わたしのわくわくすること

「お前を食べちゃいたいくらい大好きだ」

かいじゅうたちの言葉に、幼いわたしは恐れおののいた記憶があります。


わたしは、卒業論文の題材として、アメリカの絵本作家であるモーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』という絵本について研究しています。

絵本は子どもの本だと思い、児童学科でなければ、あまり手に取ることはなかったと思いますが、今読むからこその学びや楽しみがあると気づきました。

なぜ大人が絵本を読むべきなのか、私なりに絵本コーディネータの方のお言葉も取り入れつつ、4つの項目にまとめました。

1.絵本が哲学書に

”子ども向けにわかりやすい言葉で綴られている絵本だからこそ、大人が読むと新たな「教え」や「気づき」に出会えることもある” 

(ニジノ絵本屋コンテンツディレクター海老原邦希氏の言葉より抜粋)

絵本はもともと子どもが読むことを想定しているので、絵・文章・話ともにわかりやすいのも特徴です。何を学ぶか、何を感じるかはそれぞれの読み手の自由ですが、一般の書籍に比べ読みやすい分、本のメッセージも伝わりやすいと思います。

2.絵本はビジネスパーソンとしての成長も促す

”絵本には「考える力」と「想像力」を鍛える力がある”

”思考力・想像力を向上させるのは、ビジネス書や実用書にはないメリット”

(絵本コーディネーターの東條知美氏の言葉より抜粋)


ビジネス書は、役に立つことや成功体験などを直接教えてくれますが、絵本には基本的に”正解”はないと思っています。

読んだ人それぞれが感じたことが、その絵本にとっての正解だと思います。

例えば『かいじゅうたちのいるところ』には、絵が描いてあるのみで、文章がないページが3ページ続きます。しかし、前後の流れや登場人物の表情や行動から、読み手が想像することで、物語が成立するのだと思いました。

3.絵本は大人の脳の筋トレ

”絵本のページをめくるという行為には、右脳の視覚的な記憶力を育てる働きがある”

(脳科学者の加藤俊徳氏の言葉より抜粋)

絵本のページをめくる際、脳は”スケッチパッドファンクション”という、直前に見た映像記憶を脳に残すという作業を行いながらストーリーを追っています。このスケッチパッドファンクションを機能させながら絵本を読むことは脳トレになると言われています。

今の時代、大人はスマホなどで漫画や本を読むことが多いと思いますが、字で読んだついでに絵を見て、なんとなく理解している状況です。それは、左脳を使ってから右脳を少し使うだけなので、あまり脳の刺激にはなっていません。絵を見て記憶力と想像力を働かせた上で字を読んだ方が、脳の刺激になるので、絵本がぴったりです。


例えば、『かいじゅうたちのいるところ』は、現実世界からファンタジーの世界に行くに連れ、文章部分の余白が小さくなっていきます。

主人公であるマックスが自分の部屋にいるときは、

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このように余白の部分が多く見られます。

しかし、マックスが自分の部屋(現実世界)から海を渡るうちに余白は狭くなり、

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マックスが、かいじゅうたちのいる島(ファンタジーの世界)にたどり着き、かいじゅうたちとの生活に慣れた頃には、文章も余白もなくなり全面が絵で表現されています。

やがてマックスはファンタジーの世界から現実世界へと戻っていき

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最後のページに絵は描かれておらず、文章のみです。

幼い頃には気付かなかったけれど、知らぬ間に視覚的にも、現実世界からファンタジー世界に行って、また現実世界に戻ってくるように表現されているのだと思いました。

4.リラックス・癒し効果

絵本の絵やフレーズは、想像力を膨らませ、気分をゆったりさせる作用があります。

不眠に悩んでいる人の中には「無理に眠ろう」と頑張ってしまう人も多いと思います。そんな人にこそ、絵を眺めているうちにリラックスできて、心の状態を整えてくれる絵本はぴったりだといえます。一生懸命に活字を追ったりせ、難しく考え込まずにすみ、脳が自然と休まるようです。

・絵本を使った大人のための心理療法「絵本セラピー」

対象者は大人で、絵本の読み聞かせやグループディスカッションを通して、自分の本当の望みや意思を見つめ直し、気持ちを前向きにするサポートを行う心理療法も存在します。

資格を持った”絵本セラピスト”が、保育園・幼稚園・図書館・公民館・レストラン・学校などで開催されています。

絵本を読み聞かせしてもらった後に、絵本に対して感じた気持ちをグループディスカッションをします。自分と違う価値観や感じ取り方に気づくことができるので、改めて自分という人間についてじっくりと見つめ直すことができそうだと感じ、わたしも参加したいと思いました。

5最後に

今回、絵本の奥深さについて考え直すことができたので、大人になった今だからこそ、幼い頃に読んでいた絵本を読み返してみると、昔は気付かなかった面白い発見があったり、感動したり、癒されることがあります。

自分が親になった時に、この絵本は子どもに読んでほしいという作品を、発達・年齢別に今から探していくのも、一つの楽しみだと思いました。

このnoteを見た後に、ぜひ思い出の絵本を、再び手にとっていただけたら嬉しいです。