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ドリーミング・オブ・フラワー33

この世の中で一番怖いものは、室外機の風かもしれない。

この春はおれの小さな庭が大活躍した。なんというか自粛期間中の心の洗濯場所であった。まだにっくき蚊も登場していないし、朝な夕な庭に出て太陽を浴びながらそこに生えている雑草たちを眺めていた。

ある日たんぽぽが急に愛おしくなり、こいつらをしっかり育たせてやりたいと考えた。そのためにほかの雑草たちを全部引っこ抜いてやった。綺麗にした。そうするとたんぽぽも非常にという形容詞がつくくらい大きく育ってくれた。

それから、ちょっとした花の苗も買ってきて庭に植えてやった。小さな白い花をたくさんつけているやつでとても可愛かった。

春から夏に向かっての雑草も元気なもので、引っこ抜いてもまた新しいのが生えてきて、それもまた抜いてやる。

こうしているうちにどんどん庭に愛着が出てくる。おばけたんぽぽにも「最後は根っこまでちゃんと珈琲にして頂くからね」と会話までしてしまうおれだった。その横にはそれを聞いている小さな白い花。庭とはなんともいいものじゃないか。

だんだん外が暑くなり始めた。室内の気温も上がり、今年もエアコンの出番が来た。

するとどうだろう。庭の白い花が元気をなくし始めた。すぐ理由がわかった、植えた場所が悪かった。室外機の風を浴びる位置にあったのだ。

エアコンをやめるわけにもいかず、おれはどうも諦めの気持ちが入ってしまった。

時にはカナヘビの恋を見たりオレンジ色の蝶がおれのために舞うのをみた小さな庭が、動き出した室外機のために急につまらないものになった。

そして夏は、おれがこの世で一番嫌いな生き物、蚊を登場させた。


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