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『CHOCOLATE≠CIGARETTE』(1/20)

迂闊だった。

わざわざ、地元から7駅も離れた場所の書店まで行ったにもかかわらず、だ。どうしてバレてしまうんだ。だいたいここは特に遊ぶところもない過疎った地域なのに、この女は何が目的でここにいるのか。

そして、何が目的でそんなことを要求するのか。いやしかし、弱みをぎっしりと握られた今、否応なしにこの方に従わなければならない。

「……じゃあ、俺が散歩についてったら、エロ本のことは秘密にしてくれるってことでええの?」

「うん、内緒にしてあげる」

そう言って、島本見歩(しまもと みほ)はクスクスと笑った。同じクラスだが、話したことはほとんどなかった。もしかしたら初めて話したかもしれないくらいだ。髪を両端で括っている。ツインテールというやつか。けっこう髪が長く、肩にもたれかかっている。邪魔じゃないのだろうか。ボーっとしていたら、こんなことをいきなり訊かれた。

「そういえば、君の名前、なんだっけ?」

「もとぐち……」

本口工(もとぐち たくみ)。これが俺の本名。この字面から察せる通り……。後ろから読めば「エロ本」。このことで、友人から散々イジられている。

何を隠そう、俺の趣味はエロ本収集なのだ。出版界の斜陽と呼ばれるこのご時世、我々プロエロ本収集家が、少しでもエロ本界の経済を好転させるべく書誌を買い支えなければならない。ちなみに、もちろん電子媒体も応援しているので年齢を偽ってFANZAに登録している(※良い子は真似してはいけません)。

今日は月刊エロマンガ雑誌、悦楽バッファローの発売日なのだ。毎月、同じ高校の女子からの身バレを避けるために、あえて地元から離れた書店に赴いている。Amazonは万が一の親バレが怖いので使いたくない。それに、エロ本を入手した帰り道のホクホク感はたまらない至高の時間なのだ。なのに、だ。

「なあなあ、どんなジャンルのエロ本買ったん?ちょっと見してや。もしかして、引くようなヤツ?熟女系とか?」

「やめてくれ!やめて!やめろ!」

「本口くんって、真面目なイメージしかなかったけど、変態やってんなあ」

同じ高校の女子に身バレしてしまった。ニヤニヤしながら俺を追い詰めてくる。ちくしょう。しかし、バレてしまったものは仕方ない。彼女の提示する条件を潔く飲もうじゃないか。

「散歩に同行したらええんやろ。で、どこ行くん?」

「わかんない」

「え?」

「決めてへんもん。別にここ、なんもないやん。美味しそうなケーキ屋さんとか、ブティックもないし。ラウンドワンもジャンカラもない。駅前にフレンドマートがあるだけやん」

「じゃあ、なんの目的があってここで降りたん?」

「散歩!」

「?」

どうもよくわからない。ぶらっと駅を降りてぶらっと散歩。地井武男かよ。ちい散歩かよ。

(2/20につづく)

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サウナはたのしい。