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『能力者温泉 チカラの湯』第7話:桃谷サトシのご野望

これまでのあらすじ

清掃のバイトをしていたらなんか魔法学園に飛ばされて迷子になりました。

登場人物

天王寺トール

ヘタレ浪人生。透視能力者。CHIKAモールで清掃のバイトをしている途中で、志望校のループ魔法学園に飛ばされて困惑中。マホミに惚れている。チカラの湯でノートを落とした。

森ノ宮マホミ

ループ魔法学園1年生。魔法使い。シャルロッテ氏に透視と念力について教わるはずがすっぽかされた(?)。チカラの湯でノートを拾った。空を飛ぶのが苦手。甘党。

桜ノ宮トキエ

ループ魔法学園1年生。時間停止能力者。シャルロッテ氏に目の前で透視能力を見せつけられたが緊張していてあんまり覚えていない。興奮すると口調がDAIGOっぽくなる。辛党。

まさか学園内に迷子センターが存在するとは驚いた。ショッピングモールかよ。もうそろそろ20歳を迎えるというのに迷子というのも恥ずかしいが、いた仕方ない。

ループ学園迷子センターNo.28というプレートが掲げられた扉を見つけた。No.28ということは、少くともこの学園内には28箇所の迷子センターがあるということか。とてつもない規模なんだな。

さっそく扉を開こうとするも、なかなかに重くて開きにくい。鍵がかかっているわけではなさそうなのだけど……あと、ノブにやたらと埃が溜まっているのも気になる。もしかしてここ最近はほとんど使われていないのか?

「……そこ、開けちゃダメ。石にされちゃうよ」

背後から、少女の声が聞こえた。振り向くと、茶色がかったツインテールの、おそらく10歳くらいの女の子。赤い服に紺のスカート。

「石にされたら、ももだに先生の実験台にされちゃうよ」

「……実験台?ももだに先生?」

「そう。実験台。私、天満泉(てんま いずみ)も実験台のひとり。20年前にももだに先生の実験台にされてから、この姿のままずっと歳をとらないの」

「え、えーと……。どういうことなんだろ?あと、ももだに先生って誰?」

「知らないほうがいいよ。じゃあ、わたしは温泉に浸かってくるから」

「え?なに?温泉?」

……ガクッ!

身体が止まったのを感じた瞬間、僕の意識が途切れた。

「はあっ、はあっ……。待ってよトッキー!走るの速いよお!」

「あんたがトロいのよ!箒から落ちたのも脚力不足のせいよ!もっと普段から鍛えなさい!」

「ううう……」

「もう少しで迷子センターよ!迷子センターにいるという確証はないけど、ストーリーの都合上いると思うわ!」

「あんまりメタネタやり過ぎると読者減るよ?ただでさえnoteで連載ものは読まれにくいって言われてるのにさあ……」

「そうこうしてるうちに迷子センターが見えたわよ!都合良くサクサク行くわよ!……ん?あの青年は……」

「あっ、やっぱり、例のノートの人だ!」

「例の変質者ね!」

「はっ……?」

気がつくと、目の前には髪の長い、僕と同年代か少し上くらいの女性がいた。

「すんなり見つかったわね……全然スリルがないわ。はじめまして、というべきなのかしら。私は桜ノ宮っていう、この学園の生徒」

「あ、はい。どうも。はじめまして」

「そして、この娘があなたがストーキングしてた子」

「トッキー!たぶんそんなんじゃないよ!たぶん!」

桜ノ宮さんの後ろに、例の魔法少女が立っていた。そっぽを向きながら。

「す、ストーキング……?いや確かにノートに似顔絵描きまくって1冊潰しましたけど、犯罪行為なんて……」

「いや、一瞬しか会ったことない人の似顔絵でノート1冊潰すのもなかなか引くけどね……。まあいいわ」

「大丈夫?怪我してません?わたしもこの学園の生徒。森ノ宮マホミ」

「えっ!あっ!はいっ!えーと、えーと、……なんて言うんだっけ?天王寺トール、19歳、A型で射手座、靴のサイズは28cmですっ!」

彼女に話しかけられて、思わず自分の本名を忘れてしまった。本名を思い出せたら今度は別にいま言わなくてもいい情報まで口にしてしまった。

「28cmですか……わたしは24cmです。誕生日は4月21日……っていうのはともかく。あ、あのノート、返しますから、後で教室に行きましょう」

「あ、あの、はい。なんでここに飛ばされたのかっていう大前提からしてよくわかってないんですけど……あと、……なんでそっぽ向いてるんですか?」

「いや、だって、わたしの顔見たら逃げるんだもん……」

ああ、そういえば……。客観的に見たら、他人の顔を見たら逃げるすんげえ失礼な奴だな。

「あ、あの……」

ここは勇気を出さなきゃ。

「僕に振り向いてくださいっ!」

必死に叫んだ。

「え?それって……?」

「あ……」

……言ってから思ったが、これ、ほとんど告白みたいなものじゃないか……?

顔がどんどん赤らんできた。約23000字かかってやっと彼女とまともに会話できたと思ったらいきなり告っちゃったよ。

「え?いえ、あのー、ほぼ初対面だし、わたしそういうお付き合いとかしたことないので、ちょっとすぐには……」

そうかあ、そういうお付き合いとかしたことないのかあ。なんかわからんがなんとなく心の中でガッツポーズを取る自分がいる。

「そ、そそそうですよね。あの、物理的に振り向いてください。逃げませんから……」

「こうかな?」

彼女が、僕の目をまっすぐに見た。危うく卒倒しかけだが、なんとか心臓を落ち着かせて、話しかけてみた。

「あのぉ……、教室まで案内してください」

「うん」と頷いて、彼女が僕の右手を引いた。一度は落ち着いた僕の心臓が再び爆発しそうになり、またどこかへ走り去りたくなった。

「ほらやっぱり、すぐ逃げようとしちゃうもん。手を繋いでないと、また迷子になるから……」

ふと、桜ノ宮とかいう、彼女の友達の方を見てみた。

「……ぷぷぶぷぷ……」

吹き出していらっしゃる……。完全に状況を楽しまれている。

僕の右手が彼女の左手に触れていると思うと正気を保てない。ダメだ。しかしここはサウナではないので心頭滅却はできない。なんとか違うことを考えよう。違うこと……違うこと……。ん?

そういえば、気を失う前に、小さい女の子に会ったような。ももだに先生がどうとか言っていたような。

「あ、あの、……」

「なんですか?」

斜め25度に首を捻る彼女を見て、僕は窒息しそうになった。いちいち可愛くて会話に時間がかかるなあもう。

「こ、こん、……この学園に、ももだに先生という人はいますか?」

「え?桃谷先生って、あの?」

「いるんですか?」

「名誉教授だけど……」

「さっき、ここにいた女の子が、言ってたんです。ももだに先生がどうの、実験台がどうの、って……」

すると、桜ノ宮さんが身を乗り出してきた。

「それってもしかして……」

「トッキー、何か知ってるの?」

「あの噂が、本当だとしたら……」

「噂?」

「……桃谷先生は迷子センターと人間硬化室で、とんでもない悪事を働いてるわ」

「あ、悪事?!」

彼女と声が被った。ちょっと嬉しい。いやそんなこと考えている場合じゃない。実験台とか悪事とか、なんかヤバげだぞ。で、桜ノ宮さんがちょっと嬉しそうなのはなんなんだよ。

サウナはたのしい。