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こんな私だって立派な“わたし”だ

目が覚めたら体が重かった。疲れが残っている。
空もどんより、気分が暗くなる。

なんだかやる気がでないなあ、家でのんびりしようか。
本来は彼と会う予定だったけれど、台風の影響で電車が止まったままで会うことができなくなった。
他の予定は何もなかったから、家でのんびりしても何の問題もない。

朝食をとったあと、家事を手伝い、終わるとスマホを手に取りのんびりしていた。
昨日の夜は一人でもどこかに出かけよう、と思っていたし、なんならお昼ごはんの場所も決めていたのに。

「お昼ごはん家で食べるなら余ったパンで何か食べて」
母親に言われて、うん、と返事をする。

そういえば今日、トーストした食パンにマーガリンを塗って食べる夢を見たんだった。
誕生月占いや星座占いは信じていないというか、見ても内容を忘れるからいつしか見るのをやめたけれど、夢占いは何度も当たったことがあるので少し信じているし、印象に残った夢は夢の意味を調べている。

最初に見たサイトには「現在の多忙さを反映した夢です」と言われた。
うーん、当たってなくもない。昨日お店忙しかったしなあ。
他のサイトをいくつか見ていると「堅実な生活を送ることができる暗示です」とも書いてあった。
一番書いてあったのは「願いが叶う」といったもの。
なぁんだ案外いい夢なんじゃん、ラッキー。

お昼は結局食パンと冷蔵庫にあったものでサンドイッチを作って簡単に済ませた。
片づけをし、ぼんやりとインスタを開くと、カフェの投稿がたくさん並んでいた。
ああ、このまま一日終わるの、やだな。
カフェで思いきりのんびりしたいな。
やっと重い腰を上げる気になり、身支度に取りかかった。

“キメキメでかっこいい”私でいることに疲れた。
カフェで働いているとき、しっかりしていて、その時々に応じて適切な対応ができる、キッチン、ホール、バリスタどのポジションでもてきぱきと動く、かっこいい人でいたくて、気持ちをピンと張っている。
想像の中の私はきっと実物より数十倍かっこいいから、たぶんかっこいいって思ってくれている人はいないと思うけれど、それでも私は、常にかっこいい自分を求めている。
そんな自分を追い求めるのに疲れてしまったのだ。

よし、思いきりカジュアルに振ってしまおう。
今日は全然かっこよくない、ラフな私でいこう。
最近穿いていなかったワイドパンツ。
街歩きで着ることが多い茶色のチェックのトップス。
可愛らしいデザインで出番が少なかった、母が作ってくれたまとめ髪用のシュシュ。
普段はパンプスだけれど服装に合わせてスニーカーを履こう。

いつも“きれいめ”、“大人”を目指して仕上げるけれど、今日はそんな要素一切なしでいこう。
去年買って2回くらいしか被っていない、もこもこ素材のベージュのキャップを合わせてしまおう。
メイク、もちろんノーファンデ。
アイラインは目尻だけ、リップに重きをおくときに使うベージュの肌に近い色のアイシャドウ。
4色入りのチークパレットで一番残っているオレンジ系のチーク。
こうやって出番の少ないコスメたちを取り出してきたのはリップのため。
オレンジのリップ…オレンジメイクが流行ったときに試したオレンジのリップが似合わなくて衝撃を受けてからオレンジが苦手なのは自覚していたけれど、どうしてもオレンジのリップを使いたくて自分でも使えるものを必死に探して1か月ほどかけて手にいれたもの。
このくらい服装や他のパーツのメイクを寄せれば、オレンジのリップも馴染むはず!
かなり自信を持ってリップをひと塗り。うん!馴染んでる!

支度し始めるまではかなり憂鬱だったのに、出かけるときにはかなりご機嫌になっていた。

バスと地下鉄を乗り継ぎ、カフェにふらっと入る。
ほぼ満席、一瞬4人がけの席に通していただいたけれど、2人がけの席に座っていたお客さんが続々と帰りはじめ、落ち着いたころに2人がけの席に案内してくださった。
注文はほぼ決まっていたのだけれど、忙しそうだったのでそのうち来てくれたらいいなーと思いながらぼうっとしていた。
トコトコと店員さんが来てくれて注文。
チーズケーキが食べたくて、チーズケーキならコーヒー!と思っていたのに最後の最後に期間限定の無花果のフロートの誘惑に負けて、ふたつのスイーツをひとりで食べるような展開になってしまった。
いいのだ、これで、いいのだ、気持ちを落ち着けて、待つ。

チーズケーキとフロートが運ばれてきて、じっと見つめる。
今日は気張らない日、カメラはあえて家に置いてきたのでスマホで写真を撮ってひとくち。
無花果、大好き、チョコチップの食感が楽しい、アイスってやっぱり幸せな気分になれる。
チーズケーキ、濃厚、ああやっぱりコーヒーが合う味だ、近いうちにコーヒーと合わせていただこう。

読みかけでもう少しで読みきれそうな本を持ってきていたので、のんびり読んだり、メモ帳に書き残しておきたい今日のできごとを書いたりした。
ほぼ満席だった店内も徐々にお客さんが帰りはじめ、とうとう自分一人だけになった。
大好きなカフェの貸しきり状態、贅沢…。
最後のお会計で店員さんと少しおしゃべりして、贅沢な時間を閉じ、帰宅。

あっ、100円ショップで買いたいものあったけど…まあ、いいか。急ぎじゃないし、今週お休みの日にでも行こう。

お手洗いの鏡に映った自分を見て、ああ、こういうのもたまにはいいな、と思った。
オレンジのチークも、オレンジのリップも、もちろん抜群に似合うというわけではないけれど、今日のわたしには、合ってる。
たまにはこんな脱力した、全然気を張っていない、キメキメでかっこいい自分とは対極にいるわたしも、いいじゃん。
気張らない、ラフな、普段とは違う私も、嫌いじゃない。
こんな私だって、立派な“わたし”だ。

…うーん、やっぱり私は青みががったピンクや赤、プラム系のリップがしっくりくる。ブラックコーデ(と勝手に呼んでいるけど、仕事用の黒いスキニーと黒いシャツ)が恋しい。
ああ、私、気力を取り戻したんだな。
また明日からキメキメでかっこいい私でいこう。

いつも気張っていなくたっていい。
疲れたときは力を抜いていい。
気張らず、力を抜くことを楽しめたころに、また元気が出てくるから。

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