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DRAKE『Nice For What』そして『Passionfruit』

新宿で遊んだ後、友達をひとり乗せて夜が明けてゆく首都高を車で走った。その友達はうつ病を抱えながら生きている。かなりきつい瞬間もオレは近くにいて。家族ではないから限界はあるが自分なりに友人として寄り添っているつもりだ。そいつの調子が不安定な時期がだいぶ長く続いていた頃があって、その日は久しぶりに遊んだ。最近気に入ってるいるという曲を何曲かかけてくれたがその中にドレイクの“Passionfruit”があって「好きでよく聴いてるんだ」と教えてくれた。
長く一緒に遊んでいると音楽や映画の嗜好は似通ってくるが、たまに知らないものや分からないものを教えてくれる。自分にとってドレイクは長いことよく分からない謎な音楽だった。そもそも何が良いのかがさっぱり分からなかった。だが彼にそのとき聴かせてもらうことでオレは初めて音楽における“優しさ”という概念に気がついた。彼が切実に必要としてるものが何なのか、彼が聴かせてくれた音楽からそれは感じとることができる。

ドレイクは現在のインターネットを含む世界の問題と深く関わりあっている。“Nice For What”の歌詞はインスタなどのカルチャーを軽薄だと認識しつつも、ハードな毎日を送りながらそれを生きがいにしている女の人たちに寄り添い肯定した内容だ。(MVにはGuava Islandやブラックパンサーのレティーシャ・ライトも出てる!Guava IslandはPrimeにあがってるよ!)

Nice For What:歌詞一部抜粋

Work at 8 a.m., finish ‘round five
朝の8時から働いて、5時には終わる

Hoes talk down, you don’t see ‘em outside
あいつらは君をネットでバカにしてるけど

Yeah, they don’t really be the same offline
面と向かっては何も言えない

You know dark days, you know hard times
暗い日々、苦しかった日々もあった

Doin’ overtime for the last month
先月は残業をこなした

Saturday, call the girls, get ‘em gassed up
土曜日には友達を呼んで酔っぱらう

Gotta hit the club, gotta make that ass jump
クラブに行って腰を振る

Gotta hit the club like you hit them mothafuckin’ angles
クラブに行って、いい感じのアングル探し

With your phone out, snappin’ like you Fabo
携帯を手に取り、Faboみたいなボーズで写真を撮る

And you showin’ off, but it’s alright
そしてみんなに自慢する、それでいいんだよ

It’s a short life
人生は短いのだから

圧倒的にハードな社会においてドレイクの音楽の持つ“優しさ”は多くの人を救い、そして必要とされている。“In My Feelings”をみんなが“踊った”のはみんながドレイクを肯定しているからだ。マーケティングというだけでは説明がつかない。


ちなみにもうひとつドレイクのアンセムといえば“Passionfruit”なのだが、この歌の本意は何だろうかとずっと考えている。気持ちが遠く離れた恋人への未練を歌ったような内容だがその説明ではあまり腑に落ちない部分が多い。いろいろな翻訳を見たけど定まっていない感じもする。“PassionfruitsのPassionは情熱にかかってはいるが“受難”のことらしい。そしてこれは推測だけど“Passionfruits”もインターネットにまつわる世界のことを歌っているんじゃないだろうか。もしくは2000年代に人々が目指した素晴らしい世界のことだろうか。ここで歌われてる受難とは1組のカップルの恋愛ではなく、われわれの社会が直面している問題じゃないだろうか。だいたいにおいてシンプルな失恋ソングにしては説明のつかない表現が多すぎるしね。

Passionfruit:歌詞一部抜粋

Harder buildin' trust from a distance
遠く離れているのに信頼し合うのは難しいよ
I think we should rule out commitment for now
僕たちは過去の約束をやめにしたほうがいいんじゃないかな
'Cause we're fallin' apart
だって僕らはもうバラバラになっている
Leavin'
別離
You're just doing that to get even
君はお互い様だとしようとしてる
Don't pick up the pieces, just leave it for now
今は細かいことは放っておこう
They keep fallin' apart
これじゃバラバラのままだ

Passionate from miles away
遠く離れていても君のことばかり考えてしまう
Passive with the things you say
君の言うことをいちいち真に受けてしまう
Passin' up on my old ways
今までのやり方をやめにしよう
I can't blame you, no, no
君のせいじゃないんだ、仕方がないさ

この解釈が果たして正解なのかオレにはわからない。だけどオレたちは友達とこんなふうに音楽を聴いて、こんなふうに世界を見ている。ここでこんな不確かなことを書いているのは、音楽や世界の見方を君と共有したいってだけさ。とは言ってもこれがオレの勘違いなのか、それともあながち間違ってもない解釈なのかは非常に気になる。明日遊ぶ連中に聞いてみよう、彼らなら答えを知ってるかもしれない。

その前に投票に行かないとね。この国はひたすら転げ落ち続けている。しかもかなり厳しい状態だ。でもオレたちはそれを容認するわけにはいかない。自由や平和とはとても儚いものでみんなで守っていくしかないね。



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