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東京日朝焼肉大戦争血風録(12)

「美味しんぼ」の確か「キムチの精神」だったかと思うが、登場人物山岡士郎の上司の富井副部長(それにしてもアニメ版の甲高い声は気持ち悪かった)が、まあ色々やらかして、韓国の出版社の担当者を怒らせてしまい散々な目に合う。そして山岡が奮闘し名誉挽回するという、いわばお決まりなストーリーがあった。

 想像して欲しい。平壌から重要な取引先の人が来て、毎日の日本食に辟易して「故郷の味が懐かしいなぁ」と呟いた時に我々はどうすることが出来るかと。

 そんなことは1000年経っても起こり得ない。無駄な考え休むに似たり。そう思うところに今の日朝関係の限界がある。そうなった時に悩んでも遅いのである。根拠は話せないが、あと2年経つと日朝関係は大きく動く可能性が高い。コロナ?それも理由のひとつだが、別の理由がある。

 正直、在日コリアンの世界は混とんとしている。日本にいる在日コリアンの方々は南の慶尚道、全羅道、済州道出身がほとんど。じゃあ南、韓国側の政権を無条件に支持しているかというと全然違う。在日コリアンの人に話をすると、南も北もない。国はひとつなんだよという。国はひとつなのだが、支持する政府が違うと考えるべきだと。それは同じ親族でも、と。

 なるほど。日本人でいうなら、法事で親族が集まったところ熱烈な自民党員のおじさんと共産党員のおばさんがいて、唾を飛ばして罵り合い機関紙自由民主と赤旗を丸め激しくぼかすか叩き合っているところに、横で公明党支持者のおばあちゃんが「南無妙法蓮華経」とひたすらお題目を唱えていると考えればいいだろうか。と答えたところ、その在日コリアンの人ははうーーーんと困った顔をしていた。

 つまり焼肉店ひとつ選ぶにも神経を使うわけだ。映画監督のヤン・ヨンヒ氏の著作にも面白い描写が出てくる。幼少のヤン氏が母親にお使いを頼まれる。大阪有数のコリアタウン鶴橋でキムチひとつ買うのも、この店で買う。あの店では買うたらあかんと、母親に細かく指示される。同じコリアタウンでも肌感覚として幼いころから、自分の立場を考えさせられるのだ。

 ぼくならこういう時は在日ホットラインを使う。在日コリアンの友人は嬉々として教えてくれるだろう。
「なんやて?朝鮮から客が来た?大切な接待の席を作らなあかん?任せとけ。場所は都内か。よぅし今からいう店メモせいや。注文するメニューも教えたる。とりあえずセンマイ刺しとな、キムチ盛り合わせで始めて、肉は…、〆はコサリスープ外すなや。これで接待大成功や。大船に乗ったつもりでええで。万景峰92号に乗った気分でええかって?相変わらずうまいこと言うやないか。ま、あの船意外と小さいから冬の日本海ではめっちゃ揺れるんやけどな」
 こんな感じで。

 例えば店の名前。漢江といえばソウルを流れる川なので、南寄りの店。同じ理屈で大同江は北寄りだろうと判断するというのも甘い。判断材料になり得ない。ぼくの知っている北寄りの店でも「韓国料理」と店の看板に書いてある場合もざらにある。

 昔、都内のある駅前にわかりやすい建物があった。1階がパチンコ屋でその名も「太陽」。2階の焼肉店には「朝鮮料理」の看板。おお!これは間違いなく北寄りの店だと小躍りした覚えがある。

 太陽とはつまり、金日成主席、金正日総書記、金正恩総書記(でいいのか?)のことを指す。たぶんこの店のオーナーはゴリゴリの熱烈な北側の支持者で、たぶん事務所の奥には太陽像、つまり肖像画があるに違いない!とふんだ。

 こんな分かりやすい例はほとんどない。はっきり言おう。日本人には見分けるのは無理だ。在日ホットラインに頼るのが一番だ。「いつでも相談してや」と友人は頼もしい。

 さて接待はしなければならない。平壌からの客人は「故郷が懐かしい」とホームシックになりかかっている。ああ、数億円の取引が飛ぶ。課長は怒り部長の髪は抜け社長は高血圧でぶっ倒れる。この双肩に会社の運命がかかる。

 そんな混とんとした在日コリアンの世界の中で、偶然の出会いをぼくと妻は果たしたのだ。埼玉の東川口で。

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