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この先、アメリカの大学が待ち受けること

 新型コロナウイルスによる大学側への影響について考えてみる。2020年5月27日付ワシントンポスト紙によれば、ソーシャル・ディスタンスや、学生の行動様式、若い学生と年を取った教職員との交わりといった観点から考えると、大学が通常通りに再開するのは、さまざまな業界の中でも最も後になるだろうとされている。そうだとすると、大学はこの先、どのようなことが起こるのだろうか。

 アメリカの大学授業料は、成績や家庭環境、エスニシティ、特技・才能等が考慮された上で奨学金が出るため、学生ごとに実際に払っている額が異なるのが大前提としてある。また、それとは別に、州立大学の場合、州内の学生か、州外および海外留学生かによっても、授業料が大きく違ってくる。毎年、家族が州税を払っている州内在住の学生の授業料は優遇される。それでも、そもそもの授業料が高いので、州内の学生でも、日本の平均的な私立大授業料と同じか、それ以上の額である。それに対して、州税を払っていない州外の学生や海外留学生は、州内の学生のおよそ3倍もの授業料を払うことになっている。つまり、留学生が一人入学すると、州内の学生の三人分の学費を納入してくれることになる。しかも、外国人留学生は、奨学金の受け取り対象から外されることがほとんどである。

 参考までに、出身地による格差はアメリカの大学に限ったことではない。たとえば、昔、日本人である筆者がイギリスの大学院に留学した際、英国およびEU出身の学生と比較して授業料が何倍も高く、憤りを感じたのを覚えている。2020年4月21日付Financial Timesによれば、英国では驚くべきことに、総授業料収入の3分の1を留学生に依存しているとある。

 大学の立場になって考えると、州外および外国からやってくる学生は、満額の授業料を払ってくれる上顧客なのだ。しかし、この先、その様子も変わらざるを得ないのは必至だ。上記のFinancial Timesが示すデータによると、アメリカへの留学生は2017年には約68万人で、一番多いのが中国、次いでインド、そして韓国とサウジアラビアからの留学生となっている。その彼らが、この秋、入学するか、学習し続けるか、大きな選択が迫られている。留学生が納める授業料を大きな収入源として見込んでいた大学側も、留学生を何とかしてつなぎとめたいところだ。

 大学はこんな状況にあるのだが、現段階で新年度から大学キャンパスを再び開放し、対面授業を行う決定を発表する大学は少ない。その場合、引き続きオンライン授業やセミナーが続くことになる。しかし、留学生の場合、三つのハードルが考えられる。一つは、オンライン授業に対して、そんな高額な授業料を払う意義があるのかという点だ。アメリカ国内の学生ですら高いと思う授業料なのに、留学生はその3倍も支払わされるのだ。オンライン授業でそれだけの見返りを得られるか。留学は、単なる学びだけでなく、他の学生と対面で議論し、コミュケーションを図り、共同生活を通して得られることも多い。それだけに、そうしたことができないまま、アメリカの大学に入学する意味があるのかと思うのだ。これは留学生だけでなく、国内の学生も同様のことを考えている。

 二つが、ビザの問題だ。出身国によってはアメリカ政府が学生ビザを発給しないかもしれない。学生側の立場になると、たとえビザが発給されたとしても、さまざまな不安要素を抱えて海外へ出たくないし、海外に出たいと思っても、実際には判断がつきかね、留学を延期できるのなら、したいと思うだろう。

 三つが、時差の問題だ。アメリカへ渡航しなくても、母国でオンライン授業を受けることが可能だ。しかし、リアルタイムでオンライン授業を受け続けるのは結構大変だ。時差の問題は、アメリカ国内の統一試験のAP試験でも起きた。たとえば同じアメリカ国内でも、東海岸とハワイでは時差が6時間ある。しかし、試験では時差は考慮されず、一斉に同時間開催だったため、ハワイ在住の高校生は、科目によっては開始時間が朝6時になった。これは単発の試験だから我慢できるが、世界に散らばる留学生が、自国から大学のリモート授業を毎日受けた場合、場所によっては昼夜逆転する場合もあるわけで、そうした状況では持続性は見込まれない。

 こうした状況は、国内においても同様で、保護者が子どもを遠く離れた大学に送りたがらなくなり、子どもも家から近い大学を選ぶ傾向にあると言う。皆が内向きになっている。大学側からすると、広範にわたって学生を集められないことは、単に授業料の問題だけでなく、多様なバックグラウンドや価値観を持った人材をリクルートできないことを意味し、それは大きな損失となる。

 学生がキャンパスに来なければ、授業料だけでなく寮費も入らない。学校の施設や人材を利用した会議収入、トレーニングプログラム、寄附金、投資収入も減少する。さらに、州立大学の場合、収入のおよそ4分の1が州政府から来ているので、税収が減れば、大学への割り当て金も減るのは当たり前だ。この先、大学はどのような生き残り策を考えるのか。今後、企業と同じく、閉鎖に追い込まれる大学がたくさん出て来るのではなかろうか。

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