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「開業当時の自分に伝えたいこと」を聞いてみた /教育事業 田口優介

開業1年目の方に向けた本インタビュー企画。

インタビューでは個人事業主やフリーランスとして活躍されている先輩方に、開業当時の思い出や苦労、そこからの学びなどを尋ねます。
普段あまり知られることのない開業、そして個人事業成功の秘訣とは何か?を探っていきます。

今回は宇宙用作業ロボットの研究開発・製造を行うベンチャー企業に勤めながら、未来の宇宙事業を担う次世代リーダーの育成事業に副業で携わる田口 優介さん。一度は宇宙への夢を忘れかけたものの、40歳手前で宇宙業界に再チャレンジ。今でも宇宙に行く夢を持ち続ける田口さんに、現在に至るまでのいきさつや宇宙業界の裏側などについてお話をうかがいました。

聞き手:工藤京平(freee株式会社)

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次世代リーダーと宇宙飛行士のスキルは共通している

工藤:
宇宙飛行士の訓練インストラクター経験を生かして副業しているとのことですが、詳しく聞かせていただけますか?

田口さん:
宇宙やロボット業界で、グローバルに活躍できる次世代リーダーを育成するプロジェクトに携わっています。「Mothership Project」というもので、私は講師として参画しています。

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工藤:
宇宙飛行士への憧れはあっても、現実的な選択肢になりづらいイメージがあります。

田口さん:
宇宙飛行士になるために身につけるスキルは、社会人として成功するためにも必要なもの。「Mothership Project」では、未来の宇宙飛行士を育てることをひとつの目標として活動していますが、実際に宇宙に行けなくても、宇宙関連の仕事はたくさんあります。宇宙と関係ない仕事でも、得たスキルは社会人としても絶対に活かせる。憧れで終わらせず、ぜひ積極的に挑戦してほしいですね。

工藤:
「Mothership Project」では具体的にどんなスキルを学べるのですか?

田口さん:
英語でのコミュニケーションの取り方や、リーダーシップとフォロワーシップについてなど、必要なスキルを一貫して学べるプログラムを作成しているところです。

国際宇宙ステーションではチーム単位で動くことが当たり前で、リーダーの一人ががんばれば良いというものではない。共通の目標に向かって、一人ひとりがチームに貢献しようというマインドが求められます。とはいえチームメンバーはバックグラウンドも様々。同じ常識が通じること自体がありえないことを理解しないといけません。

工藤:
確かに、各国から様々な人材が集まりますもんね。

田口さん:
外国人が相手だと「違う」という前提から入ることも多いですが、日本人同士など共通項があるほど常識が通じると思い込みやすい。結婚十数年の妻とだってそうですよ(笑)。

自分が当たり前だと思っていることを伝えても、実はほとんど通じていない。どんなときでも違いがあることを当たり前ととらえ、その上でどんなコミュニケーションをすると共通認識がもてるか、といったことを講座で教えていく予定です。

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宇宙飛行士は生きて帰ってくることが一番のミッション

工藤:
宇宙飛行士の訓練インストラクターって想像がつかないのですが、何をするんですか?

田口さん:
宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に行くことが決まると、ISS全体についての知識が必要になります。ISSはそれぞれの国がつくった部分でなりたっていて、訓練はそれぞれの国で実施します。私の仕事は、各国からきた宇宙飛行士に「きぼう」日本実験棟の操作や実験方法を訓練することでした。それぞれに専門分野が分かれていて、私はコンピューターなどの制御系、通信系、電気系を担当していました。

ISSでの様々な操作や実験などの実務はもちろん、宇宙飛行士として一番重要なミッションは生きて帰ってくること。問題が起きたときにどう対処するか、緊急事態にどう対応するかについても、宇宙飛行士に訓練していきます。

工藤:
教えるための知識をどうやって身につけるのですか?

田口さん:
インストラクターには宇宙飛行士の経験者がいないので、やったこともないことを教えることになります。野球だとありえないですよね(笑)。

マニュアルや先輩から教わりながら、宇宙飛行士を訓練するために必要な細かい専門知識を習得します。

ガンダムを作りたかった少年時代

工藤:
宇宙飛行士の訓練インストラクターになるまで、どんなキャリアの変遷があったのですか?

田口さん:
昔から、宇宙が大好きでした。幼い頃にスターウォーズやガンダムが流行りはじめ、宇宙関連のおもちゃを大事にしていたようです。4歳から14歳までアメリカで過ごしましたが、1980年代当時はスペースシャトルの黄金時代でした。宇宙の話題が日々ニュースを賑わせ、子どもたちの将来の夢は、大統領か宇宙飛行士。少年時代から漠然と憧れがあり、いつか宇宙へ、と夢見ていました。

工藤:
大学も将来宇宙飛行士になることを想定して選んだのですか?

田口さん:
そうです。受験の頃は日本にいましたが、宇宙への思いは続いていました。ガンダムつくりたいな、くらいの漠然とした夢はありましたが、まだ方向性までは固まっていなかった。

工藤:
(夢が壮大……)

田口さん:
その頃、ハッブル宇宙望遠鏡についての本をたまたま読みました。ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた映像をみて、直感的に美しいとは感じたのですが、これは何なのかが理解できなかったんです。その未知のものを理解できるようになりたいと思って天文学の道に進むことにしました。

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宇宙飛行士を身近に感じ、現実的な目標に

工藤:
やはり宇宙関連事業の中でも「宇宙飛行士」を希望されていたのでしょうか。

田口さん:
宇宙にいくことは夢のまた夢のようにも思われますが、ぐっと身近に感じる機会があったんです。

博士課程1年のときに国際宇宙会議(IAC)に選抜学生として参加する機会がありました。IACとは、毎年行われる世界で一番大きい宇宙のカンファレンスです。開催地は毎年変わるのですが、その年はたまたまNASAのジョンソン・スペースセンターがあるアメリカのヒューストンでした。そこでの最終日の夕食会で、宇宙飛行士の野口聡一さんとお話する機会を得ました。

工藤:
凡人には到底想像できない機会ですね……。

田口さん:
野口さんのお話を聞いて衝撃的だったことが2つあります。

ひとつは、思いがけず応募条件を満たせそうだということ。当時通っていた博士課程を修了して無事卒業すれば満たすことがわかりました。募集がオープンになること自体がまれなだけで、募集さえ始まればいけるのではないかと(笑)。

もうひとつは、野口さんも同じ人間やん!ということ(笑)。それこそ空の上の人で、偶像みたいなものだと思っていましたが、私と同じ生身の人間。いつまでもアイドルだと思っていたら届かないかもしれませんが、一度身近な存在に感じると現実的な目標になりました。

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工藤:
野口さんとの出会いをきっかけに、本格的に宇宙飛行士を目指されたのですね。

田口さん:
ぐっと現実感が湧いてきましたね。OB訪問で宇宙飛行士の訓練インストラクターの仕事があることを知り、まずは宇宙飛行士に近いその仕事に就こうと。そしてJAXAと有人宇宙システムを受けましたが、結果は、みごとに砕け散りました。

他にも宇宙関連の企業を受け、内定をもらったところもありましたが、あまりしっくりこなかった。結婚したこともあり、家庭を支えたい思いも。そこで冷静になり、いったん宇宙から離れて自身の幅を広げる選択をし、一般企業に就職しました。

工藤:
そこから宇宙関連の事業に戻ってきたきっかけは何だったのですか?

田口さん:
何回か転職し、社会人としてのキャリアアップも順調ではありました。そうして宇宙への思いが薄れはじめていたある日、運命的な出会いがありました。博士課程時代に参加したIACの選抜同期とたまたま再会したんです。彼女は有人宇宙システムという会社に新卒から入社していて、その会社こそが、私が学生のころに目指した宇宙飛行士の訓練インストラクター業を受託していたんです。

その同期から「もし当時の情熱をまだ持っていたら、ちょうど新しくインストラクター探しているけど、どう?」と誘われました。

工藤:
ドラマチックですね。

田口さん:
その当時私は38歳。宇宙業界に戻るなら最後のチャンスだと思いました。給料が100万円くらい減ることになるので、妻を説得(笑)。無事(?)お小遣いを減らすことを条件に、憧れていた宇宙飛行士の訓練インストラクターの仕事に就きました。その途中でJAXAにも出向。金井宣茂宇宙飛行士をはじめ、JAXA宇宙飛行士の訓練支援を担当しました。

宇宙飛行士の訓練インストラクターの経験を通じて得た知見は、宇宙飛行士になる前の、憧れをもった若い人たちにとって、きっと役に立つ。もっとこの知見を世の中に広めたいという思いも持つようになりました。

工藤:
憧れていた宇宙関連の仕事をはじめてから、宇宙への思いに変化はありましたか?

田口さん:
シンプルに、子どものころからもっていた「宇宙が好き」という思いが再認識できました。

やっぱり宇宙にいきたいですね。アポロ8号が初めて有人飛行で月を周回した際、月の向こう側から、地球が「初日の出」のように昇ってくる場面を捕らえた写真があります。その「地球の出」を、実際にこの目でみてみたいです。

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「地球の出」を表現してくれている田口さん

もはや宇宙とは、単なる未知なものとか夢の世界ということだけではなくなっています。ここ数年でスペースXのような会社がでてきて、商業の場としての宇宙が注目され始め、ますますおもしろくなっている。

人間の新たな能力が目覚める可能性も十分にあると思っています。人類が宇宙にいくと、どんな覚醒があり、進化するか。地球とは違う感覚が研ぎ澄まされて、ガンダムで言うニュータイプが生まれるのではないかと。それをみてみたいというのもあります。

工藤:
少年の心を忘れていないんですね。

副業だからこそお金をシビアに管理したい

工藤:
副業で教育事業に携わることは、前々から考えていたのでしょうか?

田口さん:
もともと教育が好きというのはありましたが、具体的に考え始めたのは「Mothership Project」に誘われたから。2018年末くらいから本格的に動き出しました。

教育が好きなので、生涯取り組んでいきたいとは思っています。一方で、今の本業の職種である営業も好き。複数のやりたいことを、同じ一つの仕事でできたら一番いいのかもしれませんが、それはなかなか難しい。

工藤:
副業で開業届を出した理由はありますか?

田口さん:
きちんと届け出をだしていることで、取引先との安心感につながります。実際、取引先からの要望もありました。

また、青色申告のためでもありますね。税金の勉強をして、青色のほうが手続きは大変だけど節税につながることがわかった。私の場合は白色でもよかったのですが、副業の収入が増えていくといずれ青色にする。それなら今のうちから慣れておこうという気持ちもありました。

工藤:
会計ソフトも日頃お使いとのことですが、確定申告期だけの利用は考えなかったのでしょうか。

田口さん:
確定申告だけでなく、事業のお金を把握する管理ツールとして会計freeeを導入しました。エクセルよりも手間なく管理できるし、専用ソフトのほうが機能も便利だろうと。

会社経営に興味があり、勝負できるアイデアがあれば起業も考えています。事業って結局はお金の話。副業のいまのうちから流れを見ておきたいんです。

教育事業以外にも、宇宙関連のビジネスコンサルティングや、英語力を活かした通訳・翻訳、アメフトのコーチもやっているので、管理はなるべく楽にしたい。

工藤:
え、アメフトコーチ、ですか?

田口さん:
20年以上やっているのですが、2人目の子どもが生まれ、育児に時間を割くため一度引退したんです。でも家の近所で練習している大学のチームを見て、おしかけでコーチやります、と言ったらぜひ、とのことではじまりました。

工藤:
育児は……?

田口さん:
マネージャーさんが見てくれるので、嫁さんにもOKもらえました。

工藤:
(交渉力半端ない……)

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田口さん:
お金の流れにはシビアになったほうがいい。副業だからといってきちんと管理せず、いつの間にかマイナスになってしまうなんてことがあると本末転倒。金遣いが荒いことで、なにひとついいことはないですよね。見通しなく設備投資すると、火の車になりかねない。

好きなことを副業にしているので、お金で余計な心配を増やしたくないです

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成功も失敗も、得た知見を次の世代へ

工藤:
開業当時の自分に、伝えたいことはありますか?

田口さん:
もっと経費計上してもよかったんじゃないかと思いますね(笑)。

今年の確定申告のあとに調整で還付されましたが、こんなに返ってくるんだ、と驚きでした。次回はギリギリのラインで経費計上して節税したい。

これまで、個人事業主や会社を持っている人が経費計上しまくっているのを見てきましたが、腑に落ちました。社会の仕組みを知る勉強にもなりましたね。

工藤:
これから副業、独立する方にアドバイスをお願いします。

田口さん:
バックオフィスなど自分の専門ではないことは、なるべくシステムに任せたほうがいい。ある程度の勉強はした方がいいですが、素人が必要以上に調べて自力でやろうとすることは、時間も労力ももったいないと思います。

あとは、具体的な仕事の話がまだなくても、いつでも個人事業をはじめられるかたちをつくるといいと思います。それがスキルの見直しになり、自分の強みを再認識できます。

工藤:
最後に、今後の展望をおうかがいできますか?

田口さん:
お小遣い程度で始めた副業ですが、今後一定の収入が見込めるところまできたら、法人化も検討しています。今は本業優先ですが、「教える」という好きなことを個人事業としてやっているので、専念できたらそれはそれで幸せですね。

これまで様々な経験を通じて知見を得てきましたが、ひとつの仕事だけでそれらすべてを活かせるわけではありません。もともと人に教えたり世話好きなこともあり、得た知見を次の世代に引き継いでいきたい。自分がこれまで経験したことを若い人たちに伝え、ベストプラクティスも失敗談も共有して、もう一段ステップアップした人間になっていってほしいですね。

工藤:
普段なら聞くことのできないような、貴重なお話ばかりでした。ありがとうございました。

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