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谷口が見ているサイコロの現状とこれから2023(1)

2023年が始まりました。
この度、谷口が今考えていることを、スタッフの皆さんともシェアしたいと思い書き出しています。そしてその一部は、サイコロを知ってくれている皆さんにもシェアできたらと思います。
ですので、基本的にはサイコロの中の話になりますので、ご容赦下さい。
そして長いです。ご容赦ください。

さて一般社団法人Psychoroがはじまり7年目を迎えています。
振り返ると、これまでスタッフの皆さんとは年度の計画は共有してきましたが、改めて“思いを伝える”ということをしてこなかったように思います。
サイコロの理念や、現状の業界をどう捉えているのか、そして何を目指しているのかなどです。それはこれまで、小さな集団の密接な繋がりの中で共有できていたからです(少なくとも僕はそう思っています)。

では、なんで今、こうして文字にして改めて伝えようと思ったのか。
単純に、サイコロが大きくなってきているからです。

これから新たにスタッフとして加わる人もいますし、スタッフの皆さんが
サイコロについて聞かれること、話すこと、書くことが増えると思います。その過渡期にいる今、改めて、言葉として伝え、一緒に話し合いたいと思いました。

1.誰もが安全に対話できる社会

サイコロの理念であり、目指すところです。
もちろん私たちサイコロはメンタルヘルスケアを専門とした集団ですので、精神疾患を患う方々とのことが中心にはなりますが、これは病気や障害の有無を問いません。LGBTQをはじめマイノリティと言われる方々や、妊娠している女性、高齢者、子ども、誰しもが安全に対話できる社会になることを、サイコロは目指しています。

私たちサイコロの全ての活動はここに行き着くものでなければなりません

大きな事業はもちろんですが、小さな企画からミクロな意思決定、個人の心理支援における1つ1つの言葉掛けまでも、ここに集約されます。
もちろん、サイコロ内のチーム運営にも当てはまります。
サイコロの“行動規範”と言い換えても良いかもしれません。

2.大切にしたい3つのこと

 理念を掲げた次には、missionとかvalueとか横文字が色々と並ぶんですが、どうもそこがまだ整理できていません。ですので、大切にしたいこととしましたが、講演などで話しているいつものやつです。

大切にしたい3つのこと

1) 精神医療と地域をつなぐ

 サイコロを立ち上げた当初の目的です。精神医療機関での臨床経験で感じたことの1つは「(精神医療において)医療機関でできることって限られている」ということでした。今では地域との役割分担だと理解していますが、地域にそのように認識している人はほぼいないのではないでしょうか。非薬物療法としての認知行動療法(CBT)の提供だけでなく、精神医療機関のできること(役割)とできないこと(限界)を伝えていくことも役割だと感じています。

2) メンタルヘルスに興味のない人とのコミュニケーション

Covid-19感染症の影響でメンタルヘルスの問題が一段と注目されました。
しかし、メンタルヘルスの問題を“自分ごと”として考えている人はまだまだ少ないと感じています。メンタルヘルスの問題を身近に感じている人を増やすことは、サイコロが支援する方々が、安全に対話できる機会を増やすことにもつながると言えます。
 Covid-19感染症が拡大する以前は『サイコロトーク』として、地域のダイニングバーでのイベントや上映会(「「栞」上映会@隼Lab.」「デイアンドナイト上映&トークライブ in 鳥取」)を行いました。
 また、2021年からは、鳥取市役所内にあるfm鳥取において、月に1回ラジオ番組でメンタルヘルスについてお話しています。その名も「Psychoroな時間」。主に運転中に聞くことが多いラジオでの情報発信もその1つです。  
 さらに、こうした単発のイベントだけではなく、山歩きを通じてメンタルヘルスケアを体験してもらう「COCO TREK」(詳細は後述)もその1つと言えます。
 さまざまなアプローチで、メンタルヘルスについて届けていきたいと思います。もちろん、スタッフの皆さんの興味関心から、自由なアイデアも教えてください!

「栞」上映会@隼Lab.

3) 科学的根拠と個別性のバランス

 サイコロは心理学が専門ですので「心」を専門に扱っている集団ともいえます。そして、その支援になると、“寄り添う”や“受容と共感”などのワードで溢れています。ただ、我々が専門にしているCBTは「行動科学」とも表現され、定量的に測定し検証された科学的根拠(エビデンス)を重視する立場です。ですので、私たちの情報発信や意思決定においては、科学的根拠に基づいたものでありたいと思っています。
 一方、個別性も重要です。なぜなら、科学的根拠として示された結果は、あくまで統計的検定によって数学的に算出されたものであり、完全ではないからです。CBTの強みとして「うつ病や不安症の治療に科学的根拠がある」と言われますが、100人いたら100人に有効かというと、そうではないということで、それは科学的根拠を示す研究上でも許容されている範囲があるわけです。つまり、私たちの目の前にいる患者さんが、その許容される範囲に入るような人なのかもしれないわけです。ですので、研究において示された結果は前提としますが、目の前の事象や人の個別性も同時に大事にしていきたいと思っています。それは近年、医療現場で重視されるエビデンスに基づく医療(EBM:Evidenced Based Medicine)ともいえます(下図)。

これら理念から大切にしたいことを書き上げてみました。
ただ、これらはサイコロを縛るものであってはいけないとも思っています。逆に、これらに基づいていればOKなんだと思ってください。
柔軟な視点で、自由な発想で、軽いノリで、勢いで・・・

色々なアプローチで、安全に対話できる社会を作っていきましょう。

3.事業のこと

理念や大切にしたいことに基づいて以下のような活動をしてきました。
主に、「心理支援」「教育・研究活動」「普及啓発・社会実装事業」です。

← 臨床業務・社会的事業→

1) 心理支援

  CBTに基づく心理支援を、医療機関や学校、企業、そして個人に対して行なっています。学校は主に地域の中学校・高校に携わっています。また、企業は県内外の100名〜700名ほどの企業が中心で、業種も一般企業から医療機関、福祉法人など様々です。学校や企業では、個人に対する心理支援のほか、保護者や教員、企業では管理職や上司に対するコンサルテーションも行なっています。また、2022年には、地域の精神医療機関からの紹介で、個人に対するCBTカウンセリングの依頼が急激に増えました。

2) 教育・研究活動

① サイコロワークショップ
 サイコロでは『心理職の卒後教育』をテーマにワークショップを企画しています。これまで谷口自身が医療現場の臨床家としての経験が中心であるうえ、大学准教授としても数年、大学教育にも携わりました。それら経験から、特に心理職として臨床現場で実際に働く上で求められる知識を取り上げ、企画しています。

ワークショップの一例

②日本一楽しいオンラインゼミ
 臨床現場での研究をサポートする事業として、「日本一楽しいサイコロゼミ」を行なっています。サイコロゼミ説明会2022の動画(https://youtu.be/tPR2inFRAxM)があるので、詳細はそちらからどうぞ。
なぜ、臨床現場での研究をサポートしたいのか。それは、谷口個人が臨床現場で研究に取り組んできた経験から、臨床現場の心理職こそ、研究をしていくべきだと感じたからです。理由は2つです。研究をすること自体は

まず、研究を進めていくことで最新の知見を知ることができることに加え、論理的思考や情報収集能力、文章表現能力のトレーニングになります。それは、日々の臨床現場にこそ、世界の臨床を前に進めるリサーチクエスチョンが眠っているということです。多くの心理職が現場に出ると研究から離れてしまいます。
2021年頃から本格稼働し、臨床現場で働きながら研究もしたいと思っている臨床家をサポートしたいと考えています。
 コンテンツとして、以下の3つに取り組んでいます。
①リサーチクエスチョンを研究計画書に落とし組むまでも学ぶコース、
②学会発表や論文執筆をコアに支える個別指導コース
③国内トップレベルの研究者に相談できるコミュニティ
 なかなか時間がなくて取り組めていませんが、今後も薄くても続けていけたらと思っています。

サイコロゼミ2022チラシ

そのほか、谷口が認知行動療法に関する個別スーパービジョンを行なっていたり、スタッフを中心に、地域で認知行動療法の勉強会を行なっています。
ここは改めて深掘りしたいと思いますが、認知行動療法は地域精神保健における「ソフト面のインフラ」になりうると考えています。全国と地域、双方に展開貢献していけたらと思っています。

3)社会実装

 社会実装とは『得られた研究成果を社会問題解決のために応用、展開すること』です。サイコロでは科学的根拠を重視することは先に述べたとおりですが、より細かく考えると「科学的根拠を作る・見出す」というより、研究者が明らかにした「科学的根拠を使う」、つまり、その知見を“どのように活かすか”という社会実装に向けて取り組むことが役割だと思っています。
(もちろん科学的根拠を作る・見出す活動にも力を入れたいですが)

① COCO TREK
 サイコロが取り組んできた社会実装の取り組みの1つが、2019年から取り組んできた『COCO TREK』(通称ココトレ)です。

認知行動療法の中に、うつや不安に対して効果が認められている、マインドフルネスやセルフコンパッションといった技法があります。ビジネスの世界でも盛んに取り入れられていますが、これらの技法を中心に、効果のあるメンタルヘルスケアを自然の中で体験的に理解してもらうというものです。

非常に近い取り組みとして「森林セラピー」があります。
すでに全国的に展開されている取り組みですが、この森林セラピーとの違いは、ココトレは「メンタルヘルスケアの体験を持って帰れる」という点です。

森林セラピーについてホームページを見ると、“森林セラピーは、科学的な証拠に裏付けされた森林浴のことです” とあります。森林セラピーのプログラムの中には、ヨガやアロマセラピーなどを取り入れたプログラムもあるようですが、基本的には、森に入ることによる効果が中心です。森に入ることによる心身の有効性は、科学的に裏付けがあるものであり、確かに良いものなのだと思います。ただ、私たち日常に森があるわけではありません。ですので、森林セラピーを受けているときは良いと思いますが、日常生活に戻った時に遭遇するストレスにうまく対処ができるようになるとは言えません。

一方ココトレは、マインドフルネスやセルフコンパッションといった、「科学的に有効性が検証されているメンタルヘルスケアの手法を、森林を通じて体験してもらう」ことが目的です。極端にいうならば、森林じゃなくてもいいんです。森林を通じてクリアに体験をしてもらい、それを日常生活に持って帰ってもらう。それができて、心理支援の社会実装だと考えています。

なお、このココトレは、国内においてセルフコンパッションの第一人者の一人でもある関西学院大学の有光教授(https://clinical-affective-science.org/)と一緒に作ってきました。有光先生とは谷口が大学院修士時代からお世話になっている先生で、お声がけしたところ二つ返事で「やりましょう!」と了解くださいました。


②「ゲームとのつきあいカタログ」の作成・配布
 2022年には、「ゲームとのつき合いカタログ」を作成・配布しました。元々、私たちが研修等で発信する内容はあくまで概念のレベルであって、具体的にどうしたらいいのか、ということについて触れられていないと思ってきました。そうした中で、ゲーム依存に対するワークショップをお願いした横光先生(人間環境大学 講師)と話し合う中で、「カタログを作る」というあんが出てきました。そこでできたのが、「ゲームとのつきあいカタログ」です。

2021年12月から主にSNSを通じて無料配布を始めたところ、2022年11月の約1年間で1804部(567名)を配布いたしました!
また、2022年12月に行われた日本認知療法学会@東京でも80部を設置させていただきましたが、初日でなくなるなど、そこそこの反響をいただいたかと思います。

今後、このカタログはバージョンアップしていく予定にしていますので、ご期待ください!

4.まとめ

 まだ表現できていないこともありますが、サイコロってこんなところです。そして今後、もっと取り組みたいこともあります。公衆衛生の視点で考えると、エビデンスに基づいた心理支援に触れる機会を増やすことだと思っていたり、もっと世界に目を向けたかったり・・・それはまた次の機会に譲ることにします。楽しみにしていてください。

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