自国通貨建てでも「国が支払えなくなる」の意味

この番組で、森永卓郎の「国が自国通貨で支払不能になることはない」との趣旨の発言に小林慶一郎が不明瞭な反論をしていたが、本題ではなかったために議論が打ち切られたので、小林に代わって「国が支払えなくなる」ことを説明してみる。

例えば、日本政府が「国民1人当たり月30万円(2020年価格)を定額給付するために全額を国債発行→日本銀行の直接引き受けで賄う」政策を恒久的に続けると宣言して開始したとする。

GDPの約80%に相当する通貨供給の継続は必然的に激しいインフレを引き起こすので、給付金の購買力を保つためには、1人当たり30万円を50万円→100万円→・・・といった具合に増額していかなければならなくなる。

そのこと自体は「日本銀行券を刷る」だけなので可能だが、インフレ率と金利の上昇に歯止めがかからなくなると、将来の不確実性の高まりのために企業が長期の事業計画を立てられなくなるなどにより、実体経済の活動水準が低下する。また、インフレ率があまりにも高くなると、通貨の「価値の保存」の機能が損なわれるために、実物資産や外貨建て資産への逃避が発生し、国民が自国通貨の使用を避ける事態も起こり得る。実際、1990年代のロシアでは物々交換、2000年代のジンバブエでは自国通貨からUSDやZARへの逃避が発生した。

そのような経済破綻を避けるためにはインフレ率と金利を抑え込む必要があり、そのためには財政赤字の縮小が不可避になる。国が給付の実質的な減額に追い込まれることが「支払えなくなる」の意味である。「森永の勝ち」と見た視聴者が多いようだが、この点に関しては小林の勝ちである。

もっとも、日本は今のところ利払費の対税収比が抑制されているので、財政破綻の懸念はない。

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