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【エッセイ】人の話をできるだけ否定しない(約1150字)

以前カウンセリングの勉強をしているときに、生きていくうえで本当に大切なことを学びました。それは、人の話をできるだけ否定しないことです。学んだことは私の血肉になって、今でも普通の生活に生かしています。

電話のボランティアだったので、「辛くてたまりません。もう死にたいです」と言うような電話がかかってくることがあります。そんな時に「死んだらいけません。もっと前向きに考えましょう」と答えるのは、カウンセリング的に失敗です。

死にたいと言っている相手の話を否定しているからです。これでは相手の気持ちは折れてしまいます。「ああ、それは辛いですね。死にたいほど苦しんでおられるのですね」と答えます。もちろん、これは教科書的な回答で、こんなにうまくいかないことが多いです。

ただこんな風に答えれば、相手の気持ちに寄り添うことになります。相談する方にとっては、自分の気持ちを分かってくれる人がいた、とほっとした気持ちになるでしょう。そこから信頼関係を構築できます。

考えてみれば、私たちの人生は子供の頃から大人になるまで、否定されることの連続のような気がします。子供の時は「算数で10点はひどすぎる。ダメじゃないそんなことでは」(私のことです。笑)と注意され、大人になってからは上司に「駄目じゃないか、もっと営業で結果を出さないと」と言われます。

自分の行動が間違っていて、人からの注意を受け入れなければならないこともあります。でも否定の連続ばかりでは、心が苦しくなるのは間違いありません。同時に社会もぎすぎすしたものになります。

この悪い流れを断ち切る良い方法の一つが、とにかく相手の話を否定しないで、耳を傾けることです。これはカウンセリングでは大切な技法のひとつで、傾聴と言われます。でもカウンセリングの技法のひとつと言うより、人間関係の基本の一つではないかと思います。

難しい面もあるのですが、その気になればこれはどんな人でも実行できます。そんなに身近な方法でありながら、人の心を癒す強力な手段でもあります。問題は解決されなくても、誰かが自分のことを分かってくれると実感したら、問題を抱えている人は自分で何とかしようとします。

カウンセリングのボランティアの中で、それを何回も経験しました。泣いていた人がずっと話を聞いているうちに気分が晴れて、電話を切る頃には明るい声になります。

傾聴と言っても、身の入らない聴き方ではダメです。一生懸命に相手の話に耳を傾けます。大変なことであり疲れるのですが、自分のためにもなります。自分の中のエゴを砕けるからです。同時に人間が立ち直っていく時の肯定的な力を実感できます。

今はボランティアはやめているのですが、機会があれば、将来またやってみたいです。自分の人生に役立つ本当に良い経験でした。

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