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チームビルディングとファシリテーション

組織開発のコンサル仲間と話していたら、「チームビルディング」の手法を知りたい、「チームビルディング」のためのワークショップを開きたいという顧客企業の声をよく聞くよねと意見が一致。個人の考え方や働き方の多様性が尊重されるべきだという空気が職場に浸透してきたために、チーム内に団結心を生み出すことが難しくなってきていることや、コロナ禍になって加速した離職の傾向を押しとどめるには、チームの求心力や仲間への愛着が一つの鍵になるという話で盛り上がりました。

「チームビルディング」の研修、ワークショップの有効性を否定するものではありませんが、ここでは、“ファシリテーション力のあるリーダーが日常的にそこに居る”ことの重要性についてお話してみたいと思います。

「チームビルディング」は一日にして成らず

自分自身が参加者となって、「目から鱗が落ちる」ような「チームビルディング」のワークを体験したことがあります。小規模なら、初対面に近い研修参加者4~5名の島机ごとに、A4の紙(あるいはストロー)を使って所定の時間内でタワーを作り、どこが一番高くできたかを競うようなもの。あるいは、もっと大掛かりで、NASAでも導入されたことのあるロールプレイングゲーム形式のものなど。いずれも、限られた時間内で成果を挙げることへの重圧がのしかかり、お互いのやり方がぶつかり合う、色々な心理的葛藤を伴うなど、職場のリアリティの「箱庭体験」だと言えるでしょう。

こうした体験型のワークを通じた学びは、私たちの印象に強く残ります。巧く行ったチームとそうでなかったチームとのプロセスの違いがどのようなものだったのかを振り返ってお互いから学べますし、多様性をチーム力に転換するために必要なことを知識としてインプットするだけでなく、インパクトの強い気づきを与えられる研修コンテンツは、とてもパワフルです。

ただ、こうした研修を受けたからと言って、自分のチームの結束力が急に高まるとは思えません。チームは一瞬でできるものではなく、日々の小さなやり取りの積み重ねで育てていくもので、そこにはお互いへの関わりを意識的に選択していく継続的な努力が必要だと思うからです。

「成功の循環モデル」の鍵をとなる、「関係性の質」

組織開発支援のご依頼を受けたとき、あるいはダイバーシティ環境でのリーダーシップについての研修をさせて頂く時、私は、必ず「成功の循環モデル」をその場の方々と共有します。
MITのダニエル・キムが提唱したモデルで、我々が生み出す「結果の質」には、そこに関与する人達の「行動の質」が影響し、「行動の質」には「思考の質」が影響しており、「思考の質」を左右するのは、ともに働く人たちの「関係性の質」である。それは循環するもので、正のスパイラルも負のスパイラルも起こりうるというものです。

よい結果を引き寄せたければ、遠回りのようだけれどもチームメンバーの関係性を耕し、相互信頼を深めることが大切だということは、充実感を得られた仕事とそうでない仕事をどちらも経験してきた方なら、必ず自分の体験に基づく納得感があります。

新しく組成されたばかりのプロジェクトチームや既に毎日一緒に働いているチームのメンバー同士が、お互いのことをもっと良く知るための特別の機会を作るワークショップや合宿を企画・運営させていただきながら、その場の心理的安全性が格段に高まって、暖かく深いつながりを感じる空気に満たされ、皆さんのモチベーションが上がる様子を、何度も目にしてきました。

「タックマンモデル」で見るハイパフォーミングチームの土台

「雨降って地固まる」と言いますが、「関係性の質」を良くするためには、上記のような心地良い体験だけでは不十分です。今ここにある調和的な関係性をあえて崩して、潜在的な対立を可視化し、それを越えて新しい調和を生み出せた時、「関係性の質」は進化します。

「仲良しグループ」は「チーム」ではありません。

私は、「グループ」と「チーム」という言葉の定義に、厳密さを持ち込む必要のある時には、複数の人が集まっている物理的な集団を「グループ」と定義します。そして、「グループ」がある目的や目標を共有して意気投合し、お互いのリソースを頼り合って協働している状態を「チーム」と言うようにしています。ですから、「チーム」は「グループ」が適切なプロセスを経て変容したものであって、そのプロセスを教えてくれるのが、「タックマンモデル」だと思っています。

「タックマンモデル」では、組織の成長段階を4つのステージ(「形成期」・「混乱期」・「規範期」・「達成期」)に分けて説明します。


“人材の寄せ集めとして形成された”「グループ」が、“高い成果を達成する”「チーム」へと変容するためには、混乱と対立を経て、全員がここに集っている目的・目指している目標・各々の役割認識・基本的なルールなどを共有して腹落ちしている必要があります。

「グループ」を「チーム」に変える、“ファシリーダー”のコミュニケーション

多様な人達が集まる「グループ」で一緒に何かをしようとするところから、「チーム」への変容の旅が始まります。

「グループ」が何らかの方向性を持とうとすると、そこには小さなものから大きなものまで、混乱や対立が自然に生じます。なんとなく苦手だと感じる相手、あえて言動には出さないようにしているものの、日々感じるイラつきやストレス、周囲の人が手を焼くような反目や口論。

おそらく、多くの「グループ」が「チーム」になり切れないままなのは、私たち人間が無意識的に「対立を嫌う」からではないでしょうか? 私たちは、対立が表面化しないように自分や他者をコントロールしようとしたり、そこに厳然とある対立を見ないようにしたり、迂回路を探したりしがちです。こうした環境では、「関係性の質」が深まることはまず望めません。

だからこそ、そういう私たちの日常に、「対立をチャンス」と捉えて、安全に「対立をマネジメント」することができる“ファシリーダー”が必要なのです。

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連載コラム「光と影」~リーダーとしての器を広げる~ Vol.02
「対立はチャンス」

ファシリーダーは、日々の小さなコミュニケーションを大切に扱います。自分とチームメンバーとの一対一の信頼関係を共通認識を増やす努力や傾聴・承認などで育てつつ、一対多でメンバー同士の関係性を耕すことにも意識的です。メンバー同士が一歩踏み込んだ対話ができるように、問いやフィードバックでファシリテーションするのです。そして、潜在的な小さな対立を見逃さずに、きちんと取扱います。

ミーティングの中で、誰かの発言にちょっと顔を曇らせたり、首を傾げたりする人がいれば、その人達に成り代わって、発言者に「どうしてそう思ったのか、もう少し詳しく背景を聞かせてください」とリクエストします。その方の詳しい説明の後で、「〇〇さん、先ほどちょっと怪訝そうな表情に見えましたが、今の説明を聞いてどう思ったか意見を聞かせてください」と水を向けることで、その二人がお互いを理解し合えるような対話を促進します。
こうした細かいコミュニケーションを丁寧に行い、それをその場にいる人たちと共有して積み重ねていくことで、「タックマンモデル」の「混乱期」「規範期」をスムーズに乗り越えていくことができるのです。

ファシリーダーは、メンバーにとって“多様性と効果的に関わるコミュニケーションのモデル”にもなります。「規範期」から「達成期」に至る時期には、メンバーの中にもファシリマインドが浸透している可能性も期待できます。

ファシリーダーの関与の源にあるもの

ファシリーダーには、ファシリテーションのスキルもさることながら、自分と人間をどうとらえているのか?というマインド(在り方)も重要です。ちょっと緊張感があるような局面で、上記のような軽やかな関与をごく自然にできるのは、

  • どんな意見にも、それが正当だと言える背景がある

  • 人間の知覚・発想・行動は、その人固有の無意識的な枠組みに制約を受けている

  • 1つのことには、良い面と悪い面の両方がある

  • 人間の意識が一度にもてる焦点は1つしかない

  • 意見はその人ではない

といったような、「人間への理解」があるからです。
知識のみならず、自分の実体験で心からそうだと実感しているからです。

2018年にスタートした弊社のオリジナルコンテンツ"Edge Faci-Leader"では、「グループ」を「チーム」へと育て、「チーム」のパフォーマンスを引き上げるための実践的な学びをご提供しています。「人間への理解」を体感的に学習しながら、よりエンゲージメントの高いチームを作っていく仲間が増えていくことを願っています。


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