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ブロッカー軍団という病について:featuring 百田尚樹、めいろま、小野田紀美&都民ファ

 これはもともとwebちくま『悪いキツネをおさえつけることはできない』6月分の原稿として書いたもの。だが、書きあげてから「個人的すぎはしまいか?」という疑念を持つに至り。ちくま担当者と協議のうえ、ここに裏バージョン『悪いケツネをおさえつけることはできない』を新設し、掲載することにしたものである。

 先ごろ、刑法の改正が成立した。
 まず、再犯防止の観点から懲罰よりも指導・教育に力を入れる「拘禁刑」が新設される。「現行の懲役刑と禁錮刑を一本化し、受刑者の特性に応じて刑務作業と指導を柔軟に組み合わせるもの」という説明だが、お上が物事に対して柔軟に対応できたためしがない最近の日本で、この試みがどこまで成功するか。

 都築響一の『刑務所良品』が好きだということ以外にも、刑務所案件にこだわる理由がわたしにはある。かつて編集していた雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』(のちに『bmr』)は一時期、水戸刑務所で収容人口の約1%という読者率を誇っていたのだ! 私語厳禁のはずの刑務作業中——刑法改正により、この刑務作業なるものが消滅するかもしれない——に、読者囚人たちが「最近、丸屋九兵衛から手紙は来てますか?」と会話する場面もあったそうだ(出所者の証言より)。
 水戸刑務所の1%。それはつまり、600人前後の中で6人〜7人に過ぎない。とはいえ、単純に雑誌のシェアとして考えた場合、「人口の1%」という数字は驚異的だ。これが水戸刑務所にとどまらず、日本全国に拡大すればいいのに。何度そう思ったかわからない。
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 もちろん、より注目されているのは「侮辱罪」の厳罰化。インターネット上の誹謗中傷に歯止めをかけんためのものだ。
 この件を報じるニュースに付けられた「ただ応援してるだけなのにアンチがずっと粘着し続けてきて怖くなったことがあるからありがたいです」というコメントを見て、思ったこと。
 ヒップホップと同様、傷つきやすい人はSNSにも向いていない。

 その昔、「2ちゃんねる」というものがあった。そこには音楽雑誌を語るスレッドが存在し、その一部には結構な頻度で「丸屋死ね」「丸屋、死すべし」「丸屋は万死に値する」「丸屋は大阪のチxン」等と書き込まれる、そんな時代。
 それを見た☆Taku Takahashiは「編集者でここまで書かれるのは凄いね!」と半ば称賛するように感嘆していた。わたしは「そう、愛の対義語は憎悪ではなく無関心なのだ」と応えたものだ。件の名セリフがマザー・テレサではなくエリ・ヴィーゼルのものであることに感謝しながら。

 それが2ちゃんねるであれツイッターであれ。古来から言われる通り、「人の口に戸は立てられぬ」のは事実だが、しかし。昨今では「ブロック」という技があるのだ。
 もっとも、SNSのシステムは意外なほど感情に配慮したもので、君が誰かにツイッター上でブロックされたとしても、いちいち「●●さんはあなたをブロックしました」などと知らせてくるわけではない。たまたま該当人物のツイートを読まんとした瞬間にのみ、その真実が明かされるのである。
 ゆえに。わたしも、自分をブロックしている人たち、いわゆる「ブロッカー軍団」の全貌を把握しているわけではない。総勢何名なのか、もちろん知らない。
 そして「なぜブロックされているのか」も、不明なことがままある。

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 とはいえ、まず身に覚えがあるところで「情景師アラーキー」という御仁がいる。素晴らしいジオラマ作家だ、皮肉ではなく。

 彼は著書『凄い!ジオラマ』で、ジオラマのテーマとしたゴッサムシティに関して「原作ではアメリカは西海岸付近が想定されています」と書いていた。だが実際はゴッサムといえばニューヨーク。決してバットマン信奉者ではないわたしでも知っている(そもそもアメコミ界は東海岸偏重なのだ)。
 そのことをツイートしたら……ブロック!
 誤りを指摘されて遮断とはなあ。人間としての大きさが伝わってくる。

 ジオラマ本、プラモデル本、メタルフィギュア本を好んで買うわたしには、別の心配もある。
 歴史に題材を採ったヒストリカルフィギュアの専門書『深遠なる甲冑模型の世界』の著者がサラッと「ベオウルフという人物を知らない」と書いていて、まさに"その深遠さ"が明らかになったことも思い出すのだ。その件と合わせると、「モデラーたちはドタマが……」となりはしまいか。モデラーの端くれであるわたしとしては、避けたい解釈である。
 もちろんどちらのケースでも、最も責められるべきは「水際で阻止できなかった編集者」と思う。

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 ブロッカー軍団構成員で最も有名なのは、もちろん百田尚樹先生だろう。

 この人にブロックされていることで解せない点。
 彼ほど著名であれば、メンションされたり引用されたりすることも多いであろう? そういう連中の中に敵対勢力を見つけるたびにブロックしていくとしたら、それも大変な手間ではなかろうか。
 まあ、ブロックすることで潜在的な敵を不可視化し、好意的な言及を目に入りやすくする効果はあるのだろう。
 ベストセラー作家たるものがわたしごときを遮断? プライド持ってよ……と思ったこともあるものの、繰り返しネタに使えるという意味では、むしろありがたいことだ。

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 百田尚樹より知名度では劣るにせよ、自由民主党所属の現職参議院議員にブロックされていることを知った時は「アナザー・レヴェルに到達」との思いを強くしたものである。
 岡山選挙区の小野田紀美という人だ。
 この人のおかげで、「1984年まで日本の国籍法は父系優先血統主義をとっていた」という恐ろしい事実を知った。そのことについては感謝している。

 なんにせよ、現職の参議院議員が参加してくれてからは、自民党から除名処分を受けて都民ファーストの会に行った東京都議会議員のおじま紘平くらいでは驚かなくなった。

 自民党所属・神戸市会議員の岡田ゆうじに関しても同じく。

 議員に見えて議員ではない、「選挙を駆け抜けている」だけの橋本琴絵に至っては「なんのこっちゃ」である。

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 「シブヤノオト」。
 「iRONNA」。
 「ツギノジダイ」。
 こういう命名に辟易しているわたしは、むろん「ゲンロン」にもイラッとする。
 代表者と思しき人物は「東浩紀」と書く人だ。ヒガシ・ヒロノリと読むのだろうか。
 ある日、先述の百田尚樹について検索して行き着いたツイッターのURLをクリックして判明したのだが、わたしはそのヒガシ氏にもブロックされていた。名前の読み方さえよく知らず、ほとんど関わりがない文化人に対して、わたしは何をしたのか?
 どうやら、その東が「選挙は棄権せよ」という趣旨のことを呼びかけるツイートをしていたらしく(当方はもう覚えておらぬ)、それをわたしが引用しつつ批判していたのが気に入らなかったようだ。
 皆さん、繊細 like ラルフ・トレスヴァントである。

 以来、この文化人に言及したことは何度か。いつぞや発見して興味深く思ったのは、「丸屋九兵衛は小異を捨て、東さんと仲直りすべきだ。同じ反ヘイト陣営なんだから」という主張を目にしたこと。
 えっ?! 確かにわたしが文化人のことに疎いのは事実だが、どこがどう同じ陣営……なの?

 それは原発ヌードの千葉麗子に「今も変わらぬ原発ヌード魂が宿っている」と期待するようなものではないか。現在の千葉は「尊皇絶対 生命奉還 神州恢復 朝敵撃滅」がポリシーらしいのに。

 爆笑問題の某を「反体制」と見なしている飯山陽の例と同様に、一部の地方では「リベラル」と呼ばれるためのハードルがとても低い、ということを痛感する。海抜ゼロメートルに達するほどに。
 次に取り上げる人物も「国際的な視野から日本の現状を批判し、日本と海外文化を比較する」と評価されているらしいから。

 というわけで「めいろま」だ。

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