『善き人』映画感想
『善き人』はローレンス・オリヴィエ賞受賞演出家のドミニク・クックがC・P・テイラーの原作を舞台化した作品で、最近ドクター・フーやグッドオーメンズなどをきっかけにデヴィッド・テナントさんに一目惚れしたので舞台なんて見たことなかったのにこれは行きたい!と思い、調べてみると奇跡的に電車で行ける映画館で上映していたので、見てきました。
まず舞台を見たことがほとんど無くて、小学生の頃に芸術鑑賞で劇を見て以来かな?
最初はこんな雰囲気なのか!といった所から始まった。
演者さんはたったの3人で、(最後に登場した人や演奏していた人を除く)性別関係なく代わる代わる様々なキャラクターを演じていく。
それも幕を挟まず、ぱっと切り替わる。今回の作品はアクションシーンや激しいシーン、盛り上がるシーンがある訳では無く、日常が淡々と過ぎていく物語。だからいちいち幕を下ろしていたら流れが途切れてしまう。だから瞬時に切り替わることで、流れを切る事もなく、緊張感を保ちながら物語が進んでいった。この点がほんとうにすごいと思ったし皆さんベテランの方々で素晴らしいのは百も承知だが、演者さんの演技が本当に本当にすごくて息が詰まるものだった。
最初はそうではなかったのにどんどん染まっていく主人公のジョン。自分は善人だと言い聞かせているけど物語が進むにつれてもう元には戻れない所まできてしまう。得体の知れない何かにどんどん侵食されているようで、見えない恐怖?のせいか、何だか変な気分、気持ち悪さを感じた。
舞台セットも衣装もシンプルなものなのに、色々なものに見えたし、限られた数のアイテムであんなにも壮大な世界観が演出されていて、本当に息付く暇もなかった。だから途中の休憩は本当にありがたかった。
最終的にジョンはSSの人間となって軍服に袖を通すんだけど、あの着替えるシーンがなんとも際立ったというか、作中では皆同じ衣装だったのもあってとてもインパクトがあって際立っていた。ほんとうに戻れない所まで来てしまったんだなと………。
人間っていうのはなにかターニングポイントがあって分かりやすく変わってしまうのではなくて、なにかきっかけが少しでもあれば何もしなくても周りの環境が人間を引っ張っていってしまうのだとジョンを見ていて個人的に感じた。
最後のカーテンコールでジョンを演じたテナントさんは軍服から最初着ていたシャツに戻っていた。なんだかそれを見てほっとしてしまった。ジョンは最終的にあの服に袖を通してしまったわけだけど、そうならないようにあって欲しかったというか、そもそも舞台はもう終わっていて、彼はもうテナントさんだったわけだから脱いでいていいわけなんだけど、一区切りが着いたことが目に見えてわかったというか、言葉に上手く出来ないけど、皆さんの演技が素晴らしすぎて本当に現実のように感じられたから、これはこういった物語だったんだって私の中で区切りをつけることが出来たからかな。
舞台なんてほとんど見たことがなくて、自分が見ても理解できるかな?と最初は少し不安もあったけど、本当に色々考えることが出来たし、考えされられたというか、沢山のものを得ることが出来た作品だった。
テナントさんが主演ということをきっかけに足を運ぶことになったけど、この作品に出会うことが出来て本当に良かった。貴重な経験をすることが出来た。