を啓発して、患者の”クオリティ・オブ・ライフ”を考えて治療にあたる医師が増えることを望みたい。
・「この映画は大嫌いだ」主人公のモデルのアダムスは、酷評した。
・また、「ロビン・ウイリアムスが、私もどきを4ヶ月間演じることで、2,100万ドル稼いだ映画だ」とも言った。
・「彼が稼いだ金を全国の無料病院に寄付してくれたら、8,000万人の治療を受けられない病人を助けられたのに」と不満も言った。
・ところが、2014年、ロビン・ウイリアムスが亡くなってから、彼が小児科病院に数年に渡って寄付していたことを知った。アダムスは、前言を撤回し「ウイリアムスを嫌っていたわけではない。彼の映画のおかげで、我々の病院の寄附が集まりやすくなった」と訂正した。
・事前に台本を取り寄せて出演を検討できる立場にあるロビン・ウイリアムスが、なぜ駄作を選んだか。ジム・キャリー出演の大ヒット作「ライアー、ライアー」の出演を断っていたロビン・ウイリアムスは、「パッチ・アダムス」の出演を台本も読まずに決めたことにある。
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