夏井厚井

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「十年に一度、不死者は語る」第9話

 最終話 不死者と世界の終わり 後編  ルーク  ルークは終末竜を探していた。はじめは各地の目撃証言を参考にしていたが、誕生から十五日が経った今、その必要はなくなった。  世界中を飛び回り膨大な魔力を吸収した終末竜の気配は、どこにいてもわかるほど大きくなっていた。かつて奇跡の町で感じた呪いの臭気など比ではない。  そんな終末竜は現在も世界各地を飛び回っていて、日に日に存在感を増している。その竜を追うには足が必要だ。 「本当にお代はいいんですか?」  ルークは竜舎で駕籠竜に

    • 「十年に一度、不死者は語る」第8話

       8話 不死者と世界の終わり 前編  島から脱出したルークはすぐに王様のもとを訪れ、島にある球体が黒く染まったことを伝える。すでに島のことは話していたため、王様はすぐに状況を飲み込んだようだった。 「ルーク、卵を探しに行くぞ」  王様はそう言って、応接室のソファから立ち上がった。 「卵?」 「世界が苦しみや悲しみで満ちた時、まず終末竜の卵が産み落とされるんだ。そしてその卵は三十日間、地上で魔力を吸ったあとで孵る。生まれた終末竜はさらに三十日間、地上で魔力を蓄え、火を吹き始め

      • 「十年に一度、不死者は語る」第7話

         7話 天邪鬼の正しい使い方  ルーク  荒野を抜けると集落が現れた。通りは舗装されておらず、建ち並ぶ家屋や店は老朽化が激しい。歩いている人々は皆、薄汚れた格好をしていて、ルークに向かって排他的な目を向けてくる。 「頼まれてもいないのにルークが遠出して事件を追うなんて珍しいね」  言いながらミミが胸ポケットから顔を出す。  ルークがこの集落にやってきたのは魔法使い狩りの噂を聞きつけたからだ。二十年ほど前に各地で魔法使いを殺して回り、流刑に処されていたその罪人は、監獄から抜

        • 「十年に一度、不死者は語る」第6話

           6話 奇跡の町  波打つ砂漠を見下ろしながら、駕籠竜は飛翔する。空気はひどく乾燥していて、上空にいても砂埃で衣服が汚れる。  呪いの臭気は濃い。ルークは手綱を握り、竜の上から呪いの出どころを探っていた。しかしどれだけ進んでもそれは姿を現さない。  呪いの発生源を見つけたのは、数刻後には日が暮れようかというときだった。砂漠の中にぽつねんと立つ壁を発見した。市壁のようだ。呪いはあの町から発生している。  壁に近づき、上空から町を見下ろす。そこでルークは唖然とした。壁に沿って広

        「十年に一度、不死者は語る」第9話

          「十年に一度、不死者は語る」第5話

           5話 ハルメンと十人の子供たち  現在 「最近町では、笛の音色と共に子どもが消えるという事件が起きているらしい。ルーク、また様子を見てきてくれないか?」  ルークは王様からそんな風に頼まれてこの町までやってきた。町にはカラフルな家々が並んでいる。その様はフルーツバスケットをひっくり返したような趣があった。 「またハルメンが子供をさらってるのかな?」  ミミが胸ポケットから言った。  この町では二十年前にも同様の事件が起きていて、ルークはその事件の解決に一役買っていた。

          「十年に一度、不死者は語る」第5話

          「十年に一度、不死者は語る」第4話

           4話 人間と魔物  ぼく  その小屋は森の中に隠れるように存在していた。鬱蒼としげる樹木に周囲を囲まれている。  藁人形のミミがポンチョの胸ポケットから顔を出した。 「あれが研究所?」 「いや、あれじゃないはず」  ぼくは言いながら小屋に近づいた。 「地下につながる階段が小屋の近くにあるって話だったから」  地面を見ると草葉の影に落とし戸を発見した。四角い上げ蓋は錆が浮いている。持ち上げてみると階段が現れた。 「多分この先だ」  階段に足を踏み入れ、落とし戸を閉じる。等

          「十年に一度、不死者は語る」第4話

          「十年に一度、不死者は語る」第3話

           3話 不死の会と世界の秘密    ルークは革張りのソファに体を沈ませて、部屋を見回した。深紅の絨毯、豪奢な照明器具、向かい合うソファ……。ここは不死の会の集合場所だ。大きな窓からは、麗らかな陽光が降り注いでいる。  不死者たちに召集をかけたのは、この屋敷を所有し、南の大国を統べる王様だ。彼もまた不死者であり、会合の参加者でもある。しかし王様の姿はまだない。それどころかルークのほかにまだ誰もいない。  しんと静まり返る部屋に足音が近づいてくる。間もなく扉が開かれ、そこからサラ

          「十年に一度、不死者は語る」第3話

          「十年に一度、不死者は語る」第2話 

           2話 人を殺したくなる呪い  耳を澄ませば波の音が聞こえてくる。空は青く、日差しは強い。海上でカモメが呑気に鳴き声を上げている一方で、海辺の町は異様な熱気に包まれていた。通りは人で溢れかえっていて、皆、一様に広場へ足を向けている。  藁人形のミミが胸ポケットから顔を出した。 「広場で何かやってるの?」 「さあ」  ルークは首をひねり、周囲を見回す。道行く人々の顔には様々な感情が映っていた。歓喜、狂喜、嫌悪、軽蔑……。色合いは複雑だ。 「ちょっとついて行ってみようか」  ル

          「十年に一度、不死者は語る」第2話 

          「十年に一度、不死者は語る」第1話

          ・あらすじ  漂流していた不死者のルークは十年に一度だけ世界に現れる島に流れ着く。ルークはその島でクロエという童女に出会い、彼女に自らの冒険譚を話す。そして十年ごとに島へやってくることをクロエと約束する。ルークは島に来るたび、成長するクロエへ冒険譚を話した。その中でこれまでの文明が終末竜と呼ばれる竜に幾度となく滅ぼされてきたことが明らかになる。やがて世界に終末竜が生まれる。ルークは世界を終わらせないために竜に立ち向かう。  ※本作は一話完結の連作短編で、上述のあらすじは話の縦

          「十年に一度、不死者は語る」第1話