ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY(2022)
美しく、圧倒的な歌声が胸を熱くする
数々の名曲を遺したホイットニー・ヒューストンの生涯
私が初めて好きになった洋楽アーティストはホイットニー・ヒューストンです。デビューアルバム『そよ風の贈りもの』(‘85年)、セカンドアルバム『ホイットニーII〜すてきなSomebody』(’87年)は名曲揃いで、それまで日本のアイドル歌謡にどっぷり浸っていた昭和の典型的な女子高生だった私は、ポップでエモーショナルなホイットニーの楽曲が醸し出す大人の世界に酔いしれ、夢中になって聴いていました。
ホイットニーの初主演映画『ボディガード』(‘92年)のサントラ盤も大好きでした。でも、この後、何となく聴かなくなってしまい、ホイットニーのことはR&B歌手のボビー・ブラウンと結婚後、トラブルに見舞われているようなニュースをたまに見聞きしていた程度ですが、まさか48歳の若さで亡くなってしまうなんて! 本当に驚きました。
本作は、急逝から10年を経て製作された、ホイットニーのデビュー前から亡くなるまでの足跡をたどった伝記映画です。早逝したスターたちと同様、類い稀なる歌唱力を持ち、「The Voice」と呼ばれた稀代の歌姫もまた、輝かしい栄光と引き換えに苦悩の人生を歩んでいたことがわかります。
『ボヘミアン・ラプソディ』(’18年)の脚本家アンソニー・マクカーテンが手掛けたストーリーはホイットニーの光と影をドラマチックかつ、わかりやすく伝えてくれます。
ホイットニーは多くのデモテープの中から自身で楽曲を選んでいたようですが、自ら「歌いたい」と思った楽曲が同胞の黒人たちから思わぬバッシングを受けてしまったこと、ホイットニーが一番望んでいたのは温かい家庭だったこと、ホイットニーを不安定にさせたのが、トラブルの元凶とされた夫のボビー・ブラウンだけではなかったこと、そして、麻薬に溺れたホイットニーを献身的に支えた人々がいたことなど、知られざるホイットニーの姿が明らかになります。
世界的歌手なっても、良き妻・母でいようとしたホイットニーはままならない状況に苦しみ、麻薬に逃げ、低迷することに。それでも、二人三脚で歩んできたプロデューサーのデイヴィス、元パートナーのロビンや母シシー、最愛の娘ボビー・クリスティーナらに励まされ、再び歌う意欲を取り戻したホイットニーはグラミー賞の授賞式へ向かおうとしますが……。
映画に描かれたホイットニーの最後の日の出来事はフィクションの域を出ませんが、一体どんな気持ちだったのでしょう。本作を観ると、改めて残念で哀しくなります。彼女には手を差し伸べてくる人々がおり、決して孤独ではありませんでした。だから、彼女の不慮の死は防げたのではないかと思うのです。
衝撃的な死から一転、ラストシーンでは、再びワールド・ミュージック・アウォードのステージシーンになり、ホイットニーの伝説的なパフォーマンスがよみがえります。ホイットニーの全盛期と言われる、とっておきのステージを核にして、巧妙に練り上げられたマクカーテンの脚本が見事です。それまでの伏線が回収され、ホイットニーが歌に託した強い思いがわかると、涙なくしては見られません。
本作の最大の見どころは、ホイットニーの歌唱シーンには、ほぼホイットニー自身の歌声が使われていること。ホイットニー・ヒューストン財団の協力の下、ホイットニーのライブ音源が公開され、まるで本当にホイットニーのライブに行ったような気分になります。彼女の名曲をたっぷり聴かせるために上映時間は長尺の142分となっていますが、とても贅沢な時間に感じました。
私は約30年ぶりにホイットニーの歌をじっくり聴きましたが、やっぱり良かったです。特に『Greatest Love Of All』が大好きで、情感豊かなメロディと力強い歌声に心を打たれました。
ホイットニー役に大抜擢されたのは、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のナオミ・アッキー。ホイットニーの元プロデューサー、クライヴ・デイヴィスが製作陣に名を連ねています。
ホイットニー・ヒューストンの素晴らしさがわかる非常に良い映画でしたが、やはりホイットニーの半生の映画なんて観たくなかった……。エンドロールで数々の偉業を紹介した後、彼女の在りし日の姿が流れると、無念の涙が流れました。
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