幸坂かゆり

日常のような掌編集。ひとりの時間に出会った創造。ブログ http://remember-the-kiss.dreamlog.jp/

ソファーの上でロマンスを

2004~2006 Novels Archive

  • 8本

One On One

夜はバー、朝になるとカフェに入れ替わるこの店で、熱いだけのコーヒーを飲みながら視界が揺れる窓を見る。雨なんて、うんざりだ。 家にも帰らず、うだうだと何時間も店に入り浸る俺はなんてだらしないんだろう。憂鬱な気分を雨のせいにして昨日は仕事を休んだ。その後この店で酒を飲み、多分テーブルに突っ伏して眠り込んでいる間に店のスタッフが掃除も終えたのだろう。いつの間にか夜が明けたらしく店内はカフェに早変わりしていた。外は曇っているが朝と言うだけで充分眩しくて瞼の奥がズキズキする。頭をかき

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7

What Can I Do

そのホテルのラウンジからは、湖が一望できた。 夏に近い爽やかな気候のその日、オレは高校時代の同級生で、海外を拠点に仕事をしている友人が一時、日本に帰って来ると連絡を受け、らしくなくこんな場所で待ち合わせをしていた。何もこんな高級感のある場所じゃなく、その辺のファストフード店でもいいじゃないか、と心の中で毒づきつつも、友人がこのホテルのラウンジを待ち合わせ場所に指定して来たのだから仕方がない。気持ちを切り替えて、慣れない雰囲気の中、コーヒーを注文した。程なくして友人である彼がや

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6

Long Distance Girl

雨の朝。窓に映る街の中はかすんでいた。 カーテンを閉じてベッドに転がり、僕はため息をつく。恋人と別れた痛手がまだ残っている、なんて言ったところでかっこつけにもならない。ひとつだけわかること。僕は最初から終わる恋だと判っていた。彼女がどう思っていたのかは知らない。嘘つきな恋愛だった。愛していた。けれど僕は嘘に疲れた。最後に見た彼女の泣き顔が瞳の奥に叩きつけられるように今でも浮かぶ。嘘をついてでも僕たちはつき合って行くべきだったのだろうか。生活と性格の不一致。愛しいまま僕たちは別

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1

完璧なエゴイスト

僕はファンシーな物は受け付けない。 待ち合わせている彼女は僕の苦手なその類の物が好きだった。最初は……恋のせいで瞼を閉じてしまったのだ。けれど時が経ち彼女の好きな世界が判った頃、ついて行けないと思った。好みの問題だから彼女のせいじゃない。ただ僕には無理だ。合わせられない。だからそれぞれの道を歩むしかないと思い、今日こうして彼女を待っているという訳だ。それにしてもうるさいカフェだ。店内を見回してみる。いかにも彼女が好きそうな犬も同伴できるという場所。ログハウスで沢山の花が飾られ

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2

掌編

ライトノベル寄りの掌編です。

  • 5本

お姫様の場所

午後23時半のコンビニエンスストア。霧が深い日でかなり視界が悪い。 僕はこういう霧を悪くないと思う。もちろん車を走らせたりするのは注意が必要だし、気を使う。でも景色として、風景として。うん。悪くないよ。 田舎のコンビニエンスストアの灯りだって、霧の中だと何となく外国みたいじゃないか。 しばらく掃除をしたり、商品を揃えたり、せかせかしていたが、 とうとう暇だと認めざるを得ないほど客足が途絶えたので、ドアを開けて外を眺めた。 月も、もわもわしてる。等間隔に並んだ道路の照明灯は幻

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10

レモン・シャーベット

年々、暑さが増して行くような夏だ。 私の職場の窓からは、向かいの公園でランチを食べている社員が目に入る。 彼らの目の前には噴水があり、目には涼やかに見えても多分水はぬるま湯に近いだろう。何より木陰でも十分暑いのに、よくあの場で食べる気になれるものだと思う。 昭和頃の日本では37度なんて気温、なかったはずだ。 だからと言って、地球温暖化だのと色々言いたくない。もちろん大事なことなのは判ってる。 ただ、今それを考えるには暑すぎる。この暑さが落ち着かないまま考えてしまうと、体は

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8

解き放つ

 花の首を落としてしまった。  活けるのに慣れていないせいだ、と言い訳をしてみるけれど何度目だろう。いつも活ける時に力を入れ過ぎてしまう。落としてしまった花の首にごめんね、と言ってからゴミ箱に捨てた。  四苦八苦しながらも、何とか私なりに何種類かの花をひとつの花瓶に納めた。そう、活ける、ではなく、納めた、という言葉の方が似合う歪な仕上がりだった。  慣れないことをしているのは、亡くなった母の仏壇に供えるためだ。  母は花が好きで活けることも上手だったけれど、私は母とは逆で

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9

体温

「郁ちゃん、お熱出た」  子供のような言葉で連絡をして来たのは僕の恋人の郁子だ。  軽い熱と風邪の症状があるため、かかりつけの病院に電話すると、来院はご遠慮下さい、とのことだった。現在、世界的に流行っている病のせいで少しでも似た症状を持つ患者は外来不可となっているらしい。行く場合は専門外来へ、と。 「でも症状に合わせたお薬は出せるから家族とかに取りに来てもらって下さいって」  そこで一番身近な僕の出番となった。郁子は遠い田舎の実家から上京しているからだ。 「職場にはなんて?」

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