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あえて馬鹿をやる

「わー、日本海だ!!おーい、にほんかーい!!!」
高校3年生、最後のインターハイ。
期間中唯一競技が何もない日、練習をしたあとリレーメンバーと一緒に先生の車でドライブ。

初めての新潟、初めて見る日本海。
水面がきらきら光っていて、何時間も見ていられそうな美しさだった。

「ばーか、なんだ、それ」
先生が笑いながら言って、みんなも笑った。

私は高校で成績が一番だったので、頭がいいとか器用だとか真面目そうとかいうイメージを持たれがちだった。付き合いの長い同期はともかく、後輩には特に。
思っていることが顔に出にくいので、クールだという印象を持たれていることも多かった。
実際は笑うときはものすごく笑うし、他の人が驚くようなおっちょこちょいをしてしまったりするし、本能のまま生きていて、真面目とかクールだとかいう印象とはかけ離れているのに。
中身を見てもらえないのが嫌で、時々あえて能天気なことを言ったり、馬鹿をやったりしていた。
付き合いづらい、近寄りがたいという印象を壊したかったから。

思い上がりかもしれないが、私があえて馬鹿をやることで場の空気が柔らかくなっている、そんな風に感じることもあった。
だから今も、他の人の緊張をほぐすためにわざと冗談を言ったりしている。

夏になると思い出す、あの日本海。
一緒に車に乗っていた仲間たちは今何をしているだろうか。
高校を卒業してから予定が合わないと言って集まりにはあまり参加していなかったけれど、次は参加しようかな。
たぶん私の現状を知ったらみんな驚くけれど、前よりもずっと自分のことを誇りに思える。そうやって誇りに思える自分で会いたい仲間なのだ。

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