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2020年1月に訪れた展覧会おぼえがき(後編)

text: 野口尚子[PRINTGEEK]

1月に訪れた展覧会おぼえがきの後編です。
前編で紹介した展覧会は全て終了してしまっていましたが、なんと後編はギャラリー含めてすべて会期中。アーティゾンのコレクション展や、都美のハマスホイは3月まで開催中なので興味がある方はぜひ。おすすめです。

☆ 美術館・博物館(国公立)
★ 美術館・博物館(私立)
* その他ギャラリー、ショップ
コメントの並びは訪問した順です。


工藤千紘 個展「Pure White」*

工藤千紘 個展「Pure White」
2020.1.24〜2.27 @ 阪急MEN’s TOKYO 7F タグボート(東京・有楽町)
http://tagboat.co.jp/chihirokudo-purewhite/

長い髪の女の子を主なモチーフに描かれている工藤さん。滲むような色合いのせいなのか、なんとなく精霊やエネルギーの塊みたいな不定形なものにも感じられます。

ちょうど工藤さん本人に少しお話を聞く機会があったのですが、(モチーフにしている)髪は、食べたものや記憶などが蓄積していくもののように感じているとおっしゃられていました(うろおぼえ)。

少女の他に、猫の絵も3点。どこか不安そうだったり、心を開いてはいなさそうな表情で、こちら側を見つめ返してくる不思議な猫たち。それぞれ野良出身だったり怪我を負ったりした知人宅の猫たちをモデルに描かれているとのこと。
微笑みかけてくれるでもなく、分かり合えるわけではないけれど、長く見つめて寄り添っていたくなるような素敵な3匹でした。


開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」★

開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」
2020.1.18〜3.31 @ アーティゾン美術館(東京・京橋)
https://www.artizon.museum/exhibition_sp/emerging_artscape/

工藤さんの展覧会の後、「アーティゾンって当日でも見れるのかな?」とWebで調べたらすんなりチケットが取れたため、有楽町から徒歩でとことこ京橋へ。

ブリヂストン美術館が建て替えられ、新たにアーティゾン美術館となって開館。かなりモダンなミュージアムかつ、あらかじめ2時間ごとの枠で入場時間を指定するチケット購入制になり、行列に並ぶことなく余裕を持って鑑賞できるようになっています。QRチケットで購入もスムーズ。

現在は開館記念として所蔵コレクション展を行っているのですが、「石橋財団どんだけ良作持っとんねん」というラインナップ。新収蔵作品も多数あり、じっくり見て回るには2時間あっても足りないくらいです。
コレクション展のためか写真OK、学生無料(大学生も)というオープンさ。バリエーションも多く楽しいのでお勧めします。

全体の感想を書くと長くなるので、印象に残った部分の所感だけ。

前半のパート1は19〜20世紀絵画・立体のハイライトを一気に追い、後半のパート2は「装飾」や「聖俗」などのテーマ別セレクションで構成されたエリア。

入ってすぐ、19世紀絵画についてはマネやセザンヌ、モネなど有名どころが並びます。ちょうど寸前に見た三菱一号館美術館の吉野石膏コレクションとも補完し合う部分があり、「ヴラマンクやっぱり思い切りが良くていいな」とか、思い出しながら見れたのもよかったです。

20世紀以降の作品もなかなかキャッチーな作品が多く、気に入ったものをざっと挙げるだけでも、ピカビアの「アニメーション」、藤田嗣治の「横たわる女と猫」、ジャコメッティ「矢内原」、ザオ・ウーキー「07.06.85」、白髪一雄「観音普陀落浄土」などなど、幅広くわちゃわちゃと楽しめました。
あ、あとピカソの荒木飛呂彦……じゃなくて「腕を組んですわるサルタンバンク」(見てもらえればわかる)。

後半、パート2は7つのテーマに分かれていて、こちらも良作揃い。中でもちょっとびっくりしたのは「聖俗」のエリア。シュメールからエジプト、ギリシアの紀元前の彫刻がどんどこ並び(こんなん持ってるのか……という驚き)、それにヘンリー・ムアやオシップ・ザツキンのブロンズ像も並んでいる、という面白い構成でした。
プトレマイオス期の細長いにゃんこ可愛い。

ほか各エリアの話は長くなるので割愛します。総じて楽しかったし集中力使ってややぐったり。余裕を持ってもう一度再訪したいです。

最後に、作品の見所とはちょっと違いますが、気になったのが青木繁作品の額縁。額が絵のモチーフとリンクしているものが多く、本人のディレクションによるものなのか、後年に職人が合わせて作ったものなのか……?
もしお詳しい方がいたら教えてください。

それにしても私設美術館にしてはかなり広い。4〜6Fの全展示室を使っての企画展となると相当数の作品が必要になってしまうので、以降も一部、コレクション展を併設する感じではないでしょうか。今後も楽しみです。

ローランサンもお持ちなんでしょう……? 出してほしいなあ……。


「ハマスホイとデンマーク絵画」 ☆

「ハマスホイとデンマーク絵画」
2020.1.21〜3.26 @ 東京都美術館(東京・上野)
https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_hammershoi.html

友人のginreiを誘ってお出かけ。
会期始まって最初の週末だったため混むかと思いきや、列ができているのは国立西洋美術館のハプスブルク展の方で、こちらはのんびり見られる感じでした。ぐぬぬ……。

19世紀末から20世紀初頭に活躍したデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)。

会場構成は、19世紀前半のデンマーク絵画黄金期からスケーイン派、19世紀末へと、デンマーク絵画史の流れを掴んだ上で、最後にハマスホイの章へとつながっていきます。

全展示作品に通底しているのは「日常」や「生活」の気配。出てくるモチーフは、ほとんど「家族や隣人・室内・近所の風景」のみ。天使も悪魔も貴族の肖像も、寓話や空想も抽象絵画も一切なし。

とはいえ決して地味で平坦な展示ではなく、その日常の中から何を切り取るか、どう表現するかが時代ごとに変化し、静かなうねりとなって「ゴゴゴゴ……」と打ち寄せてくるような構成でした。

例えば、ハマスホイを特徴づけている室内画。室内画は、日常を描く手法が洗練されていくなかで「部屋そのものや調度品を描く」という方法が画家たちに発見され、19世紀終盤に一つのスタイルとして表れてきます。

しかし、19世紀末の他の作家たちが「目に見えている空間」を素直に(写真的に)描いているように見えるのに対して、ハマスホイが描く室内画は何か違う。女性の後ろ姿、調度品や花瓶、扉、窓……どれも歴史の中で描かれてきたモチーフを踏襲しながら、見えている室内の要素を緻密に操作してグラフィックとして構成しているような、「絵のための空間」を構築しているような印象を受けます。
視線の流れを作る扉の開き方、窓から差し込む光、人物のポージング……。
それまでの潮流から解離してはいないのに、アプローチが決定的に違う……おやおや、という感じ。

と、ハマスホイ推しっぽい感想になっちゃいましたが、他のデンマーク絵画パートも魅力的です。
黄金期に活躍したハイライト使いが繊細なクレステン・クプゲ、スケーインの漁師のおっちゃんたちを盛り盛りに描くオスカル・ビュルク。技巧で言えば抜群に巧いピーザ・スィヴェリーン・クロイア、「うちの娘かわいすぎ」みたいな絵描きすぎやぞっていうピーダ・イルステズ(ハマスホイの義理の兄ちゃん)などなど。

個人的に一番欲しかった絵は、ハマスホイと同時代、人々の暮らしをスナップのように自然な表情で描いたヴィゴ・ヨハンスンの「コーヒーを飲みながら」。丸テーブルのコーヒーセットを挟む婆ちゃん2人がなんともチャーミングなのでした。

ちなみに、東京都美術館内のレストランやカフェは上野精養軒の系列店。午前から展示見て、お腹すいたところでお昼にハヤシライスがおすすめです。


umao 個展「MY BEAR」*

umao 個展「MY BEAR」
2020.1.29〜2.10 @ TOKYO PiXEL.(東京・蔵前)
https://twitter.com/tokyopixel/status/1222382496911781888

TOKYO PiXEL.のショップ内ギャラリーで開催されている、イラストレーター・umaoさんの作品展。
さまざまなくまのぬいぐるみが、ポップでキュート、時々スリリングに描かれた作品たち。

もともとInstagramで絵を拝見していたのですが、umaoさんが描く猫や犬やペンギン、モンスターなどなど、カートゥーンみたいなユーモラスな表情でなんともかわいい。

今回の展示のモチーフになっているくまちゃんたちは「ぬいぐるみ=モノとキャラのあわい」みたいな存在なので、一体ごとの固まった表情や姿勢と、置かれているシチュエーションが組み合わさることで、くすっとしたりハラハラするようなユーモアが発揮されていました。
くまちゃんたちのデザインも一つ一つ違って、まとめて見るのが楽しかったです。

umaoさんの絵はカラーリングがテクニカルで洒落てるのも好きなところ。ブルーグレーやピンクなど淡く柔らかい色と、鮮やかで強いブルーやオレンジ、画面をきりっと引き締める黒・白の3層ある気がしてて、その比率で絵がモダンになったりシリアスになったりほんわかしたりして感じられます。

なんかこう、いい色でばちっと面が塗られているとそれだけでワクワクしてきますよね。


さて。2月の展覧会は、1日に訪れた白髪一雄展からスタート(今書けよ、という気もするが)。また3月初旬に更新予定です。

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野口尚子[PRINTGEEK] 編集者。武蔵美基礎デ卒。DTP制作会社、広告制作会社などを経て、2014年から月刊MdNの編集に携わる。2018年に編集部を離れ、現在はSozi inc.とフリー編集者を兼業。趣味で陶磁器と絵を蒐集。https://printgeek.tokyo/