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プラプラ堂店主のひとりごと⓾

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

インドの布のはなし

 ぼくの店のある商店街の会長は、居酒屋(さ・か・な)の大将の佐々木さん。まだ40代後半と若いけど、社長らしく自信のある雰囲気で声の大きいタイプ。プラプラ堂みたいな小さな店でも商店街の一員としていろいろと声をかけてくれる。

 ときどき店の商品も買ってくれるし、今日、初めて持ち込みにやってきた。お土産でもらったというインドの布。伝統的な手法で作られた、なかなか良い布らしい。でも、大将曰く、

「俺、こういうの好きじゃないからさ」

と、いうことらしい。うん、好みは仕方ない。ぼくは布を手に取った。柔らかい手触りだ。布からは、微かにあの音がした。もちろん買い取った。

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布は大判で、ベッドカバーに良さそうな大きさだ。渋い赤ベースにピンクの鳥の模様がプリントしてある。大将が帰ってから、ぼくは布に話しかけた。

「かわいい鳥の模様だね」

「ひとつひとつ、木版で模様をつけるのです」

「手作業なんだ!すごいなぁ。微妙な版ズレもいい感じ」

「職人さんに心を込めて作ってもらいました」

「へえ。インドの職人さんって、どんな感じなの?」

「騒がしいですよ。よくケンカしてます」

「ええ?!日本では、職人さんは寡黙なイメージだけど。職場でケンカなんてしたら働きにくくなりそう」

「インドでは『自分も迷惑をかけて生きているのだから、人の迷惑も許して挙げなさい』と言います。そんなの、お互いさまです」

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 目からウロコだ。日本では『人に迷惑をかけないようにしなさい』と言われる。だからいつの間にか「人に迷惑をかける」ことが怖くなっている。

 実は、大将がぼくに商店街の役員にならないかと誘ってくれていた。正直驚いた。まだ店を始めたばかりのぼくが?!もちろん、本当に小さな商店街だ。役員になる人も不足しているんだろう。でも、断った。もともと役員だとか、そういうのは苦手だ。それに。ぼくは人との関わりが面倒、というか、いやだった。ずっと避けていた。それはーまた誰かに迷惑をかけるのが怖かったんだ。

ふっと笑いがこみ上げてきた。

『お互いさまです』

 本当に。もともと迷惑をかけていないと思うのは、もしかしたらゴーマンなのかもしれない。役員なんてできるかわからないけど‥やってみようかな。

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それにしても。

すごいタイミングだなぁ。

大将がこの布を持ってきたことにも驚きだ。

 ぼくは布を店で一番目立つ棚に置いた。大事なことを気づかせてくれたこの布に、早く新しいご主人が見つかるように。



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