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0006 - カルチャーの地域格差

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『ゴッドタン』『ウレロ☆未確認少女』などのプロデューサーとしてお馴染みな、テレビ東京の佐久間宣行さん。

その佐久間さんのインタビュー記事を読んだら、共感できることばかりだし、いろいろ記憶が蘇ったりでとても楽しい気持ちになった。なので、何に共感して、どんな記憶が蘇ったのか、勢いでアレコレ書き連ねてみる。


▶︎DANRO ひとり時間を楽しむ:学生時代は「カルチャーオタク」でした・・・ テレビ東京・佐久間宣行さん 前編

特に共感したのは、この部分。

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福島県のいわき市に住んでいたのですが、30年前の東京とのカルチャーの格差はかなりのもの。映画はレンタルビデオ屋があるぐらいで、ミニシアター系の作品は見ることができなくて。そういう中で、比較的カルチャーの格差が少ないのはマンガだったんですね。
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まさにその通り。

佐久間さんとはほぼ同年代。僕は静岡県西部地区で生まれ育ったのだが、きっと福島県いわき市と状況も近かったと思われる。調べてみたら、東京までは共に200kmちょっと。ギリギリ日帰りで遊びに行ける距離感という点も共通している。

当時はネットも携帯電話も無い。テレビが今より遥かにメディアの王様として権力を誇っていた時代。映画館の数も限られていて、映画を観に行くこと自体が大きなイベントであって日常ではなかった。ビデオレンタル店やレコード店もあるにはあったが、小さいので目にする商品は誰しも知っている超有名作品ばかり。書店も小さかったので、少しでもマイナーな雑誌になると入荷などされない。

要するに、東京に比べると、マニアックな掘り出し物と出会う機会が圧倒的に少なかった。むしろ、普通に生活しているだけでは「機会が無い」と言っても過言ではないくらい。

そんな中、東京と静岡の地元で比較的カルチャーの格差が少なかったのは、たしかに「マンガ」だと思う。あとは「全国放送のバラエティ番組」と、ファミコンを始めとする「テレビゲーム」あたりかな。実際、この3ジャンルについては、全国どの地域の人とでも、世代が同じなら「みんなが通ってきたコンテンツ」として盛り上がることができる。


といいつつ、全国に点在する地方の中でも、静岡県や福島県は少し特殊かもしれない。なぜなら「東京へ行こうと思えば、そこまで無理せずに行ける距離感にある地方」だから。

埼玉、千葉、神奈川あたりなら、日常の中でちょっと足を伸ばせば東京に行ける。静岡くらいの距離になると、少なくとも子供が思いつきでひょいと東京に行くのは難しい。ただ、旅行としてなら無理なく行ける距離だ。

なので、小学生の頃から年に何度か、春休みや夏休みの時期に東京へ遊びに行くことがあった。そこで目にするのは、地元には無い大きさや数の映画館、レコード店、書店。映画館の入り口にある看板に描かれている、妙に気になる知らない作品。レコード店で目にした知らない名前のアーティスト。書店で初めて手に取った謎の雑誌などなど。とても限られた狭いタイミングだが「存在を知る機会」にはギリギリ恵まれた。

とはいえ、子供なので、見つけて気になったからといって気軽に買って帰るなんてできない。地元に無い面白そうなものが東京には溢れかえっているという事実だけ目の当たりにし、また格差のある日常に戻ってしまう。

これで生まれるのが、そう、枯渇感。

高校を卒業した後、東京の専門学校に通うために上京したのだが、東京を選んだ理由は佐久間さんとほぼ同じ。選びきれないくらいのカルチャーに浸りたかったから。

東京暮らしになって初めて新宿のTSUTAYAヘ行った時の感動は今でもハッキリ思い出せる。小さくて狭いビルながら、複数階にわたってレンタルビデオのパッケージが並んでいる光景に大興奮。地元では出会えなかった作品が溢れかえっていた。当時はレンタル代もまだまだ高く、1本400円ほどしていたが、お金が続く限り、気になる作品を片っ端からレンタル。ビデオテープが10本前後入った青い袋を抱えて新宿から帰る時がとても幸せだった。

映画もコンサートも演劇も、時間的にも金銭的にも追いきれないほどある。まだネットが無かったので、貴重な情報源として活用していたのは雑誌「ぴあ」。最新号が発売される度に隅々まで細かくチェックし、気になる公演情報をカレンダーにメモする。これまたとても幸せな時間だった。

今はネットが普及し、手元にはスマホがあって当たり前な時代。映画も音楽も、古いものから新しいものまで、いつでもどこでも楽しめる。地域による格差や枯渇感を覚える必要も昔に比べればかなり少なくなっただろう。ただ、これは「ネットで触れられるコンテンツ」での話。

静岡の映画館では上映されない作品はまだまだ沢山あるし、静岡では観られないアーティストのコンサートもまだまだ沢山あるし、静岡では観られない舞台もまだまだ沢山あるし、静岡では触れられない展示作品もまだまだ沢山ある。「直接足を運んで楽しむ体験型コンテンツ」に関しては、やはり今でも数では東京には圧倒的に敵わないのが正直なところ。

こう書くと、地方って残念だねという印象になるかもしれないが、落胆するべからず。

体験の種類は「体を動かす何か」だけではなく「ここでしか食べられないもの」「ここでしか会えない人」「ここでしか見られない景色」「ここでしか聴けない音色」「ここでしか触れられない巨大なもの」「ここでしか触れられない繊細なもの」などなど多種多様。それらが組み合わさればバリエーションも増え、価値も上がっていく。

特に「長い年月をかけたからこそ」のものは簡単に真似して作り出すことができない。そう考えると、「ここでしか」な何かは、東京よりも地方のほうが素材に恵まれている可能性が充分にある。少なくとも、どんな地方でも「東京では絶対に味わえない体験」を提供することはできるはずだ。

これらって全て「格差」があるから成り立つもの。格差というよりも「地域差」と言ったほうがしっくり来るかもしれないが、。

ともあれ、格差があるって昔はコンプレックスでしかなかったけど、格差があるから生み出されるコンテンツも沢山あるだろうし、よくよく考えてみれば悪いことじゃないかもしれないなと、価値観が良い方向に上書き保存された。

角度を変えて考えると、その地域特有の強みを見つけるためには「他地域との格差を感じる部分」が大きなヒントになりそうだ。

<ちなみに>

佐久間宣行さんのラジオ番組は毎週欠かさず聴くほど大好きです
佐久間宣行のオールナイトニッポンO


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