Progmatスキームによる不動産セキュリティトークンと既存の投資商品との税制比較
※本記事は2021.2.19に公開されたものをNoteへ移行しています。
1. はじめに
こんにちは、三菱UFJ信託銀行 SRC運営事務局です。
前回の記事では、不動産証券化市場の拡大と法整備の歴史を振り返り、一般的に有望なSTO対象として語られる不動産を裏付資産としたセキュリティトークン(以下、不動産ST)の今後の展望について検討しました。
Progmatスキームによる不動産STは、2021年以降の提供が想定される非上場・公募の不動産裏付型の投資商品であり、2000年から提供が始まったJ-REIT(上場・公募)、2011年から提供が始まった私募リート(非上場・私募)の資産規模が順調に拡大していることに鑑み、相応の市場規模拡大が見込まれることを説明しました。
また、不動産証券化の法整備の歴史に照らし、2020年5月の改正金商法の施行を受け近々に公募の投資商品の提供が期待されることや、段階的に性質が類似する投資商品に関する規制が進められてきたことから、例えば不動産STの分野でも、今後不動産特定共同事業法(以下、不特法)による不動産STの規制が強化される可能性について触れました。
今回の記事では、Progmatスキームの不動産STに適用される税制を他の投資商品との比較により評価します。税額は投資商品の収益の税引き後の手残り金額に影響し、納税方法は投資家から見た投資利便性に影響するため、広く普及する商品であるかを検討する上で、必要な検証項目と考えられます。
2. 税制比較の評価軸
比較評価を行うにあたり、評価項目を検討します。主に税額と納税方法が投資家の関心事項と考えられるため、それぞれの観点から項目を抽出します。 なお、今回は簡単のために国内居住個人投資家に対する配当・利子等に関する税制のみに限定し、2021年2月現在の公表情報に基づき記載しております。
(1)税額
税額に関連する比較項目として、最初に投資商品から発生する収入の所得分類を整理します。この所得分類を基に総合課税、分離課税等、適用される課税制度とそれに伴う税率を比較します。各種の所得金額を合計して所得税額を計算する総合課税は累進課税ですが、他の所得金額と合計せず分離して税額を計算する分離課税は税率が一定であることから、どのようなケースでどちらの課税制度が有利かという検証も併せて行います。
(2)納税方法
納税の手軽さの指標として、確定申告の要否と、特定口座での取扱い可否について整理します。上場株式等の譲渡損失の繰越控除や、損益通算を理由に確定申告を行う方が望ましいケースもありますが、このような目的がない場合は申告手続きを不要にできる方が投資家にとって利便性が高いと判断できると考えられます。
特定口座を利用すると、金商業者が投資家に代わり上場株式等の譲渡損益や配当金等を計算の上税額を算出し、「特定口座年間取引報告書」が作成されます。さらに「源泉徴収あり」の特定口座を選択することで金商業者が納税手続きを代行し、投資家による確定申告が不要になります。特定口座は投資の利便性を向上させるものであり、多くの投資家が利用しています。
3. Progmatスキームによる不動産STとの比較
ここまでで抽出した評価軸を踏まえ、他の投資商品とProgmatスキームによる不動産STとの比較内容をまとめると、下表の通りとなります。投資家観点から望ましいと判断される項目を青色で示しています。
(1)上場株式・J-REIT
上場株式・J-REITに適用される税制は、比較している投資商品の中で最も選択肢が多く、状況に応じて柔軟な対応が取れるものです。住民税5%を含む20.315%の源泉徴収がなされており、確定申告不要制度を活用して源泉徴収だけで課税を終了させることができます。
一方で、確定申告を選択することもできます。上場株式の配当金(J-REITの配当金等を除く)については、法人税課税との二重課税への配慮から、配当控除の仕組みがあり、確定申告をする前提で総合課税を選択することで、配当控除の適用を受けることができます。
また、申告分離課税を選択することで、上場株式等の譲渡損失との損益通算が可能となります。この場合、上記配当控除は適用されませんが、上場株式等の譲渡損失が生じている場合は、この選択をする方が望ましいケースが考えられます。
さらに、特定口座への受け入れが可能となっているため、例えば、通常であればこの投資商品を譲渡することで得られる所得は譲渡所得として申告分離課税となりますが、金商業者の源泉徴収により、確定申告不要とする対応を取ることが可能です。
このように、上場株式・J-REITに適用される税制は年収や上場株式等の損益の状況から経済的に有利な選択をできる余地を持ちながら、場合によっては確定申告を不要とすることができ、投資家にとって望ましいものと言えるでしょう。
(2)公社債
公社債の所得は利子所得に分類され、特定公社債(国債、地方債、外国国債、公募公社債、上場公社債等、一定の公社債)と一般公社債(特定公社債以外の公社債)で取り扱いが異なります。
特定公社債は、総合課税を選択することはできないものの、「申告不要」と「申告分離課税」から選択することができ、上場株式・J-REITの投資口と同様、確定申告不要制度を活用して源泉徴収だけで課税を終了させることができます。
一方で、特定公社債以外の公社債である一般公社債については源泉徴収のみで課税が完了し、これについては確定申告を選択することができません。他の投資商品との損益通算等ができず、一様に処理される税制であり、上場株式・J-REITの投資口と比較するとやや柔軟性に欠けるものとなっています。
(3)クラウドファンディング
クラウドファンディングには貸付型や投資型等、複数のスキームがあるため、一概に税制を説明することはできません。ここでは不特法による不動産小口化商品の匿名組合出資持分を前提にしています。
不特法は1995年に制定された法律であり、投資家から出資を集めて不動産の購入・運用を行おうとする事業者に対して、人的・財産的要件を満たした上で許可を得ることを規定した法律です。
2013年の改正法の施行により、SPVを用いた倒産隔離型のスキームでの取扱いが可能となり、また2017年の改正法の施行により、契約締結前書面、契約締結時書面等の電子データ等による提供が認められ、クラウドファンディングで活用できる環境整備が進み、不動産小口化商品を提供する仕組みで活用される事例が増えてきています。
不特法の制定の背景については過去の記事(不動産証券化の関連法令等整備の歴史と資産規模の推移から見る不動産セキュリティトークンの展望)でも紹介していますので、併せてご参照ください。
このクラウドファンディングの所得は雑所得に分類され、総合課税制度が適用されます。「1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得が20万円以下」等の一定のケースを除き、確定申告が必要となります。
総合課税制度の税額は累進課税となっており、その税率と申告分離課税の税率を比較すると下表の通りとなります。
課税される所得金額330万円以上で申告分離課税・申告不要(源泉徴収のみで課税完了)の方が投資家にとって有利な税率であり、総合課税の税率は余資運用を行う個人投資家の多くのケースで不利な税率と言えるでしょう。
(4)Progmatスキームの不動産ST
Progmatスキームの不動産STは概ね「上場株式・J-REIT」と同様の税制となっています。課税制度について「申告不要」「申告分離課税」から選択することができます。Progmatスキームの不動産STは公募の特定受益証券発行信託の受益権をST化したものであり、上場株式等との損益通算が可能であることを確認済みです。また場合によっては源泉徴収だけで課税を終了させることができる手軽さも備えています。
「上場株式・J-REIT」との相違点として、2021年2月現在では特定口座への受け入れ可否が未確定であるという点を挙げることができます。特定口座への受け入れが可能になると、申告分離課税を選択し、同じ口座内の他の上場株式等との損益通算を行う場合でも、金商業者の納税手続きの代行により、確定申告を不要にすることができます。現状、Progmatスキームの不動産STでは、源泉徴収のみで確定申告を不要とすることが可能ですが、申告分離課税を選択し、同じ口座内の他の上場株式等との損益通算を行った上で確定申告を不要とすることができない状態です。
この論点については、日本証券業協会が取り纏めている「令和3年度税制改正に関する要望」においても、特定口座への受け入れが可能であることを明確化することが要望事項として提示されています。
現状でもProgmatスキームによる不動産STは、クラウドファンディングと比較し、多くのケースで有利な税率であり、また「申告不要」「申告分離課税」から選択できるため柔軟で手軽な税制となっていますが、今後、特定口座への受け入れが可能であることが確認されることで、さらなる投資家にとっての利便性向上が期待されます。
4. まとめ
上記の通り、Progmatスキームによる不動産STに適用される税制は、上場株式等と概ね同様のものであり、申告分離課税を選択することができ、また源泉徴収のみで確定申告を不要とすることが可能である手軽さを兼ね備えていることから、高い利便性を有していると言えるでしょう。さらに、今後、特定口座への受け入れが可能であることを確認できれば、「申告分離課税による上場株式等との損益通算」と「確定申告不要」を両立させることが可能となり、さらなる利便性の向上が期待されます。
また、税率については、所得分類が雑所得となるクラウドファンディングの税率と比較し、課税される所得金額が330万円以上であれば、Progmatスキームの不動産STの方が有利であることを比較表により示し、余資運用を行う個人投資家の多くのケースで有利な税率となることが想定されることを確認しました。
今後も情報の整理、調査を進め、皆さまへの情報還元を継続し、ST関連事業のご検討の一助となれば幸甚です。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、SRC事務局までお問合せください。
引き続き、SRC及びProgmatをよろしくお願いいたします。
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