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そもそも、プロトタイピングってなんなの?実践者と研究者に聞いてみた!

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園田:僕は今まで、自らデジタルサービスの立ち上げを行ったり大手メーカー向けにサービスの立ち上げの支援を行ってきました。立ち上げもグロースもどちらにとってもプロトタイピングは事業促進にとってとても効率的な手段だと思っています。

皆さんは、レゴブロックで遊んだことはあるでしょうか?とりあえず作ってみて形が見えて、違ったらばらして新しい形を模索できる。レゴ遊びでは作っては壊しを繰り返し簡単に自分の理想に近づけてゆくことができます。1.作って→2.学び→3.壊す→4.再び作るようは「まずはやってみようぜ!!」ということだと思うんです。まさにこれがプロトタイピングが何か?を表しているかと思います。
でも、「やってみようぜ!」が通じないものってあると思うんです。例えば建築って、「とりあえず家建ててみる??」ってならないですよね。


なぜ、「やってみようぜ!」ってならないのかというと1.作って→2.学び→3.壊す→4.再び作るという一連の流れを試すとしても、<時間>と<コスト>が莫大で試すには現実的では無いからです。特に壊すという行為は不可能でしょう。
プロトタイピングというのは、<時間>と<コスト>を最小限にしつつ、主要体験やニーズを検証し、学びを爆速で得るための最適な手段だと思っています。
新規事業立ち上げをサポートしていく上で最も悲しいと思っていることがあります。「アイデアはあるのに実現しない」という状況が沢山あることです。可視化されていない状態で議論をするから空中戦で終わってしまったりとか、成功に対する根拠が不十分で会社内での決済が下りないだとか。その結果プロジェクトの進むスピードが鈍化してしまい、結局競合が先にリリースをしてしまったり…。たとえ開発が始まったとしても、途中で「これってどこに根拠があってやっているんだろうか?」という疑問が浮上し、開発がストップしてしまったり…。


これ全てプロトタイピングのフェーズを導入することで解決します。

プロトタイピングには、

1.可視化による意思統一とプロジェクトの爆速化。

2.<時間>と<コスト>を最低限に抑えることでの課題の早期発見。

3.定量データが揃わない段階でも事業の成功確率を上げられる。

4.脳内メモリをクリアにし、新しい視点を拡充できる。

などのわかりやすい効果があります。


かわうそ君、これで答えになってるかな?

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三富:個人的に、日本語で出ているプロトタイピングの書籍で最も良い本だと思っている、”ソフトウェアプロトタイピング ―より良い設計を求めて―”(*1)という本があります。この本では、プロトタイピングを活用した先駆者としてレオナルド・ダ・ヴィンチを挙げ、以下のように記述します(*2)。

“ダ・ヴィンチの遺した図面は、革新を追求する手段としてプロトタイプ を活用していたことを感じさせる。15世紀末、ダ・ヴィンチは後援者であるミラノの公爵の求めに応じて、工学的なアイデアの詳細なスケッチを描いた。これらの紙上のプロトタイプは、実現可能性についての時代の束縛から自身を解き放った。”

ダ・ヴィンチはここで、プロトタイピングを実現可能性を振り切り、新規性の高いプロダクトやソリューション(*3)を生み出すためのものとして捉えています。

上記のように、「プロトタイピングとは何のためのものか?」という軸で捉えてみると、他にも「機能を検証するためのもの」「ニーズがあるかを確認するためのもの」「気づきを抽出するためのもの」など、様々な目的が存在し、実に多様です。そもそもプロトタイピングはエンジニアリング分野で発展してきましたが(*5)、1990年代後半からデザイン思考分野で言及された論文も見られるようになり(*6)、カバー範囲を時代とともにより広範なものにしてきました。だからこそ、意味合いが切り取り方により変わり、非常に多様なのです。

このように、プロトタイピングは取り扱っている分野も広く、目的や意味合いも多様で、それ故なかなか定義しづらいものです。ただ、それを踏まえて抜け落ちてしまうこともあることを理解した上で定義しようとすると、「最終的な成果物が存在する前に、制作、もしくは既存に存在するものの組み合わせにより、特定の目的のために行った行動」などの定義が良いのではないかな、と思っています。

以上の定義は個人的な理解に即したもので、学術的なものではないです。そのため、念のためちゃんとした他の定義も紹介しますね。

機能や製造プロセスのテストに使用される本格的なプリプロダクションモデル(*7)

評価のために設計アイデアを客観視し具体化するもの(*8)

製品の形や雰囲気を示すために使用されるもの(*9)

以上が、私からの回答です。


(*1)「ソフトウェアプロトタイピング」と書名にあるように、基本的にはソフトウェア文脈でのプロトタイピングを対象としているが、それ以外の領域も少しカバーしています
 https://www.amazon.co.jp/%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%94%E3%83%B3%E3%82%B0-%E2%80%95%E3%82%88%E3%82%8A%E8%89%AF%E3%81%84%E8%A8%AD%E8%A8%88%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%81%A6%E2%80%95-Jonathan-Arnowitz/dp/4320097564
(*2)後の2名はトーマス・アルバ・エジソンとHenry Drefussです
(*3)ソリューションは「複雑な顧客の要求に対して個別化された提供物(*4)」とします。つまり、ダ・ヴィンチがミラノの公爵のためにつくった⾶⾏機械や先進的武器も、システム・エンジニアがクライアント企業のために開発した業務改善システムもソリューションです。
(*4)Aarikka-Stenroos Leena & E.Jaakkola,” Value co-creation in knowledge intensive business services: A dyadic perspective on the joint problem solving process”, Industrial marketing management 41.1 (2012)
(*5)Google Scholarで「Prototyping」がタイトルに入っていてかつ読める論文を調べたところ、1971年に出ている、航空機分野でのHarold D. Altisによる”Choices for the Future An Industry Viewpoint on Prototyping”が最も古かったです。この前にも存在していそうなのですが、見当たらず。情報あればいただけると幸いです。
(*6)2000年にIDEOのBuchenauが出している”Experience Prototyping”が最初の論文ではないかと思っています。そこからの言及で、 1997年のHarvard Business ReviewでSchrageによりイノベーションの重要な要素としてビジネスコミュニティで活用されている記述はあります。
(*7) Dieter, G.E. and Schmidt, L.C. (2009) Engineering design, McGraw-Hill Higher Education.
(*8) Richard,M.,&Harold,H.,&Miller,J (1992) In search of the ideal prototype, CHI ‘92 Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems,577-579.
(*9) Hyman, B. (1998) Fundamentals of Engineering Design, Prentice Hall, Upper Saddle River, NJ

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■メンバー
UXデザイナー・園田 励

テレビ番組や雑誌を立ち上げた後、2010年GrouponJapanに参画。UX等デザイン領域全般で創業期から事業安定まで携わる。2014年から株式会社イグニスで恋愛・婚活サービス「with」をPO・UXデザイナーとして立ち上げ、黒字化 。2019年には株式会社WARCに参画。デジタルプロダクト専門クリエイティブギルド、株式会社PRISMを創業。幼児用冷凍食品を扱うhomeal株式会社のCDOに就任。立ち上げては軌道にのると次に移りたくなる生粋の0→1職人。中国武術の使い手でもある。


プロトタイピング研究者・三冨 敬太

2018年よりデザインファームTsukuru to Ugoku Design株式会社を創業。デザイン思考を活用したデジタルソリューションのデザイン、シティプロモーション推進業務などを展開。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科卒業、研究員(プロトタイピング)。アプリケーション「オトトトン」でグッドデザイン賞・キッズデザイン賞受賞、など。日本創造学会所属 株式会社ステッチ執行役員 veernca合同会社 代表社員。サイゼリヤが好き。一番好きなメニューは柔らか青豆の温サラダと赤ワイン250mlデカンタとプロシュートと熟成ミラノサラミと白ワインの250mlデカンタ。

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