ガリナの黒い飴

ガリナの黒い飴


ルビッチを無事に帰宅させるとアダムは建物の影に隠れ急いで異端審問官の制服に着替えました。そしてツワネガーさんが収容されている病院へと急ぎました。異端審問官が病院を出入りするのは許されていましたし、珍しいことではなかったのでこれが一番目立たない方法でした。

病院に入るとアダムはツワネガーさんの病室に行き、話を聞きました。
話の内容はアダムが想像していたように、危険にさらされている命と、助けられる命があるということでした。

ツワネガーさんによると、患者のベッドの足下に新しい番号がふられたかと思うと、それと同じ番号のついた点滴がその日の夜に患者に与えられる。そして、朝になると患者の体は冷たくなっているというものでした。

「点滴の中になにか入れていると言いたいのですね?」
アダムが聞きました。

「はい。これを3度続けて見ました。これまで気づかなかったのですが。」

「スーさんという人間が心臓を集めています。この地下から彼の家までつながる道があります。

心臓を別の何かに移植しているとしたら、おそらく彼らは移植に適している心臓を選んでいる可能性があります。

ツワネガーさんが3度続けて患者が亡くなる様子を見たのも、

おそらく、移植に適した心臓が見つかったからではないかと」

アダムがこの数日考えていたことを打ち明けてみました。

「なるほど。

移植とは。。。私が母国から戦火を逃れ、この地にたどり着いた時に持ってきた本に書いてあることに通じているかもしれません。

宇宙人に作られた人間が宇宙人を殺し、人間を殺し、彼らの混血を作るような恐ろしい事態になると書かれています。その本は最後に人間の愚かさを曝け出すように語り、そのような恐ろしい事態を絶対に実現させてはならないと警鐘を鳴らしています」

ツワネガーさんは動きたくても動くことができません。究極の制限の中で精一杯できることを考えている様子に、アダムもいつの間にか必死になっていました。

「これ以上犠牲者が出ないように、これらの番号がふられた点滴を別のものにすり替える必要がありますね。

患者の足もとに番号がふられた時はすぐにルビッチくんに窓越しに伝えていただけますか?僕からもルビッチくんに、仕事前と帰りに必ずツワネガーさんの窓を見るように話しておきます。点滴とスティッカーはこちらで用意します。」

「分かりました。」ツワネガーさんは少し安心したようでした。

その後は、ルビッチがツワネガーさんから番号の書かれたメモをアダムに持っていくようになりました。

メモにある番号を確認すると、その番号に紐づいている患者の情報をバックエンドで抽出し、偽の(無害の)点滴用のシールを作り、点滴のバッグに貼り、病院で毒性の点滴とすり替えるのが習慣になりました。

この作業で、30人ほど救うと、(異端審問官の制服を着ているとはいえ)あまりにも頻繁に出入りするアダムを疑いの目で見る者が現れ、アダムも危険を感じはじめました。また、点滴が効果を見せていないことにも医療スタッフが感じ初めており、患者は危険に晒されたままでした。

ある日、アダムに番号を届けて紅茶を馳走になっていたルビッチが、ツワネガーさんからもらった飴を見ながら言いました。

「移植できない心臓に見える色になるような飴ができたら、いいですね」

テーブル向いに座っていたアダムとガリナはびっくりした顔で違いを見合いました。

ルビッチの背後でコンピュータを操作していたゾルターンも、驚いた様子でルビッチの方を振り返ると、立ち上がってテーブルのほうにやってきました。

ルビッチのとなりにいたプペルは「ルビッチさん!」と満面の笑顔になりました。

次の瞬間、アダム、ガリナ、ゾルターン、プペルがルビッチを抱きしめて、こう言いました。

「ルビッチ天才!」

しばらくすると、ガリナが小さな飴屋さんをオープンしました。

「ハロウィンを待つ飴屋さん」という面白い名前の飴屋さんです。

ハロウィンを待つのですから、普段はパッとしたものを売らないことを誰も不思議とは思いませんでした。

しかしガリナは裏で必死になって、心臓が真っ黒に見える飴を開発していたのです。

やがで黒い飴ができあがると、それらを体の弱い人に試食として配って歩きました。

飴の本当の目的が発覚しないようにガリナはこれを静かに行っていきました。

ガリナはいつ入院してもおかしくなさそうな人を選ぶと、世間話をしながら黒い飴を手渡しこう言うのでした。

「今試作中の飴です。よかったら感想をお聞かせください。」

この飴はひとつだけ、一回だけ舐めれば、何ヶ月も効果がありました。

ガリナの黒い飴で沢山の命が助かることになりました。

(つづく)



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