「2121年 Futures In-Sight」展に寄せて
現在21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「2121年 Futures In-Sight」展にQosmoが参加。朝日新聞社メディア研究開発センターとのコラボレーションによる新作『Imaginary Dictionary』を展示しています。この記事では、作品の制作経緯や背景について紹介します。
「2121年 Futures In-Sight」展は、「Future Compass」(未来の羅針盤)というツールをきっかけに、未来を思い描くだけでなく、現在を生きる私たちの所作や創り出すものに内在する未来への視座を、デザイナーやアーティスト、思想家、エンジニア、研究者など、多様な参加者たちとともに可視化していくことを試みるものです。出展作家は「Future Compass」をもとにそれぞれの問いを決めています。私たちは「どうやって(How)」「未来たち(Futures)」「想像する?(Imagine?)」を選び、『どのように未来たちを想像することができるか?』という問いを設定しました。そして、この問いに対し、『Imaginary Dictionary』という作品を制作しました。
『Imaginary Dictionary』は、未来に存在しているかもしれない言葉のみが掲載されている辞書です。過去30年の新聞記事データを学習したAIが新語を推測・生成しています。架空の言葉から多様な未来を想像させることを目指しました。
以下は『Imaginary Dictionary』に掲載されている新語の一部です。
本作は朝日新聞社メディア研究開発センターと共同で制作しました。作品のアイデアを実現するために、筆者の元同僚でもある朝日新聞社メディア研究開発センターの浦川通さんに相談したのがきっかけです。大量の新聞記事データに加え、自然言語処理の研究者が集まる朝日新聞社メディア研究開発センターとコラボレーションできたことで、作品のクオリティがグッと上がりました。役割分担としては、企画・ビジュアライゼーションをQosmo、新語推測・生成を朝日新聞社メディア研究開発センターが担当しています。筆者は主にアートディレクションを担当しました。
新語推測・生成の技術的な解説ついて朝日新聞社メディア研究開発センターの浦川さんと新妻さんによる記事がありますので、ぜひご覧ください↓
本記事では、作品のアイデア・発想という観点から『Imaginary Dictionary』を制作するにあたり参考にした事例をいくつか紹介します。
How Did Shakespeare Invent So Many Words?
DMM英会話の人気教材であるデイリーニュースの記事『How Did Shakespeare Invent So Many Words?』が作品のアイデアになっています。シェイクスピアが発明した"bedroom" "birthplace" "watchdog" など数百を超える英単語について、それらがどのような手法で発明されたか紹介している記事です。最後の段落では、現代においてもシェイクスピアと同様の方法で新語が作られており、2021年には「(SNSなどで)情報を過度に共有する」という意味の"overshare"がオックスフォード英語辞典に追加された、と言及されています。
この記事を読み、2121年の未来にはどんな新語が生まれているのだろう、まだ存在していない架空の新語から未来を想像することができるのはないか、と考えたのが作品の出発点です。
また、本作ではシェイクスピアと同様の手法で新語を生成しています。例えば、「家庭ノマド」「学校ステーション」「スマートアウトドア」「高齢化難民」など多くの新語は2つの単語が組み合わせられています。
2つの単語を繋げるだけでなく、「Breakfast (朝食)」+「Lunch (昼食)」=『Brunch (ブランチ)』のように一部合成して作られた語を『Portmanteau(かばん語)』といい、これはルイス・キャロル「鏡の国のアリス」が由来になっています。日本語でも「レター」+「ファックス」=「レタックス」、「ようやく」+「やっと」=「ようやっと」などのかばん語がありますが、「ブランチ」のように一般的に使われている単語は少ないです。
PSYCHO-PASS サイコパス
私たちは日常的に架空の言葉と接しています。アニメやゲーム、映画、小説などのフィクションには物語の世界観や設定のために架空の言葉が定義されており、特にSFでは科学的な空想に基づいた、未来で使われているかもしれない言葉を多く見ることができます。これらは物語を構成する断片のようなものですが、物語から切り離して言葉だけに着目した時、その言葉が現実になっている未来を想像することができるのではないかと思いました。
例えば、2012年に公開されたアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』では「犯罪係数」「潜在犯」などの言葉が定義されており、意味は以下です。
現実にあってもおかしくない言葉ではないでしょうか。実際に「犯罪係数」や「潜在犯」が現実になっている未来はもうすぐ訪れるかもしれません。AI監視社会における21世紀のカモフラージュを開発しているテキスタイルレーベル「UNLABELED」は下記のように問題提起しています。
このAI監視社会の延長線上として、アニメの架空の言葉であったものが現実になっている世界をよりリアルに想像することができるでしょう。
この他にも、「バベルの図書館」「ジョージ・オーウェル『1984』」「This Word Does Not Exist」などの事例を参照しながら、作品を構想しました。
この記事を通して『Imaginary Dictionary』に興味を持っていただけたり、理解を深めていただけたら幸いです。「2121年 Futures In-Sight」展では、数百の新語をブラウジングするためのWebアプリも展示していますので、ぜひ未来を想像してみてください。
「2121年 Futures In-Sight」展
会期:2021年12月21日(火)- 2022年5月22日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
休館日:火曜日(12月21日、5月3日は開館)年末年始(12月28日 - 1月4日)
開館時間:10:00-19:00(入場は18:30まで)*入場予約制の可能性あり
入館料:一般1,200円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
Imaginary Dictionary -未来を編む辞書:クレジット
コンセプト:Qosmo, 朝日新聞社メディア研究開発センター
企画・データドラマタイゼーション:Qosmo
・Art Director:堂園翔矢
・Lead Engineer(Data Visualization):ロビン・ジャンガース
・Engineer(Data Visualization):中嶋亮介
・Designer:伊勢尚生
・Project Manager:安江沙希子
・Supervisor:徳井直生
新語推測・生成:朝日新聞社メディア研究開発センター
・Technical Director/Language Modeling:浦川通
・Data Scientist:新妻巧朗
・Supervisor:田森秀明
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