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【必読】わかりやすい文書を書くためには

社会においては,文書を用いて意思疎通が行われることが大半です.そのため,正しい文章が書けないと,自分の言いたいことが相手に伝わらず,しかも相手からは頭の悪い人のように見えてしまい,デメリットしかありません.

しかし,正確に情報を伝え,道筋を立てて論理的に意見を述べるための作文の作法が,日本の学校では教えられることが少なく,正しい文章を書ける人が少ないように思います.事実,実際に学生の論文やレポートなどをみると,支離滅裂な文章を書く人が多く,しかも自分の文章が酷いこと自体に気づいていない人が大半かと思います(自分もそうでした).

本書では,理科系の仕事において,正確に情報をわかりやすく伝えるための文書の書き方に関するテクニックを解説しています.

必要なことだけをもれなく記述する

事実と意見だけを含め,心情的要素を含まない
理科系の仕事における文書の特徴は,「読者に伝えるべき内容が事実と意見に限られており,心情的要素を含まない」ことにあります.書き手の心情的要素(つまり感想)にはあいまいさが含まれているため,心情的要素を含めてしまうと,理科系の文書の目的である「正確でわかりやすい情報の伝達」が弱くなってしまうためです.読者が欲しいのは事実とそれに基づく論理的な意見のみです.

そのため,文書を書くときの心得は,伝えたいこと(主題)について述べるべき事実と意見を十分に精選し,それらを,事実と意見とを峻別しながら,順序よく簡潔に記述することになります.詳しくは後述していきます.


読む相手を想定して書く
文書を書くことに慣れていない人は,誰がこの文章を読むのかを想定せずに書き始める傾向があります.良い文書を書くには,「読者が誰であり,その読者はどれだけの予備知識をもっているか.またその文書に何を期待し,要求するのか」を十分に考慮してから書き始める必要があります.

例えば,学生の実験レポートは「自分がどのような実験をしてどのような結果が得られたか」が主題であり,読者である教員に対して,実験の原理や公式を長々と書いても渋い顔をされるだけです.たとえ自分が初めて知ったことや驚いたことであっても,それが読み手にとって常識であれば,ただの冗長な読みづらい文章になってしまいます.


目標規定文を書く
主題を決めたら,自分はなにを目的としてその文書を書くのか,そこで何を主張したいのか,を一つの文に書くことをおすすめします.この文章のことを目標規定文と呼びます.
目標規定文をまず書き,その目標に収束するように文章全体の構想を練ることで,必要な情報と不必要な情報の取捨選択がしやすくなります.もちろん,文書を書き進めるうちにその目標を修正しないわけにはいかない場合も出てきます.そのときは,目標規定文を書き直し,本文もイチから書き直しましょう.

以下に目標規定文の例を本書から抜粋します.
「日本の冬は本当に暖かくなったのか」という課題でレポート提出を求められていたとし,過去のデータを調査した結果,1990年代以降の冬の平均気温が高いという結論を得たとします.この際の,目標規定文は次のようになります.

このレポートでは,1990年代以降,冬の平均気温が上がっていることを示す.

そして,この目標にそぐわない情報は捨て,この目標に必要な情報(事実と意見)のみを書いていきます.文書を書き進めていくと,だんだんと目標から外れた情報を書きがちなので,目標規定文をしっかり書き,その都度確認しながら,書いていくことは思っている以上に大切です.

文章の組み立て方

文章の構成,つまり何がどんな順序で書いてあるのか,その並べ方が論理の流れに乗っているのか,各部分がきちんと連結されているのか,は非常に大事なポイントになります.文章の価値を決めるのは,第一に内容であることは言うまでもないですが,内容がいかに優れていても,文章の構成がちゃんとしていなければ,他人に読んでもらえる確率は低くなってしまいます.


文章が読まれるためには,まず表題と抄録が重要
今や世の中には膨大な数の文章が存在しています.その中から,自分が書いた文章が読者に読まれるかどうかは,表題と抄録にかかっています.読者は見出しと本文の書き出し文(抄録)をみて,膨大な数の文書の中から興味をもった文書のみを読むからです.つまり,本文で言いたいことを適切に反映させた表題と本文の要約にあたる抄録がしっかり書かれていることが重要になってきます.
新聞などの見出しとそれに続く書き出し文が参考になるので,本書からの例を以下に抜粋します.

(表題)
重力波初観測 ノーベル賞物理学賞に米3氏
(書き出し文)
スウェーデン王立科学アカデミーは3日,2017年のノーベル物理学賞を,時空のさざ波「重力波」の初観測に貢献した米国の研究者3氏に贈ると発表した.重力波は,物理学者アインシュタインが約100年前に存在を予言したもので,米国チームが初観測したと昨年2月に発表していた.2年足らずで決まる異例のスピード授賞となった.

2017年10月4日読売新聞朝刊より

この記事はあと約800文字ほど続きますが,文章で伝えたいポイントは表題と書き出し文でカバーされています.


情報の伝達順序は「概観から細部へ」
理科系の仕事の文書では,伝達したい情報についてまず大づかみな説明によって読者に概観を示してから,細部の記述に入るという書き方が重要です.文章の冒頭に短く要を得た記述をすることで概観をつかめれば,読者が続く細部の記述を理解することがかなり容易になります.

いきなり細部の話からされても,中身を知らない読者からすると,どこの部分の何について話しているか混乱すると思います.そのため,何をこれから説明するのかを知っている書き手は,まずは全体の見取り図を読者に渡す必要があります.


論理展開の順序
特に自分の考えを説明する目的の文書では,自分がもっている材料をどのような順序で並び替えて,論理的に説明をするかが大事になってきます.これは,読者やトピックによるため一概には言えませんが,例えば以下のような3つの説明順序パターンが有効です.

・従来の説,あるいは自分と反対の立場の説の欠点を指摘してから自説を主張する.あるいは,逆にまず自分の説を述べて,それにもとづいて他の説を論理的に言い破る.
・いくつかの事例を列挙して,それによって自分の主張したい結論を導くか,逆にまず自分の主張を述べてからその例証を挙げる.
・あまり重要でない,そのかわりに誰にでも受け入れられる論点から始めてだんだんに議論を盛り上げ,クライマックスで自分の最も言いたいことを主張するか,逆に最初に自分の主張を強く打ち出して読者にインパクトをあたえる.

科学論文だと一番上のパターンが多いのではないでしょうか.
いずれにしても,上述した目標規定文をにらみながら,集めた材料とそれについての考察を,論理展開の順序・文章の組み立てを念頭に置いたうえで,最もすっきりと筋の通ったかたちに配列・構成することが大事です.文章がすっきりしない場合は,材料が足りない,もしくは組み立て方自体に問題があることを意味します.


パラグラフを満たす条件
パラグラフを満たす条件というものを意識して,文章を書いている人は少ないのではないでしょうか.多くの人は,だいぶ続けて書いたからこのあたりで切るか,という判断でパラグラフを区切っているように感じます.しかし,理科系の文書において,各パラグラフを意識して書くことは非常に重要です.

パラグラフは,内容的に連結された複数の文の集まりであり,ある一つのトピックについて一つの考えを言うものです.例えば以下のパラグラフを見てみましょう.

A君は根っからのスポーツマンだ.夏は水泳,冬はスキー,春と秋はテニスと,日焼けのさめる間がない.いちばん情熱を入れたのはスキーだという.

この例文のトピックは「A君」で,このパラグラフは全体としてA君が「スポーツマンであること」を述べています.

パラグラフには,そこで何について何を言おうとするのかを概論的に述べた文(トピックセンテンス)が含まれるのが一般的です.上の例文では冒頭の「A君は根っからのスポーツマンだ」がトピックセンテンスにあたります.理科系の文書では,各パラグラフにトピックセンテンスを入れるのが原則となっています.もちろん省かれる場合もありますが,トピックセンテンスを書くことで,そのパラグラフで必要は情報は何なのか,逆に不要な情報は何なのかが明確になり,文章がすっきりとします(前述した「必要なことだけをもれなく記述する」とも繋がりますね).


脱・日本語の文章

読んだことだけで理解できるように書く
日本語の文章では,その内容や相互の関係がパラグラフ全体を読んだあとで初めてわかる(極端な場合は文章全体を読み終わって初めてわかる)ような書き方が多いです.しかし,理科系の文書ではこれは避けるべきです.ポイントは,一つひとつの文は,読者がそこまで読んだことだけによって理解できるように書くことです.仮に,現在の文章で読者の知らない新情報が登場した場合は,次の文章でその新情報について言及するべきです.こういう風に繰り返していくことで,読んだことだけで理解できるような文書になり,読み手によって読みやすいものになります.

修飾子の置き方に注意する
日本語は,長い修飾句や修飾節は修飾すべき語の前に置かれます.そのせいで,最後まで読まないと内容がわからないような文章になりがちです.理科系の文章で大事なのは,読者を最短経路で本論に導くことであるため,こういった文章構成は避けるべきです.特に,次の点に注意すると避けることができます.

・一つの文のなかには,二つ以上の長い前置修飾節は書き込まない
・修飾節のなかの言葉には,修飾節をつけない
・文または節は,なるべく前との繋がりが理解できるような言葉で書き始める


明確な主張をする
日本語の文章では,明確に意見を述べることを避け,多少ぼかして書くことが多いですが,これは理科系の文書ではマイナスに働くことが多いです.「〜と思われる」「と考えられる」「であろう」といった表現はまさに避けるべき表現になります.
こうしたぼかした表現を避けることで,書き手が主張したい内容がより明確になり,読み手に情報が伝わりやすくなります.ぼかした表現を多用してしまうと,「結局この著者は何を言いたいのかがわからない」という事態になるケースが多いです.あいまいな表現は責任を回避する以外に何も生み出さないのです.


まとめ

上記の作法をすべて満たせということではありませんが,これらのことを意識しながら文書を書くことで,これまでよりも良い文書を書けるようになると思います.ぜひ参考にしてみてください.

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