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笑いながらやれているか?

もう15年くらい昔に、ある方から教えていただいた話です。

北極圏で生活しているイヌイットの方々は、苛烈な大自然の中で命をつないでいます。日常生活で、彼らは大きなクレバスを飛び越えて移動しなくてはならない局面を迎えます。一歩間違ったら命に関わる危険な跳躍。その時、必ず仲間と冗談を言って大声で笑い合い、そして笑いながらクレバスを飛ぶのだそうです。笑うと緊張がほどけてリラックスでき、安全にジャンプできるから。

もう一つ。彼らは「頑張る」という言葉を使わないのだそうです。「頑張ろう」とすると、緊張して筋肉が固くなってしまい、しっかり跳躍できないどころか、極寒の地では筋肉が緊張すること自体が非常に危険なのだと説明されました。

「なるほど~!」。聞いた時にはとても印象に残ったはずなのですが、「去るものは日々にうとし」です。私はこのお話をすっかり忘れていました。数か月前にYouTubeのチャンネルを開設する企画会議で話が盛り上がっていた時、大きな挑戦の前なのに、楽しく笑って話していて全然頑張っていない自分を発見して、とても新鮮でした。ふと、クレバスをジャンプするイヌイットの話を思い出して「ああ、この環境だから踏み出せたんだ」とわかりました。

力まずに前に進める"チームの力"

私は内弁慶で、公に向かって発信するのが大の苦手です。

それでも、先達から受けた大きな御恩に少しでも報いるために、自分の学んできたこと・体験を通じて気づいたことを、まだお目にかかったことがなく、この先も一生直接関わることがないかもしれない多くの方々に共有させていただくことにしようと、数年前に結構な覚悟でブログを始めました。しかし、最初の盛り上がりの波が行き過ぎたその後は、「頑張って継続しなければならない」と自分で自分を引きずるも、投稿は間遠になり、苦しさがつのりました。結局は「頑張らなくてもいいんだよ」と無期休刊を続けることを選びましたが、このままでは終われない気持ちもありました。

ですから、今年YouTubeを始めると決めたのには、一層強い思いと覚悟がありました。これまでなら、「頑張ろう!」と力が入って心身が硬直し、しばらくしたら辛くなるはずのところが、今回はなんだかどんどん遠くまで行ける感覚があります。

この違いは何? 
自問して得られた答えは、“チームでやれているから”

仕事を越えて自分を受け止めてもらえる感覚、弱みや失敗談のオープンな共有、気軽な相談と助言を交わし合える環境、軽やかでおおらかな笑い、率直なフィードバック、思いやりと励まし、そして各自が自分の仕事に向き合う真剣さのあるチーム。そんなチームの存在は、私たちを有能に、粘り強く、創造的にしてくれます。

会社員時代の記憶をたどると、大きな挑戦に向かっている時には、そこに信頼できる楽しい仲間たちがいました。なかなか解決策の見えない苦しい局面でも、“ランナーズハイ”みたいな深夜の会議での大笑いから突破口が開けたことが多々ありました。

今の私にも、素晴らしいチームがあります。
物理的に一緒に居ることは至極まれなのに、いつも一緒に居ると感じさせてくれる長年来のアシスタントを中核に、今年から社員が加わりました。(株)ピュア・エッジの枠を越えて複数のフリーランサーとつながり、更にはコーチングスクールの(株)アート・オブ・コーチングにも、そして、女性活躍推進のコンサルを行う(株)CHANCE for ONEにも、私の大切な仲間たちがいます。

この環境は自然にもたらされたものではなく、私が心から望んで、迷いながらも様々な決断をして、数年かけて少しずつ築き上げてきたものだということを、今喜ばしく思います。

所属する組織のチームを耕すと言う事、そして自らチームをゼロから生み出すと言う事

組織開発のコンサルを仕事としているというのに、自分自身が組織人でないことに矛盾を感じ始めた7~8年前、私も自分の組織を“持つべきだ”と考えるようになりました。もう一度大きな企業に戻ろうかと悩んだ時期もありました。チームの一員であることに渇望しつつ、自分でチームを作るのは至難だと思っていたからです。

会社勤めをしていると、当たり前のようにメンバーを与えてもらえます。最初から最高の仲間同士という訳にはいきませんが、丁寧に関係性を耕して目標を共有していけば、それなりにチームとしてのパフォーマンスを上げられる自信があります。ところが、自営業者となった私は、自分でゼロから出会いを求め、メンバーをリクルートするところから始めなくてはなりません。

人事担当の役員になってからはさすがに意識が変わりましたが、それ以前の会社員時代の私は、自分のチームメンバーの給料やその先に連なるご家族の生活に対して、自分にある程度の責任があると感じられるほど成熟したマネージャーではありませんでした。表には見えにくい(でもとても根本的な)ところを全面的に「会社」に依存していながら、浅はかにもそのことに無意識的で、全部自分でやっているような気になっていました。

一方、自営業者としての私がチームを作ろうとすれば、彼らの労に報いる支払いやその原資となる利益確保の責任が自分にあるのは自明です。
大きな組織でも本質は一緒ですが、小さな組織であればなおさら、メンバーの背後にいるご家族の心身の健康やハピネス度は、メンバーにとってと同様、私にとっての重要事項になります。
更には、私と働くことがメンバー自身のやりがいや喜びとなり、成長につながるステップだと感じてもらえなければ、チームをよい状態で維持できないこともわかっていました。こうした思いはそれを考えるたびに増幅して過剰になり、私を恐れさせて強く緊張させていました。

その恐れを越えよう!と決断し、望む未来に向かって加速した昨年の自分をハグしたい気分です。

ライティングコーチの大村隆さんにインタビューしていただきながら文章をためていくプロセス。彼の存在のおかげで、時には笑いながら、そして深く集中しながら、どんどんアウトプットすることができました。

今年の4月から、広報担当兼コンサルタントとして力強いスタッフが入社してくれました。彼女からnoteを使おうという提案を貰い、どんな構成にするかスイスイと短時間で話がまとまりました。大村さんの企画ともつながって、書き溜めてくださったもの「光と影~リーダーとしての器を拡大する~」としてnoteに連載していただいています。

動画制作を担当してくれている田中なおずみさん・弊社スタッフ・有志のサポーターとで、YouTube用の素材を数日間でまとめて30本近く撮影しました。休憩中にプライベートの話を楽しみ、その会話から全く新しいアイディアがうまれ、それをその場で実験しながら形にしていくクリエイティブな時間を過ごしました。彼らの力で、今も着々とポストプロダクションが進んでいます。

特にコロナ禍になってから、集合型セミナーのオンライン化・SNSでの活発な発信・YouTube用の動画制作など、新しいことに取り組むたびに、自分にはできないことを鮮やかにやり遂げていく人達を目の当たりにして、驚き尊敬し、自分の至らないところを指摘してくれたり、自分には見えていなかった球を拾ってくれたりする人がいることに安心しながら、多様なリソースを組み上げて成果を上げていく喜びを感じながら進んできました。

“チームでやる”ってこういう感覚だった…会社員を辞めて独立し自分の組織を持たなくなってから10年、忘れかけていたチームワークの醍醐味の体感が戻ってきました。

クレバスをジャンプする事、ビジネス成果をあげるために必要な事とは?

近年ビジネス界で、組織内の心理的安全度の高さとそこに働く人のパフォーマンスの高さには相関関係があるという調査結果が話題になりました。イヌイットは、先祖代々体感的にそのことを理解していて、語り継いで実践しているのでしょう。クレバスをジャンプすることだって、ビジネスで成果をあげることだって、原理は同じです。自分の持てる力を十分に発揮するために、今発揮している以上の力を開発するために、同じ目標に向かって真剣にコミットしつつ、どうでもいい(でも実はとても大切な)ムダ話をして笑い合えるチームの存在は必須です。

そして、こうしたチームのエネルギーの好循環を生み出すには、一人一人が自分以外のメンバーへのリスペクトとチーム・ファーストのマインドから始める必要があります。とはいえ、こんなにシンプルで自明なことですが、実践するのは本当に難しいとも思います。

仲間と笑いながらやれているか? 

定期的に、その問いの前で自分の思考と行動を点検しなくてはなりません。

自分の笑いは、他のメンバーを犠牲にしてはいないか?
彼らの笑顔は本物か?
私は他のメンバーの成功と成長に貢献できているか?

なんとなく、そうではない小さな予兆を感じたときに、彼らが素直に本心を伝えてみたいと思ってもらえるような私になるために、努力が必要です。「明るい北朝鮮」では到底務まりません。誠実で率直な対話で古い関係性をアップデートしながら、意識的に進んで行けるように、慎重に少しずつ自分を修正していきたいと思っています。

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