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プラプラ堂店主のひとりごと⑪

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

土鍋のはなし

 商店街の役員は、結局来年度からやることになった。

「もしまだ可能なら、やっぱり、役員やらせてください」

 思いきって大将にそう言った。(今さらなんで!?)と驚くかと思ったけど、すんなり受け入れてくれた。拍子抜けだった。人を動かす立場の人には、そういうのがわかるものなのかな。ぼくにとっては大きな変化で、決断だったけれど。今となっては、自然な流れだったのかもしれないと思ったりもする。やると決めたら、ちょっとわくわくするような気持ちもしてきたり。不思議なもんだな。

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 ぼくのもう一つの変化は、土鍋でご飯を炊くようになったこと。少し前から自炊をするようになったぼくに、店の常連のうめさんが「土鍋で炊くと美味しいのよ」と教えてくれて。(土鍋ご飯の炊き方も詳しく教えてくれた。)それで、確か家にも土鍋があったはず、と探してみたんだ。はたして食器棚の上の箱の中に大きな土鍋があった。小さい頃はこれを使って家族で鍋をしたなぁ。でも、これで一人用のご飯を炊くには、ちと大きすぎる。そう思っていたら、よく使う食器棚の奥に、小さめの土鍋が隠れていた。うん、ちょうどいい。さっそく使ってみた。

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 米は研いでから、ざるに30分以上置いておく。吸水して白く膨らんだ米と同量の水を入れて、火にかける。ぐつぐつふいてから、火を弱めて15分。火を止めてから10分蒸らせば出来上がり。初めて蓋をとった時は感動した。たちのぼる湯気から、ふっくらツヤツヤのご飯。ああ、いい匂い!そして、しゃもじで混ぜると、下にはおこげが。これがまた!きつね色のパリパリ部分と、しっとりご飯が合わさって。ああ、うま〜い!そんな訳で、今ではすっかり土鍋派だ。保温ができないから、冷えたご飯はレンチンが多いけど。うめさんはセイロで蒸した方が美味しいって。そうだろうなぁ。やっぱレンジが便利でつい使っているけど、そのうちセイロも試してみようかな。

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 この小さい土鍋は、ぼくはあまり見た記憶がない。母が使っていたんだろう。ご飯を炊いたらとても喜んでくれたけど、土鍋はとても言葉少なだ。何か話しかけても「はい」とか「いいえ」だけで、あとは押し黙ってしまう。でも先日、洗った土鍋を乾かして「いつもありがとう」と声をかけたら、意外な返事がかえってきた。

「寂しかったんだと思います」

「…え?」

「お母さん、寂しかったと思います」




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