スライド14

[PM流] おもてなし料理の設計フォーマット

こんにちは。自炊歴 17 年の PM(プロダクトマネージャー)です。

私はたまに、自宅へ友人を招いて料理を振舞うんですが、その度にいつも「メニューどうしよっかなー?」とすごく悩みます。同じような課題を持つ料理好きの方も多いんじゃないかと思いますが、ある時ふと「これフォーマット化できんじゃね?」と思い立ったので、それをまとめてみようと思います。

余談ですが、世の中的に「料理はセンス」みたいな認識が強いですよね。ただその分、料理には科学/ハックする余地がたくさん残っています。PM 目線で見ると、「料理は人間を幸福にする良質なプロダクト」だと思っていて、そのメカニズムを理解し、高い品質と再現性をもって料理を提供し続けることが、私の人生のテーマにもなっております。

結論

スライド12

完成形としてはこんな感じのフォーマットで、横軸に調理法、縦軸に食材を並べて、これに沿って料理をプロットしていくと良い感じのメニューのラインナップになるよ、というものです。

このチャートだけ参考にしてもらっても勿論いいんですが、これを作り上げるプロセスや、食材のアレンジにちょっとしたミソがあるので、それらを以下で詳しく説明します。

STEP 1. テーマに合った料理・食材のアイディアを考える

まずはじめに、料理のテーマを決めます。PM 的には、テーマやコンセプト決めは超大事ですね。今回は、クリスマスやお正月が迫った12月のソワソワ感をさらに高めるべく、「年末感×ちょい洋風」というテーマでおもてなし料理を考えることにします。

テーマが決まったら、それに沿って↓下の図のようなアイディアをブレスト的に出していきます。

スライド0

「んーこのテーマならいつも作るこれが良さそう」
⇒ ▼ 自分の中の定番/得意料理

「前からこれ作ってみたかったんだよねー」
⇒ ▼ 今回チャレンジしたい料理

「年末感×洋風と言えば、シチューかしら」
⇒ ▼ テーマからの連想メニュー 

「冬だから白菜とか牡蠣とか使いたい」
⇒  ▼ 旬やテーマを意識した食材

この時点では、具体的な料理のアイディアから、単なる食材候補まで、レベル感は様々で OK です。

STEP 2. 料理のアイディアをプロットする

画像3

ここで今回の設計フォーマットを使います。横軸の調理法は、他にも「蒸す」とか「汁もの(スープ)」があったり、縦軸の食材も「菜」を「葉もの」や「きのこ」などに分けたりすることもできますが、いったん今回は簡易的なもので。

ちなみにそれぞれの項目の並びは、↓下の図のような基準になっています。厳密にはちょっと違ったりもしますが、まあざっくりこんな感じです。

スライド2

さて、ここに STEP 1. で出したアイディアの中で、「食材以外」のものをプロットしていきます。

画像5

↑こんな感じ。ほどよくバラつきがあって、ひとまずは良い感じですね。

・・・

★メニューに深みを持たせるコツ:その1

ここでワンポイント・アドバイス。「センスいいな」「面白いな」と思う料理には、いくつかのセオリーがあります。私が考えるその最大のエッセンスは「ずらし」、つまり「組み合わせの妙で、心地よい違和感を与えること」です。

メニュー設計における「ずらし」のテクニックの1つ目は、「調理法 × 食材」の組み合わせをずらすことです。

スライド4

料理には、「こういう食材は、だいたいこういう調理法にするよね」というオーソドックスな組み合わせがあります。↓下の図に赤で網掛けしている部分、つまり「野菜を和える/卵を茹でる/肉や野菜を焼く・煮る…」などの組み合わせは正にこの「王道パターン」で、コース料理などでは左上から右下にかけて提供されるのが定番です。

スライド5

一方、青で網掛けした「外しメニュー」のエリアは、食材の種類に対して王道からやや「ずらした」調理法になります。たとえば、図の中にあるのは「いちじくのみぞれ煮」。果物を揚げるのは珍しく、そういう料理がメニューに入ると「おっ」と心地よい違和感が生まれますよね。メニューにこのような「はずし」の要素を入れることで、良いアクセントになり、料理のラインナップに深みが出ます。

・・・

改めてプロットしたものを眺めてみましょう。先ほど説明した「王道メニュー」のラインナップが概ね抑えられていて、右上の「外しメニュー」も効いています。

画像7

ただ、よく見ると「菜」の行に 3 つ料理が並んでいてやや重複感があり、加えて「ポテトサラダ」と「グラタン」とでイモ系の食材が被っているので、片方を削除した方がよさそうです。

また、全体の品数にもよりますが、左下の青枠の領域も、「外しメニュー」として何かプラスで考えてもいいかもしれません。

STEP 3. 食材のアイディアをプロットする

続いて、↓下の図のように、STEP 1. で考えた「食材」のアイディアをプロットしていきます。

スライド7

すでにプロットされている料理のアイディアに対して、「この料理にはこの食材が使えそう」という基準で当てはめていくとスムーズです。

そのうえで、↓下の図のように、全体のバランスを見ながら、食材の割り当てをパズルのように調整していきます。

スライド8

・「いちじくのみぞれ煮」は、和風っぽすぎるので外す。併せて「牡蠣」と「鮭」を配置転換。
・品数を考慮して1品カット。
・「ぶり」はどこにもハマらなさそうなので、今回は外す。

STEP 4. メニューに仕上げる

STEP 3. の最終形をもとにして、料理+食材のアイディアを、それぞれひとつのメニューに収束させていきます。

スライド12

STEP 3. の段階で、メニューとしてほぼ完成されたものも多いですが、いくつかは食材しか決まっていないものや、味付けが決まっていない料理などあるので、ここで最終化していきます。

完成イメージは、↓こんな感じです。(んー、お腹減ってきました。)

スライド20

・・・

★メニューに深みを持たせるコツ:その2

メニュー設計における「ずらし」のテクニックの2つ目は、食材の「旬」をずらすことです。

スライド9

前提として、STEP 1. では、「旬やテーマを意識した食材」のアイディアを出すセクションが設けられているので、この設計プロセスそのものが、季節感のある食材を適度にメニューの中に散りばめられるような構造になっています。

今回の題材の中では、↓下の図の赤字で書いたものが、12月に旬を迎えている食材です。マストではありませんが、できれば各料理に 1 つずつ、旬の食材を含ませるようにすると、季節感が溢れたおもてなし料理になって素敵です。

スライド13

さて、この「旬」というもの、ご存じの方も多いと思いますが、もう少し解像度を上げると「走り・盛り・名残」の 3 段階に分けられます。「走り」はその食材が出始めの時期で、みずみずしい風味や味わいが特徴。「盛り」は最も旬を迎える時期で、濃厚な風味や味わいが特徴。「名残」は旬の終わりの時期で、野菜では水分が減って硬さが増すのが特徴。…といったように、同じ旬でもその時期によって特徴が異なります。

メニューに季節感を取り入れるとき、ついつい「『盛り』こそ至上」と思って、旬の最盛期を迎える食材のみで構成してしまいがちです。しかし、よりメニューに深みを持たせるためのポイントは、「走り」と「名残」を適度に混ぜて、旬の食材を「盛り」から「ずらす」こと。そうすることで、旬の多様性が生まれ、一連のおもてなし料理の中で複数の風味や味わいの特徴を楽しむことができます。(これは懇意にしている懐石料理のお店からの受け売りです)

それでは今回の食材を、旬の 3 段階の軸で見てみましょう。(食材の産地によって時期は変わるので、あくまで参考程度です)

スライド19

「盛り」を中心にいくつか「名残」は入っていますが、「走り」の食材が全くないことがわかります。できれば、春先にかけて旬を迎える食材の「走り」も味わって欲しいので、今回は、キッシュに使う予定の「ほうれん草」を「菜の花」に、シチューに使う予定の「白菜」を「小松菜」に、それぞれ変更することにしました(すると、↓下の図のようになります)。これが「旬のずらし」のテクニックです。

スライド11

・・・

★ メニューに深みを持たせるコツ:その3

メニュー設計における「ずらし」のテクニック、最後となる 3 つ目は、食材の「和⇔洋」をずらすことです。

スライド16

料理には「和食」「洋食」といったジャンルが大まかにあって、それぞれに使われる食材の傾向が違います。そもそも現代の日本食は、和・洋・中・その他がミックスされているので、厳密に線引きは存在しませんが、たとえば「酢豚と言えば、中華。食材は、豚肉・玉ねぎ・ピーマン・しいたけ…」といったように、ある料理において想定されるジャンルや食材の定番がある、くらいに思ってもらえればと思います。

その定番に 1 つだけ、「外し素材」を入れることで、食材のラインナップに適度な違和感が生まれ、メニューの深みがぐっと増すというのがポイントです。今回の題材の中でもそれを取り入れたものがあるので、↓以下にまとめてみました。

画像18

たとえば、一番上の「干柿とチーズと生ハムの前菜」。この料理に違和感を与えているのは、明らかに「干柿」です。これが「メロン」であれば、そんなに違和感はないですよね。なぜなら「洋の食材」で統一されているから。そこをひとつだけ「干柿(=和の素材)」に代替することで、驚きがあり、メニューづくりとしての深みが格段に増します。

ちなみにこのメソッドは、渋谷にある『高太郎』という居酒屋さんのメニューづくりからヒントを得ました。(本当に素晴らしいお店なので、是非一度訪れてみて欲しいです)

STEP 5. 色と味の配分をチェックする

ひととおりメニューが完成したなと思ったら、念のため、色の配分に重複感がないかを確認します(ここでも必要に応じて食材や料理を修正します)。「茶色ばっかり」とか「白ばっかり」みたいなおもてなし料理は、狙ってそうしない限りとても残念なので、ほどよくバラつくようにしたいです。

スライド14

同様に、味の配分も確認。味は好みの偏りがあるかもしれませんが、「半分くらいトマト系だった」とか「塩味ばっかりで飽きそう」みたいなのは避けたいので、味も適度にバラつきを持たせたいです。

スライド15

STEP 6. 工程管理をする

メニューが完成したら、最後に「手持ちのフライパンや鍋で、何をどういう順番で調理する?」という準備工程を考えます。特に、フライパンや鍋が1つしかない場合は、調理手順をシビアに考えないといけないので。

スライド18

鍋・フライパンを使うメニューをピックアップしたら、調理手順を分解して、↓下の図のように工程を考えます。

スライド17

ポイントは、縦の列に 3 つプロットしない、ということでしょうか。「鍋で茹でながらフライパンで焼きながらオーブン使う」は1人だとなかなかハードルが高いので、作業負荷を分散させるためです。

横の軸に関しては、料理をする方にとっては当たり前のことですが、火を通したあと冷めてもいいもの(冷ます時間を確保したいもの)とか、においや汚れが付きにくいものから先にプロットしていきます。

PMの仕事においても、プロダクトの「内容」を考えると同時に、それを開発する「プロセス」を設計するのがとても大事です。

・・・

以上が、PM目線の私が考えた、おもてなし料理の設計フォーマットです。料理って、間口は広く、出口は奥深く、本当に面白いアクティビティですよね。

Have a nice party!

よいサービスを設計するためのヒントについて書いています。