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1124「フィンランド」

日記を書けるのがあと2日しかない。数日前に書こうと思ったら文字数がいっぱいになって書くのをやめた本場フィンランドのサウナに関して書かないわけにはいかないので、書いておきたいと思うが、「ヘルシンキサウナめぐり」みたいな記事は結構散見されるし、実際に現地に行く人向けのガイドとして機能しがちなので、ここではどちらかというと、フィンランドの、つまり本場のサウナとは、一体なんであったか、について書いてみたいと思う。うち、ヘルシンキのソンパサウナでの細かい体験というかそこで起こったことは、そのうち出る私の仕事系の別の連載記事で詳しく書くが、雰囲気とかそういうものはある程度ここにも記録しておきたい。

まず、日本のサウナとフィンランドのサウナは違うのか?

結論から言うと全然違う。どっちが良いのかというと、どっちも良い。私は日本のサウナ・温浴施設を愛してやまない人間だが、フィンランドのサウナは、恐らく同じようにたまに夢に出てくるであろうほど素晴らしいものだった。

どう違うか論でいうと、よく言われる、フィンランドのサウナにはテレビがないし照明が暗い、みたいな話、薪を使ったスモークサウナが主流であるという話、水風呂じゃなくて湖に入るんだよ、という話、いろいろな「ハード」としての違いは語られているが、そこでの体験や効果みたいな、「ソフト」の部分ってあんまり語られていないのではないかと思う。行ってみて理解したのは、ソフトの部分も全然違うし、最高としか言いようがない無二の体験がそこにある、ということだ。

とはいえまず最初に、どこに行ったのか、ということは書いておかなくてはならない。3日間のフィンランドだったが、何しろ仕事があってのヘルシンキなので、あまりサウナに行くことはできないのではないかと思っていた。しかし、ヘルシンキには恐らく唯一、24時間営業というか、営業云々じゃなくて必ず誰かが暖まっている最強の「野良公衆サウナ」というものがある。それが中心地からちょっと離れた埋立地の突端に存在する「ソンパサウナ」=sompasaunaだ。そもそもは、もともとここにあった小屋を誰かがサウナに改造し、勝手に暖まり始めたのが最初だったらしい。何度か撤去の危機に遭いながらももはやボランティアの運営団体なんかもできて存続している。

このソンパサウナはとにかく24時間やっているとのことだったので、初日の仕事と会食が終わってから、フィンランド番のUberであるYangoで車を手配して向かってみた。夜中の11時くらいだ。が、途中で何もない資材置き場みたいな感じになって、道らしきものがなくなる。運転手さんが困って、GPSをたどって恐る恐る空き地を進行すると、突然真っ暗な闇の中に小屋が出現する。「あれ? 間違えたかな?」と思った瞬間、私はとんでもないものを目にした。ように思えた。

「あれ? いま、人間がいなかったか?」

人間はいても良いが、目を疑ったのは、その人間が明らかに全裸だったからだ。外はマイナス3度。めっちゃ寒い。何もない埠頭。成田闘争の小屋みたいな感じで突然建っている、唐突な小屋。暗さに慣れて超高感度カメラが捉えた映像のように周りが見えるようになってくるとそこには、複数の裸の人間。裸の人間!

ここが目的地であることを確信した私は、運転手さんに「あ、ここで大丈夫でした」と告げ、車は去っていったものの、そこにはまあ、ロッカーみたいなものはない。で、よく見ると、小屋の前のベンチに服が置いてある。貴重品らしきものも置いてある。要はそういうことで、もう適当に脱いで適当に入れということなのだ。

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ここまで書いて、これは初日のソンパサウナの話だけで字数が無くなるなと思ったりもするが、しかしこれは記録しておかなきゃいけないことだ。

服を脱いで全裸になり、小屋に入ると、そこには既に4人の男性がいて、英語でしゃべっていた。実はこの人たちは、その日に行われていた、私も参加していたヘルシンキのスタートアップイベントであるSlushの反省会をしていたのだが、それは別記事に譲る。

この最初のソンパサウナの体験から理解できたフィンランドサウナの特徴というのはいくつかある。


1. サウナ体験は、みんなでつくるもの

日本でも、サウナストーブに水をかけて湿度を上昇させて体感温度を向上させる「ロウリュ」は、いろんなサウナ施設で行われているし、自分でストーブに水をかける「セルフロウリュ」ができるところもいくつかあるが、フィンランドのサウナでは、基本的にすべてのさうながセルフロウリュシステムだ。人が出入りして体感温度が下がってきたと思ったら、もうみんなどんどんロウリュする。体感温度を保つのは、人の仕事ではなく自分たちの役目であり、誰かがみんなのためにセルフロウリュする、という形になる。体感温度は誰かが上げてくれるものではない。

その上でソンパサウナではもっとすごくて、小屋の温度が下がってくると、ロウリュではなく、炉に薪を突っ込む。どんどん突っ込む。CO2が出まくる。グレタさんが泣きながら殴ってくる程度に燃やしまくる。その薪と思われたものは、よく見ると釘とかが刺さっている廃材で、聞いてみると毎日誰かボランティアがどこかから持ってくるらしい。小屋の中にある廃材を燃やし尽くすと、小屋の外に全裸で飛び出していって、外に適当に積んである廃材をかき集めて小屋の中に持っていってまた燃やす。

初日に一度、現地のフィンランド人の男性が小屋の外で廃材を集めるのを手伝ったが、それは完全に異様な光景だった。極寒の暗闇の中で、全裸の白人男性がウンコ座りでちんちんをぶらぶらさせながら廃材を集めているのだ。しかし翌日またソンパサウナに行った際には、私は完全に廃材集め係になり、同じことをやるようになっていた。

で、「いま何度だ?!」と温度計を確認しながら、十分な温度になるまでひたすら廃材を炉に突っ込み続けるのだ。

自分たちの身体は自分たちで暖める。それはOne for All的なコミュニティ感覚をつくることにもつながっている。

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2. とにかくしゃべる

フィンランドのサウナは聖なる場所だから、人々は黙って自分と向き合って瞑想する、みたいなことを書いてある記事が結構あるが、あれはわりとウソだ。フィンランドの人たちはサウナ室でめちゃくちゃしゃべる。というか聞いたら「他の国だとサウナ室は静かだけど、フィンランド人はサウナ室にいるときが一番うるさいんだよ」と言っていた。

フィンランドの方々はみんな英語をしゃべれるので、私もずいぶんしゃべった。とにかく、サウナ室におけるフィンランドの人々は永遠にしゃべっている。前述の「環境を一緒につくっている」感じのコミュニティ感でもあるし、そもそも地域のコミュニティの中心がサウナ室にあるように見えた。

これは、その後行ったソンパサウナ以外のサウナでも一緒で、どこに行ってもサウナ室は人に満ちていて、会話に満ちていた。

それがゆえに、いつもより長い時間サウナ室にダラダラいれるという面がある。

熱さに耐えながら人とダラダラ喋り続けて長時間サウナ室にいる、というのがフィンランドのやり方であるように見えた。

逆に湖や海に飛び込んで上がってきた後に外気浴している時間のほうが静かだった。

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1日目の深夜のソンパサウナを経て、2日目は有名なコティハルユサウナ=Kotiharju Saunaに行くことができて、夜はまたソンパサウナ。

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そして3日目の昨日は、午前中に仕事絡みの用事が完了したので、午後はまるまるサウナに捧げることができる貴重な時間だった。

この貴重な時間で、どこに行くべきか、と考えたとき、「よし、タンペレに行こう」ということでホテルに荷物を置いて駅に走り、ヘルシンキから1時間ちょい離れた第2の都市、タンペレ行きの鉄道に飛び乗った。ヘルシンキのサウナの体験談はよく見るが、「サウナ・キャピタル」と言われる本場中の本場、タンペレのサウナのレポートはそんなにない。

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タンペレでは、新しくできた「クーマ」=KUUMA(そういえば池袋のタイムズスパレスタの特別ロウリュの名前が「クーマ」だった。「お湯」という意味。)に始まり、ちょっと外れの湖に飛び込める「ラウハニエミ・サウナ」=Rauhaniemi Sauna、そして、1906年から営業しているフィンランド最古のサウナ「ラヤポルティ・サウナ」=Rajaportti Saunaと3軒ハシゴした。

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3. 元祖長浜屋的な体験

ヘルシンキのコティハルユも、タンペレのラヤポルティも、めちゃくちゃに古い。しかも水風呂はない。シャワーで身体を冷やすスタイルだ。

とんこつラーメンのメッカといえば博多の長浜で、ラーマン好きは博多に行ったら「本物の豚骨ラーメン」を求めて長浜に向かうわけだが、そこで味わう「本場のとんこつラーメン」は、結構全然思ってたのと違ったりする。いろいろ揉めて分裂しているが、有名な「元祖長浜屋」の豚骨スープは、もう半端なく獣臭くて、一風堂みたいに行儀の良いものではなく、何か別の食い物だったりする。そこから洗練を重ねた結果やっとどうにか一風堂なのだ。一風堂に慣れた都会人が元祖長浜屋に行くと、大きなショックを受けがちだが、1つ言えるのは「あれはあれでうまい」ということだ。

コティハルユもラヤポルティも、日本のテルマー湯とかラクーアとかを想像して行くと、「なんじゃあこりゃあ!!!!」みたいな感じになる。

サウナ室はとにかくものすごい、100年分の汗の匂いのような臭いがするし、空間にはでっかい炉、部屋の中の高台に全裸の男たちが尻を密着させて身を窮屈にして暖まっている。日本のサウナではありえない。非常にハードコアな状態がそこにある。

ところが、これらの施設は、温度や湿度の設定が絶妙というか、バランスが良すぎて、かなり長時間サウナ室に留まることができてしまう。私にとっては、東京周辺の施設だと、「いつまでも入っていられるところ」といえば横浜スカイスパだが、フィンランド人たちは本能的にスカイスパ状態をつくっているように見える。

会話も相まって、永久にサウナ室にいるような気がする程度にすっと入っていられる。

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4. 酩酊の質が違う

結果として、フィンランドのサウナで得られる酩酊効果は、日本でよく言われる「ととのう」とはちょっと違う感じがした。あの、よく漫画とかで表現される視界が歪んで体中が痺れる感じになるアレではなくって、なんというか、吹いてくる風に吸収されて溶けてなくなってしまいそうな感じが長時間続く。風と一体化するような感じというのは、日本でも外気浴時に感じることはあるが、フィンランドのそれはもっと空気に自分が溶けていく感じがする。そして、その感じが長く続く。「溶けるー」というより「溶け続ける」感じだった。

まだ昨日とか一昨日のことなので新鮮な感覚だが、忘れられない感じがする。覚醒剤というのは一度やってしまうと脳が覚醒剤の快感を忘れられなくなってしまって、やめることができなくなると聞く。田代容疑者も然り、繰り返してしまう。

この酩酊作用が日本のサウナやコリアンサウナで体験できる「ととのう」と同じであったならば、一度行けばそれで良かったんだが、自分の感覚だと結構違ったので、それがまたフィンランドに来ることでしか体験できないのならば、またどうにかここで仕事を発生させて出張仕事をつくる他ない。ラヤポルティ・サウナに行くのが昨日が人生で最初で最後だった、なんて自分にとっては絶望でしか無い。

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2日目の夜にパーティーで人と話しているくらいから、会う人会う人に「まじでフィンランドの仕事したいんだけど、単価どのくらいなの?」「ハードウェアの現場ってどのくらいあるの?(ソフトウェア開発だとリモートでできてしまうため)」みたいな質問をし始めている自分がいて、性懲りもないなあと思いつつ、今はろくな温浴施設が存在しない街、ニューヨークへの帰途についている。

フィンランドで出会った人たちの、気遣いしつつ開放的であたたかい感じは、まるでサウナ室の煙突から出てくる煙のように、津々浦々のサウナ室から湧き出ているのだな、と思った。フィンランドとは、サウナなのだなと思う。

施設情報はいろんなところにあるのでそれらを参照されたいが、この記事が、「本場のサウナって言ったって日本のと一緒でしょ?」みたいな方がフィンランド行ってみよう、と考える一助になれば幸いだ。

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