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Progmatを活用した国内最大規模の不動産STOについて

※本記事は2022.8.26に公開されたものをNoteへ移行しています。


1. はじめに

こんにちは、デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)運営事務局です。

前回の記事では、2022年2月21日に発表したプレスリリース「Progmat UT報告書の公表について」、および2022年7月29日に発表した「デジタルアセット用ウォレットサービスのリリース及び東京ドームシティでのUT発行について」に関連して「Progmat UT」およびUT(ユーティリティトークン:デジタル優待権)発行用アプリのβ版を用いたUTの発行について解説しました。

UTはSTとの掛け合わせでSTへの投資効果をもたらすのみではなく、既存の紙面での優待券や会員権に関する様々なコストを削減することや、発行した優待等の利用状況を把握し、発行体様のマーケティングに活用することができるなど、幅広い事業者様のニーズに応えることができるものと考えています。

さて、今般2022年8月18日にProgmatスキームを活用したSTO(以下、本PJ)をクロージング(ST完売・資金調達完了)しました。本PJは、ケネディクス株式会社(以下、KDX)様がプロジェクトオーナーとして、厚木に所在する資産規模146億円の物流施設を裏付け資産とするSTOであり、発行価格総額は約69億円と、国内最大規模のSTO案件となりました。

本PJにおいてMUTBは、先行STO案件と同様に「①受託者」、「②カストディアン(秘密鍵管理)」、「③STプラットフォーム提供者」、「④PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)」という4つの役割を担っています。今後もこれらを通じ獲得した知見やノウハウを基に、STO市場の拡大に貢献したいと考えています。

本記事では、本PJ詳細や発行されたSTの商品性、販売状況等について解説していきます。また、記事後半では、PJ当事者の「生の声」として、KDX様からいただいた、本PJのKDX様内での位置づけや今後の戦略についてのコメントを掲載していますので、今後のSTO検討に活かしていただけるとありがたいです。

なお、再掲となりますが「Progmatスキーム」については以下の過去記事でご紹介していますので、併せてご参照ください。

■Progmat想定スキーム#1:受益証券発行信託を用いたデジタル証券化の法的建付け
■Progmat想定スキーム#2:Progmat利用時の取引当事者間の処理フロー概要
■Progmat想定スキーム#3:デジタル証券市場におけるカストディアンの役割とProgmat上の処理フロー
■Progmat想定スキーム#4:受益証券発行信託を用いる際の実務課題と解決策
■Progmatスキームによる不動産STOのB/S遷移と評価額の考え方

2. 本PJ裏付資産概要・ファンド概要

本PJの対象資産は、厚木の物流施設です。投資家の皆様の需要状況を踏まえて、1口当たりの発行価格は100万円、発行口数は6,915口としており、総額69.15億円分のSTを投資家の皆さまに販売し、完売しております。ファンドの運用期間は約7年間で、アセットマネージャー(以下、AM)の判断により運用開始から約3年後より早期償還が可能となり、また、3年を限度として売却時期の延長が可能です。

本PJの裏付資産概要・ファンド概要を下図の通り簡単にまとめています。

3. 本PJにおける協業企業様と各社の主な役割

本PJにおける主要な協業企業は、発行体としてのKDX様、STの販売を担う証券会社の大和証券株式会社(以下、大和証券)様です。本PJはKDX様にとっての3号案件として、スキーム構築、各種論点整理、社内体制整備、ST発行手続きを経て実行にいたっています。

ここからは、各社様の役割について解説致します。

(1)KDX様
不動産運用会社のKDX様は本PJの発起人であり、本PJにおいて中心的な役割を果たしています。また、KDX様は厚木の物流施設「ロンコプロフィットマート厚木Ⅰ」の不動産信託受益権を、本PJの裏付資産として拠出しています。その他、KDX様の関連会社であるケネディクス・インベストメント・パートナーズ(以下、KIP)様は、受益証券発行信託(以下、川下信託)のアセットマネジメント業務を担っています。

①委託者兼当初受益者
本PJの委託者兼当初受益者はKDX様が匿名出資を行っている法人である「合同会社KLF2(以下、KLF2)」です。ST発行のタイミングでは、KLF2が川下信託受託者であるMUTBとの間で川下信託契約を締結し、その際の委託者兼当初受益者としての役割を担います。

本PJにおいて、川下信託契約によって設定される受益権には一般受益権、精算受益権、ローン受益権の3種類があります。一般受益権は大和証券様の引受により資金化される受益権です。精算受益者の役割については後述の「③精算受益者」にて説明します。また、ローン受益権は、川下信託の段階でレバレッジを利かせるためにローン相当額を元本金額として発行するものです。

②川下信託のAM
本PJにおける川下信託のAMとしての役割はKDX様の100%子会社であるKIP様が担っています。AMとしてのKIP様は、アセットマネジメント契約に基づいて、川下信託受託者から委託を受けて、本件不動産受益権の処分、運営及び管理等並びに金銭の取得、処分及び管理等に関する業務を行います。そのため、川下信託受託者はAMの指名や交代に係る裁量や、運用判断に関する裁量を持たず、専らKIP様の決定に従い業務を遂行する建付けとなっている点は過去の案件と同様です。

③精算受益者
Progmatスキームでは、ST償還時に残存する不動産特有の債権債務の承継先を一般受益者(=個人投資家)としないために、スポンサーである委託者サイドで承継する設計としており、委託者サイドの関係会社様が精算受益者としてスキームに介在します。この点については、以前の記事でも紹介していますので、併せてご参照ください。 (不動産STO1号案件#1:プロジェクト詳細と商品性

本PJでは、KDX様が精算受益者となっています。本PJにおける精算受益権の発行数は1個、元本額は1万円であり、先行案件と同様に投資収益の還元を優先的に受けるものと劣後するものに分けることを企図したものではありません。

なお、不動産への継続的な関与をしつつオフバランスの実現を目的とする場合5%ルールを遵守する必要がある点や、当該精算受益権の性質として、運用期間の期中配当は無く、最終信託配当支払日時点で川下信託に残存している金額のみが分配される点は、先行案件と同様となります。

(2)大和証券様
本PJにおいて、大和証券様はSTの取扱いおよび保護預り業務を担っています。引受契約により、委託者兼当初受益者から一般受益権を引受け(引受口数は6,915口)、2022年8月10日から8月16日の期間で募集をしました。

また、本PJにおいて、大和証券様はSTの秘密鍵の管理および権利移転等に係る業務を、カストディアンとしてのMUTBに委託するため、MUTBとの間で業務委託契約を締結しています。その他、STの取扱い事務の一部である投資家対応を担っています。投資家への配当に際し、川下信託受託者としてのMUTBは、大和証券様に対象投資家分の配当明細を交付の上、配当原資を一括して支払います。大和証券様は当該配当明細に従って、各投資家の源泉徴収等税務処理を実施のうえ、配当金を分配します。

ここで、これまで説明して参りました本PJ①の座組を簡単にまとめると下図の通りとなります。

4. STの販売・商品性

ここからは、発行されたST(以下、本ST)が、どのような商品性を有し、どのように販売されるかを解説します。

(1)裏付資産
概要については前述していますが、本STの価値・収益性の裏付けとなっている不動産(以下、本物件)について、より詳しく内容を見てみましょう。本物件の外観は以下の通りです。

本物件は、主要高速道路の結節点へのアクセスが良い、良好なロケーションである点、テナントニーズに応える築浅かつ希少な大規模物流施設である点、上場企業グループ会社を中心としたテナント構成による安定的な賃料収入期待できる点が特徴です。

不動産マーケット環境として、物流施設の賃貸市場については、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の稼働率は、概ね98%以上の高稼働率を維持しながら安定的に推移しており、7月1日現在、コロナ禍においても同様の傾向を維持している状況といえます。

(2)本STの販売
本商品は、STとして発行された一般受益権を引受証券である大和証券様が引受審査等のプロセスを経て引受を行い、公募にて投資家に販売するものです。本STの購入に際しては、大和証券様の証券口座を有している必要があります。

本ST購入時の証券会社様と投資家との間の手続きとしては、基本的には従来の投資商品を購入する場合と変わりませんが、大和証券様制定の取引約款に同意いただく等の必要があります。その他、詳しい対応事項については過去の記事(不動産STO1号案件#1:プロジェクト詳細と商品性)にて解説していますので、併せてご参照ください。

本STの投資単位について、1口当たりの発行価格は100万円、最低投資単位は1口からとなっています。募集は前述の通り8月中旬に実施しており、既に発行は完了し、完売しています。

ここで、今までの説明のまとめとして本STの販売・商品性について、KDX様の先行案件の情報とともに掲載します。

次章では、PJオーナーのKDX様から、本PJのKDX様内での位置づけや今後の戦略についてのコメントを頂戴していますので、紹介します。

5. KDX様のコメント

不動産の特性である「分かりやすさ」・「安定性」と金融の効用である「小口化」・「売買流動性」を併せ持つ不動産STは、証券会社の口座を介して投資できる利便性に優れた不動産投資手法であり、幅広い投資家層の多様な投資ニーズに応え得る新たな投資商品と考えております。

ケネディクスでは、デジタル技術を活用した証券化手法である不動産STをREIT、私募ファンドに次ぐ「第三の事業の柱」とすべく、事業化を進めるとともに本案件含めてこれまで三つのSTOを行って参りました。その中で、本案件は、過去のSTO時における販売フィードバックに基づき、商品化の要望の多かった物流施設を裏付け資産としたものです。個人投資家の方々にとっては直接投資することの難しい、機関投資家クオリティの大型物流施設であり、その魅力を余すことなく投資家の方々に訴求するため、目論見書やリーフレットに加えて、本案件では新しいアプローチの物件動画を作成する試みも行いました。

主幹事会社である大和証券様のご尽力も得まして、本案件には数多くの投資家の方々にご参加頂くことができ、不動産STOの認知度向上・投資体験浸透にも寄与できたものと考えております。本案件及び過去のSTOでの経験を踏まえて、不動産STOに対する確かな投資需要を感じています。ケネディクスでは、今後もSTの商品性や組成・運用の効率性に磨きをかけるとともに、ホテルや海外不動産などの新しいアセットクラスを活用したSTOにも挑戦していく所存です。

【本件に係るプレスリリース】
【物件紹介動画】

6. まとめ

今回の記事では、2022年8月に公表したPJについて、PJの参加者やその役割、また商品性、販売方法について解説しました。

発行体(委託者)様サイドには、委託者兼当初受益者(としてのブリッジファンド)としての役割だけで無く、スキーム上、精算受益者としての役割を担っていただく必要があることや、当該精算受益権の性質についても説明しました。

国内でも複数のSTO実績が積みあがっているなかで、不動産のアセットタイプや金額規模も拡がりを見せてきています。引き続き、発行体様のニーズに合わせSTOを検討できるよう、Progmatを活用したサービスを提供していきますので、ご検討の際にはぜひ事務局にご相談ください。

次回以降も、よりタイムリーに皆様にとって価値のある情報発信ができる記事を掲載して参ります。今後もST発行実績に基づく成果や、各種WGを通じて得られる成果についての情報還元を継続し、皆さまのご検討の一助となればと考えています。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、DCC事務局までお問合せください。

引き続き、DCCおよびProgmatをよろしくお願い致します。

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