0018

だが、あの人はこう言った。イベルタを選んだのは、彼女を選べば他の女達が諦めるし、自分に逢うことも簡単にできるからだ、と。
不思議なほど嬉しさが込み上げて来なかった。それほど姉を大切に想っていたからなのか、やはり自分は人と深く付き合うことができない人間だったということか。
あの人は姉の眼を盗んで店に顔を出した。姉と一緒に来ることもあった。
あの人は何か言うでもするでも無く、ただ姉と自分との間に身を置いて、自分の視界に常にいるようにした。
あたかも人一人を背負っているかのような重圧感だった。姉が心底あの人との暮らしを喜んでいることも気障りだった。
次第にあの人は自分を誘うような素振りを見せ始めた。自分にとっては酷くあからさまなものだったが、姉はそれが妹に向けられたものだとは露とも想っていなかったから、他所に女がいるのではと自分に相談するようになった。
あの人を殺すことに決めた。九歳の時、両親を殺した方法を選んだ。

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