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審査員エヴァ・ポブウォツカ先生より「ショパンコンクールに寄せて」

予備予選及び本大会で審査員を務める、ポーランドの名ピアニスト、エヴァ・ポブウォツカ先生が、ショパンコンクールに寄せて、そして参加する方、聴いてくださる方々に素敵なメッセージを寄せてくださいました。

エヴァ先生は、1980年のショパンコンクールの入賞者で、その後は国際的な演奏活動の傍ら、教育家としても多くのピアニストを育てました。日本人のお弟子さんも多く、また、東京藝術大学の客員教授として着任していた期間には、ピティナの事務所のすぐ近くに東京芸大の教員宿舎があったので、スーパーから買い物袋を提げてお帰りになるお姿もよくお見掛けしました。日本をこよなく愛し、そして音楽にすべてを捧げる素敵な先生です。

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ショパンコンクールに寄せて

今年の私の生活は、多くの他のピアニストたちと同じく、ワルシャワのショパンコンクールを中心にまわっています。

私の記憶に残っている最初のショパンコンクールは、1970年に開催されたギャリック・オールソンが優勝した回です。また、ジェフリー・スワンというピアニストのこともよく覚えています(編集注:予選落ちが大きな反響を呼んだ)。

1975年、クリスティアン・ツィメルマンの優勝には、ポーランド人全員が喜びに沸きました(素晴らしく、喜びに満ち、そして完璧な演奏でした!)。カタジーナ・ポポヴァ=ズィドロンのマズルカ作品30の解釈にも感銘を受けたことも、よく覚えています。

1980年に開催された次のコンクールがついにやってきました。ポーランドの政治が大きく変化した時期であり、そして「私自身」のコンクールでもありました。子供の頃からこの大会に参加することを夢見て、何年もかけて準備してきました。今では、「私にとっての」コンクールは、私自身の感情やパフォーマンスの記憶だけではなく、ダン・タイ・ソン、タチアナ・シェバノワ、イヴォ・ポゴレリッチといった素晴らしい友人たちから得られるインスピレーションの記憶ともなっています。彼らの業績、見事なピアニズムと解釈には、誰もが敬意を表することでしょう。

ワルシャワのショパンコンクールは、他のピアノコンクールに比べてもユニークです。コンテスタントは、ショパンを弾くだけでなく、ショパンの故郷を知ろうと長い時間をかけて準備してきます。彼らはポーランドを訪れ、ポーランドの雰囲気を感じ取ります。そうして音楽の真髄に触れ、深い理解を持って演奏する方が、このコンクールでは出てくるのです。私は、2005年、2015年、そして今年と、光栄にもこのコンクールの審査員を務めさせていただきます。私のアイドルでもある優れたピアニスト仲間たちとともにこの仕事をさせていただくことは、私にとって特別な経験です。

私たちは、音楽コンクールは単に「競う」だけのものではないということを忘れてはなりません。つまりそれは、ショパンの芸術を讃えるものでなければならないのです。ショパンのことを私が今描写するとすれば、穏やかで、思慮深く、耳を傾け、優しいというだけでなく、官能的で、情熱的で、革新的で、詩的で、調和がとれていて、歌に満ち、そして後悔にも満ちているように思えます。私は、彼が宿屋や居間にいる姿を思い浮かべます。彼の切望について読み取れば読み取るほど、彼の理解が深まるのを感じます。

コンテスタントの皆さんは、自らの音楽の中に、より深い真実とより大きな美を常に求めなければなりません。これこそが、私たちピアニストにとっての~単なる「職業」というのではない~真の意味なのです。

ぜひ、このコンクールを聴いて、ショパンの音楽の美しさに触れていただきたいと思います。

エヴァ・ポブウォツカ
ピアニスト
第18回ショパン国際ピアノコンクール審査員

(訳:ピティナ広報部)


ピティナには、2014年にコンペティション全国大会ゲスト審査員としてお招きしたほか、公益財団法人福田靖子賞基金主催のマスタークラスにも講師としてお越しくださり、毎回、密度の濃いレッスンをしてくださいます。凛として、時に厳しく、けれど根底に大きな優しさのあるレッスンです。

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この1年は、来日が難しくなっていますが、ヤマハ株式会社様のご協力により遠隔自動演奏装置「Disklavierディスクラビア」を用いたリモートレッスンでポーランドから多くのピアニストを指導してくださいました。(公平を欠かぬよう、ショパンコンクール出場予定者は指導されません)

ここでも、ポーランドと日本との距離を感じさせない熱いご指導と、ときにユーモアを交えながら日本のピアニストたちを深く愛する人間性とで、素敵なレッスンをしてくださいました。

リモートで尾城杏奈さん(2020特級グランプリ)を指導するポブウォツカ先生

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2014年、ピティナ・ピアノコンペティション全国大会祝賀会を終え、同僚の海外招聘審査員やピティナ会員の先生方と(左から2人目がエヴァ先生、ちなみに左から6人目のメガネの女性が、チョ・ソンジンの師匠であるシン・スジョン先生)

ポブウォツカ


まだまだ審査は折り返し地点を過ぎたばかりですが、審査員の先生方が無事にこの大きな仕事を成し遂げられるよう、応援したいと思います。

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