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千二百年の墓暴き

 それまでイズはエネヴィア団長にこの上ない敬愛を抱いていた。孤児であったイズを拾い育てた親で、己も属する守護団の長。その団長にイズは今、曲剣を突き付けられ床に跪かされている。

 「か、母様?何のご冗談です?」
 「ここでは団長と呼びな。今日はお前に昔話をしに来たのさ、この団にまつわるね」

 初老の女団長は眼前の大扉を見る。ここ『勇者の大墳墓』の最奥に位置する室には、数多の神器と、太古に世を救った勇者の亡骸が眠るとされるが、それを守る扉は誰にも破られた事がない。我らが守護団の戦果だ、イズはそう信じていた。

「その昔話を終えたら、イズ、お前はこの扉の鍵になるの」
「鍵……?」
「そんな呆れた顔しなさんな、今に分かる、《溶界》」

 エネヴィアがそう唱えた直後、イズは竜炎じみた熱を背に感じ、背後を向く。地上に続く通路がある筈の空間は地獄と地続きになっていた。そして、そこに二十六の人影が陽炎に揺らめく。

 その者らは老人、少年、巨漢、小人、鴉目族、砂精、その他多種多様な容姿や種族で、皆揃って地獄の炎で爛れていた。エネヴィアがイズの腕を引き、立ち上がらせる。

 「挨拶しな、我らがゾマ守護団の歴代団長のお出ましだ」

 偉大なる団長らの魂が地獄に、この時点で勘の良いイズは理解してしまった。今より千二百年前、国家公認の墳墓守護組織『ゾマ守警団』は発足。だがそれはこの墓を荒さんとしたある盗賊の隠れ蓑に過ぎなかった。その意志は次なる団長へと受け継がれ、密かに、少しずつ最奥に至る道を暴き続け、そして今に至る。

 「よォ当代の娘!遂に成ったな!」
 「地獄に堕ちた甲斐あった、これで皆報われた」
 「で、そこの嬢ちゃんが鍵なのね、じゃあ順に話していこうか」
 「ではまず初代殿から……キキ!」

 「ひ、い、」

 嫌だ!そう声に出そうとした。だが、そんなイズの拒絶もやがて揺らぐ事となる。彼らの話を聞き終えたが最後、この扉を暴かずにいられなくなってしまうから。

 【続く】

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