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2020年2月に訪れた展覧会おぼえがき(後編)

カバー写真は、国立近代美術館「ピーター・ドイグ展」会場にて撮影、ピーター・ドイグ《ラペイルーズの壁》(部分) https://peterdoig-2020.jp/

text: 野口尚子[PRINTGEEK]

でっかいっていいもんですね。

2月の本命「ピーター・ドイグ展」初日に行ったら開場3日で臨時休館に入ってしまい、しょんぼりしています。あのでっかい作品たちが今、がらんとした誰もいない展示室にかけられていると思うと……虚無か……。再開したらもう一度行きたいので、知人友人どなたか行くときは声かけてほしいです。

ではちょっと遅くなりましたが、2月の展覧会おぼえがき、後編です。相変わらずの走り書き、すまぬ!

☆ 美術館・博物館(国公立)
★ 美術館・博物館(私立)
* その他ギャラリー、ショップ
コメントの並びは訪問した順。今更ですが、表記が分かりにくくなるため固有の作品名は《》にて表記することにしました。


  所蔵作品展「パッション20 今みておきたい工芸の想い」 ☆

所蔵作品展「パッション20 今みておきたい工芸の想い」
2019.12.20〜2020.2.28(会期短縮・終了) @ 東京国立近代美術館工芸館(東京・北の丸公園)
https://www.momat.go.jp/cg/exhibition/passions2019/

金沢に移転してしまう工芸館。北の丸での最後の収蔵作品展では、バラエティに富んだ名品約150点が展示されました。

生活道具としての工芸についてはいくらか興味を持って見ているのですが、芸術方向はさっぱり。会場に丁寧な解説テキストがつけられていたのがありがたかったです。
テキストを追っていくと、明治期から現代まで、芸術品としての工芸がどのように呼ばれ、評価されてきたか——その変遷こそが、工芸(工芸的造形)のあり方を探る道でもあったのが分かります。

とはいえ、どうしても自分が見てしまうのは焼き物や花器食器のたぐい。気に入ったものを挙げると、河井寛次郎の《呉須双手陶彫》、黒田辰秋《螺鈿白蝶縞中次》。大きめのものでは大胆な練り上げの松井康成《練上嘯烈文大壺 西遊記》。また、高橋禎彦の透明な器たちも制作工程と合わせて展示されており興味深かったです。

さて、所蔵作品は移転するとしても、明治に建てられた赤レンガの建物(旧近衛師団司令部庁舎)の方はどうなるのでしょうか。重要文化財に指定されているため取り壊されることはないと思いますが、展示室の設計も谷口吉郎氏によるものですし、いずれ修復されるなどして何らか活用されることを願うばかり。


  exonemo個展「Slice of the universe」 *

exonemo個展「Slice of the universe」
2020.2.22〜2020.3.28 @ MASAHIRO MAKI GALLERY(東京・表参道)
https://www.makigallery.com/exhibitions/2027/

たぶん、たぶんですけど、プレス写真などを見るに一部作品のプロジェクションが間に合っていないタイミングで拝見してしまったかも? まさか初日が16時スタートとは思わず、まさに会場を開けるタイミングで到着してしまったのでした。なのでもう一度、会期中に寄りたいと思っています。

ICCで展示されていた《HEAVY BODY PAINT》や、《Shotgun texting》キーボードのポートレートから新作まで、近年exonemoが取り組んできたテーマを集積させたようなラインナップ。そのときどきに取り組んでいる異なる視点を、一つ一つ手法を変えて定着させる力はさすがです。
2フロアの展示室が細かく区切られ、書斎を模した部屋などもあるためか、実際にコレクションすることをイメージさせるような展示になっていました。

これまでのexonemo作品で特に好きなものは、水戸芸での《Kiss, or Dual Monitors》から始まるKissシリーズ。画面の向こう側のコミュニケーションが、もはや鑑賞している側に囚われず、自立した世界を立ち上げているように感じられるのが痛快。最初に水戸芸で見たときは、羨ましいような寂しいような、不思議な気持ちになりました。
今回の展示では、新たにスマートフォンサイズのマルチプルになった《The Kiss》が展示されていましたが、ディスプレイを「手」が支えている(画面の世界の外側から介入する者がいる)とまた意味合いが変わって感じられますね。

個展タイトルにもなっている、universeをsliceするものたちについて考えるのは、またもう一度見てから。この展示自体も、exonemoをsliceして、そのピースを集めたものでもあるのかな。


  HouxoQue個展「Proxy」

HouxoQue個展「Proxy」
2020.2.21〜2020.3.29 @ Gallery OUT of PLACE(東京・末広町)
http://www.outofplace.jp/tokio/

主にディスプレイを支持体として、一貫して「見る」とはどういうことなのかを問う制作をされているQueさんの個展。ブラックライトとディスプレイからの光にひるむことなく、しばらく部屋をうろちょろしていると慣れてきて一つ一つの作品が見えるようになります。

展示されているのはいくつかのディスプレイによる作品と、蛍光ペイントされた真空パックの石(小学生男子みたいな感想ですが光っててカッコいい)。

2015年に同ギャラリーで行われた個展「16,777,216views」では、1677万色をランダムに表示する画面の上から蛍光塗料でペインティングを施し、発光と蛍光(フォトルミネセンス)を同時に見せるシリーズが展示されていました。
今回は、そこから塗料が透明のメディウムになったことで、異なる様相が現れてきます。例えば、固まったメディウム内の気泡が干渉するためか、画面には表示されていないはずのモアレが見えたり、そもそもメディウムの存在自体が距離によって見えたり見えなかったり(離れると光に溶け込んでしまう)。
しかし、頑張ってカメラで撮影しても見えているようには映らず、どうやら自分に見えているのは眼(センサー)と脳が見せている錯覚まじりの光景なのが分かります。

ただ、蛍光色のペイントを施した作品よりも現象寄りになっているためか、絵画の顔つきからは少し離れてはいるような(やっぱディスプレイで絵画やってるのがイカしてるなって思うのもあり)。そこで違う方向の作品として、画面に穴開けて鉄パイプ通した作品がデーンと吊られているのがよかったです。ディスプレイを物体として見せる強さ。断続的に浮かび上がるバグった画面がメノウの断面のようで美しく。
本人曰く、万一、鉄パイプ通すことで感電しないかどうかの検証もしたのだそうです。ディスプレイとフィジカルに語り合う作家だ(わはは)。


  しらこ個展「ひとりでも楽しい」

しらこ個展「ひとりでも楽しい」
2020.2.21〜2020.2.26(終了) @ HBギャラリー(東京・表参道)
https://rakoshirako.com/31

HBギャラリーで展示されていたイラストレーターのしらこさんの展覧会。タイトルの通り、さまざまなシチュエーションで、一人のびのびと過ごす人たちが描かれた作品が展示されていました。

しらこさんのイラストはどれも爽やかで優しく、今回のテーマゆえに寂しげなものもありますが、全体的に見守るような温かみのある眼差しを感じます。クレヨンのようなラフなタッチも相まってどこか童心も呼び起こす、素朴で広く愛される印象。

ちなみに、普段はiPadで描かれているとのこと。会場では木のボードにUVインクジェットでプリントしたものが展示されていました。水張りに使うパネルなどとは違い、角にアールをかけた厚めの板にプリントしているのが、デジタル作品の定着どころとして結構いいなと。しらこさんの絵には合っていると思いました。

販売は受注生産により、新たにプリントし直したものをお送りするとのこと(会場の作品は触ってOKでした)。エディション的な扱いになるのかな。デジタル作品を展示・販売する場合の試みは、技術的な選択肢が増えてきていると思うので最近注目して見ているところです。


「ピーター・ドイグ展」

「ピーター・ドイグ展」
2020.12.26〜2020.6.14(3.15まで臨時休館) @ 東京国立近代美術館(東京・北の丸公園)
https://peterdoig-2020.jp/

今月の本命、ピーター・ドイグ。でっかーい!(きゃっきゃ)
サムネイルで見てもキャッチーな絵なのですが、幅2メートル近く——大きいものでは3メートルにもなる巨大な絵画は、実物を見ると非常にアガります(展示室で派手にはしゃぐのはお控えください)。また、空間的にもゆったりと展示されているため一点一点に時間をかけて楽しむことができます。

1959年スコットランドの古都エディンバラ生まれの現代作家。ロンドンのアートシーンで活躍し、2002年にトリニダード・トバゴ(ポート・オブ・スペイン)へと活動の場を移します。展覧会も、ロンドン時代、ポート・オブ・スペイン時代、スタジオフィルムクラブ(後述)のポスターの3部構成。

「チャプター1:森の奥へ」から「チャプター2:海辺で」にかけては、1986〜2002年/2002年以降と、年代ごとにドイグの巨大な絵画が並びます。重厚でどこか薄暗く、幻想的な雰囲気を感じさせるロンドン時代から、明るく生命感を感じるカリブ海の陽光の下へ。
それぞれのチャプターで特に気に入ったものを挙げると、暗い湖で妖しくグリーンのカヌーが浮かび上がる《カヌー=湖》と、満月の浜辺を描いた《夜の水浴者たち》。《夜の水浴者たち》は、夜の景色でありながら月に明るく照らされ、薄塗りで、ロンドン時代に描かれていたタッチから大きな変化が感じられます。

なかば余談ですが、先月、唐突にマティスの《緑と白のストライプのブラウスを着た読書する女性》をスウェットに刺繍しまして。次の題材を探していたところで会場に入った瞬間「ドイグ作品、めっちゃ刺繍向き」と思いました(笑)。
多くの絵に主役と呼べるモチーフがあり、華やかな色彩と独特なフォルムで、それだけ抜き出しても「あの絵」と分かる。いま《夜の水浴者たち》の浜辺の女をちくちく塗っているところ……。

しかし、真に見どころがあるのは画面の構成です。水面を使った反転、三分割の空間、レイヤードされた奥行き……。キャッチーな主役で惹きつけておきながらも、周辺域に「おやっ?」と思う助演役者たちが描かれていて、じわじわと世界が広がっていきます。

構図で最初に驚いたのは《コンクリート・キャビンⅡ》。木立の隙間からのぞくコルビュジェの(ブリエ・アン・フォレの)ユニテ・ダビタシオン。「この景色、見たことあるぞ」と。と言っても、私の記憶にあるのはベルリンのユニテなのですが、同じように木立に囲まれた場所に建っており、木の隙間から全体像が撮れる場所を歩き回った記憶そのままだったのでした(建物から距離を取ろうとすると、木立の切れ目を探さなければならない)。
幹にフレーミングされた視野の先は、窓と色彩のグリッド。対象は見えているけど全体を捉えられない。

すべての絵について書きたいくらいなのですが、それでは3月が終わってしまうので、最後に「チャプター3:スタジオフィルムクラブ」の紹介を。友人のアーティスト、チェ・ラブレスと始めた映画の上映会、スタジオフィルムクラブ。その告知のために描いたなんとも贅沢なポスター群。古き良き作品の中に、思いのほか日本映画が上映されているのに驚きます(ペ、ペコとスマイルがおる👀)。

雑なコメントで長くなりましたが、会場では作品ごとにしっかりしたキャプションが付けられていますので、ぜひそちらと図録を。国立美術館は研究機関でもあるため、解説が充実しているのもいいところです。ドイグが影響を受けた作家や作品、参照元についても丁寧に拾われています。

ちなみに、同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」もユニークなセレクションなので、時間があれば回って見られることをお勧めします。入り口のハイライトだけでも。
ちょうど、9-10室ではバウハウス開校100周年に合わせたプチ特集も行われていますし(モダン文脈か)、個人的には6室の戦争絵画(藤田嗣治《○○部隊の死闘−ニューギニア戦線》が圧巻)、12室の彫刻作品もおすすめです。
えーと、えーと、駆け足でいいので全フロア見つまみ食いするか、興味がある方は別途時間をとってじっくりと。会期は十分にありますので。


  今井麗「MARCH」*

今井麗「MARCH」
2020.2.28〜2020.3.15 @ OIL by 美術手帖(東京・渋谷)
https://oil-gallery.bijutsutecho.com/

同月の展覧会が同じ方の展覧会で終わるのも奇遇なもので。月初にオペラシティのproject Nで拝見した今井麗さんの新作個展があるとのことで、渋谷パルコの2階まで。
初日の昼過ぎに行ったのですが、作品ほとんど売れてしまっていました。大人気ですね。幸いにも気に入った作品が残っていたので1点購入。

project Nでは回廊での展示だったのもあって、すべて一連のストーリー的な、ひとまとまりのシリーズに感じられていましたが、改めて見るとモチーフによっていくつかのカテゴリーに分けられ、それぞれ少しテンションや見どころが異なるなという気がしました。

ソリッドな生活感がある台所と食卓のシリーズ、くまちゃんとお猿さんのドラマっぽいシリーズ、キャラクターのコンポジションが楽しいスーベニアシリーズ、あとコアラ。食材も、ぬいぐるみやスーベニアたちも、なんかこう表情がいい。ちょっとした「おかしみ」が絵に定着している感じがして、眺めていて気持ちが持ち上がる、楽しい作品たちだと思います。今後も追って見ていきたい所存。

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あと2月の最後は駆け足で、国立新美術館で行われていた五美大展を訪問しました。
そちらの感想はTwitterにちょこっとまとめています。
https://twitter.com/kami_labo/status/1233298912703700992

さて、2月29日から国公立をはじめ、大きめの美術館・博物館はコロナウイルス対策として臨時休館しています。3月15日までと発表されているところが多いですが、その後どうなるかも今のところ不明。検討の間もなく決められた措置だと思われるので、このような事態が起きたときに、どう判断し対処すべきだったのかを後からでも検証してほしいなあ。
また、規模にもよりますが民間のギャラリーはオープンしているところも多いです。最新の情報を確認され、十分な対策のうえ訪問されたし。

次は都現美のオラファー・エリアソンかな。無事のオープンを正座でお待ち申し上げております。

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野口尚子[PRINTGEEK] 編集者。武蔵美基礎デ卒。DTP制作会社、広告制作会社などを経て、2014年から月刊MdNの編集に携わる。2018年に編集部を離れ、現在はSozi inc.とフリー編集者を兼業。趣味で陶磁器と絵を蒐集。https://printgeek.tokyo/