財務省を批判する「京都学派」の正体

緊縮財政路線に反対する「京都学派」の主張は、日本経済に関する誤った認識を拡散する有害なものと言わざるを得ない。

新たな警戒対象として財務省が意識するグループもある。「京都学派」。京大教授で安倍ブレーンの内閣官房参与を務めた藤井聡と、京都選出の西田昌司自民党参院議員を、予算編成を担う主計局ではこう呼ぶ。京都学派とは本来、戦前に活躍した哲学者西田幾多郎らのグループを指す。片や、公共事業の大幅積み増しを主張する藤井と西田昌司は、安藤らの理論的支柱だ。財務省が真に「最強官庁」だった頃なら、話を聞き流していた相手だった。

毎日新聞の西田議員インタビューの内容を検証する。

まず、2019年Q1のGDPに関する事実認識が正しくない。

今回は輸入が輸出以上に大幅に落ち込んだために外需が押し上げられGDP全体が押し上げられた。
しかし、輸入が大幅に減ったのは内需が激減しているからだ。今、日本がデフレに陥っているということをはっきりと証明している。

GDP・国内需要・民間需要は増加基調を続けており、「内需が激減している」は明らかに事実に反する。

「デフレに陥っている」も事実ではないことは下の記事で検証済みである。消費税率引き上げによってデフレに再転落する可能性はあるが、現状はデフレではなくディスインフレである。

正しいのは「個人消費が増えない」とその原因である。

実質賃金がこの20年間下がり、労働分配率(企業が稼ぎを人件費に回す割合)もアベノミクスの下で減り続けている。企業が利益を確保しても国民に回っていない。だから個人消費が増えない。
そのうえ、企業が内部留保を440兆円以上持っている。このため、金融政策が無効化されている。金利をいくら下げても企業が銀行から借り入れをしようとしない。
そして今、企業が何をやっているか。自社株買いだ。要は株価を上げるためにやっている。株価が上がれば経営者の報酬が上がる。(あらかじめ決まった価格で自社株式を購入できる)ストックオプションも行使できる。従業員の給与を増やさず、株主と経営者が自分の懐に入れている。とんでもない話だ。

内部留保(利益剰余金)の増加に対応するのは現預金と対外直接投資の増加だが、これは企業が国内での設備投資に消極的になっていることを反映している。人口減少のために量的縮小が不可避の国内に投資するより、成長余地の大きい海外に投資する方が高い投資収益率が期待できるためである。資金運用の優先順位は”海外投資>待機資金>国内投資”となる。

配当金は人件費比で構造改革前の4~5倍に激増している。人件費を最小化して株主利益を最大化する企業行動の反映である。

構造改革によって企業が株主利益を最大化する経営に転換したことが個人消費の停滞や金融緩和が効かなくなった原因という西田議員の分析は正しいが、それならば、最も強く主張するべきは「株主重視経営からの再転換」になるはずである。

ところが、西田議員の政策提言は消費税率引き上げの停止と国債増発による財政出動で、批判するのは財務省である。

財源は国債発行で賄えばよい。デフレ下では恐れずに国債を発行して需要を創出し、国民の貯蓄を増やしていくことが大事だ。本質的な問題であるデフレを止めることが最優先だ。
財務省が決定的に事実誤認をして、最大の危機を作り出している。国民が大変な被害を受けている。「財務真理教」だ。切腹ものだ。

企業の利益が国民に回らない「犯人」は株主と経営者(と彼らの信奉する株主利益最大化の思想)だと認識しているにもかかわらず、財務省を「財務真理教」と批判するのは、真犯人から国民の目をそらせることが目的ではないかと疑われても仕方ないだろう。「京都学派」はグローバル株主と経営者の操り人形という可能性も考慮に入れておいた方がよさそうである。

参考:安倍総理大臣のスピーチ

株主重視経営と企業の海外シフトを推進しているのは他でもない安倍首相である。

2017年9月20日 ニューヨーク証券取引所

まず、日本企業の体質を変えなければならない。コーポレート・ガバナンス改革を、私は、最も重視しています。
機関投資家によるガバナンスを強化するため、スチュワードシップ・コードも策定しました。
企業が、資本コストを意識して果断に経営判断を行うよう、コーポレート・ガバナンス改革を更に前に進めていきます。

2015年9月29日 金融を中心とするビジネス関係者との対話

攻めの経営に転じた、日本の経営者の目線は、今、海外へと向いています。昨年度、海外企業とのM&Aは700億ドル近くにのぼり、過去最高水準となりました。
グローバルな舞台で活躍したいと願う企業を、政府も、力強く後押ししていきます。

西田議員の役割がアベノミクス批判を財務省批判にすり替えることだとすれば、今のところ成功していると言えよう。


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