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次はワクチン物流?どうなってるの?

注意!
以下の記事は11/9ファイザーのワクチン中間報告が出る前にリリースしたものです。その後、様々な動きが発生している、これからすると思われるので、情報が古い部分もあるかもしれません。最新情報はぜひ各自でご確認ください

ワクチン開発レースも徐々に終盤戦に差し掛かる中、ワクチン物流が次の課題としてクローズアップされてきている。関連企業の動向をまとめてみた。

初めにお断りしておくと、自分は当業界は全くのド素人であるため、以下の情報はぐぐったレベルの点情報の寄せ集めに過ぎず、全体の中でのインパクトの大きさなど全く考慮してません。寄せ集め情報の列挙、という理解で参照ください。

特に全体感については、DHLがマッキンゼーとまとめた調査報告書が非常にまとまっておりわかりやすいので、全体感を理解したい場合はそちらを参照することをお勧めします。

ワクチン物流整備の必要性

パンデミック当初、Personal Protective Equipment (PPE)が、物流のキャパの制約、複雑な税関・規制プロセス、在庫情報の不透明さの問題など、製品観点(製造・品質)だけでなく、物流観点でも大きな問題となった。

今後ワクチンの開発に成功した際に、2年間で15,000フライトの国際物流、そしてそれらを実際にワクチン投与する現場までの配送が必要と試算されている。PPEの際に起こった混乱を繰り返さないためにも、政府が主導で民間と協力して戦略的な物流計画を立案・実行していくことが求められている。

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*1 Source : DHL WHITE PAPER
https://www.dhl.com/content/dam/dhl/global/core/documents/pdf/glo-core-delivering-pandemic-resilience-2020.pdf?j=501938&sfmc_sub=246156674&l=59_HTML&u=29723565&mid=7275327&jb=182

ワクチンのタイプと物流要件

ワクチンには様々なタイプがある。ワクチンのタイプにより運搬・保管上の温度要件が異なる。一般に既存のワクチンを想定する医療物流は2-8度の低温への対応を実現している。しかし今回のCovid-19ワクチン開発では、先進的な技術が取り入れられているため、仮にそれらの新型ワクチンが承認された場合、想定する物流網が構築できていないということが明らかになっている。例えばワクチン開発レースで現時点のフロントランナーであり、最も成功に近い位置にいるBiontech (BNTX) / Pfiser (PFE) が開発するRNAワクチンでは-80度の超低温冷凍運搬・保管が必要となる。これは超低温でないと構造が壊れてしまう人工遺伝子でできているため。Moderna (MRNA) のワクチンは冷蔵で対応可能。AstraZeneca (AZN)、Johnson & Johnson (JNJ)が開発するウィルスベクターワクチンも冷蔵は必要。物流業界はどのワクチンが承認・利用されるようになるかわからないため、-80度までの要望に耐えうる物流ネットワークを構築する必要がある。

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低温輸送への対応の現状

地域的にみると既存の低温輸送(2-8度)に対応できている国は以下の国々になる。この時点で既にアフリカ諸国のほとんどは対応できていない

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これが-80度までの超低温物流への対応となると以下のようになる。アフリカ地域に加えて、南米、東南アジア、中東などを中心に対応できていない地域が増加する。

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先進国でも、例えば米国では、もちろん小規模であれば、-80度の物流は研究・開発の分野で利用されている特別なサービスが提供されている。このような小規模の低温物流サービスを提供している企業に例えばCRYPORT社(CYRX)がある。だが、世界中の全人口への投与を目標とする規模での物流量への対応をこの企業のサービスで実現するのは現実的でない。

そんな中でPfizerは、自社ワクチンの輸送を実現するための小口パッケージを開発、発表した。このパッケージの特徴は、以下のようになっている。

・再利用可能
・1000-5000ドース収納
・10日間まで保管可能
・GPSでトラッキング

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このパッケージにより、温度管理された大規模なコンテナを利用せずとも、既存の物流サービスを利用しながら輸送することが可能となるとされている。

今後関連各社から、低コスト、再利用可能、スケーラブルなソリューションが続々と発表されてくると予想される。

*2,3,4,5 Source : DHL WHITE PAPER
https://www.dhl.com/content/dam/dhl/global/core/documents/pdf/glo-core-delivering-pandemic-resilience-2020.pdf

*6 Wall street Journal
https://www.wsj.com/articles/pfizer-sets-up-its-biggest-ever-vaccination-distribution-campaign-11603272614

ドライアイスが足りない

仮にRNAワクチンが利用されることになった場合、運搬・保管には大量のドライアイスが必要となる。春先にビールが飲めなくなるかも?というニュースを目にした人も多いだろう。これは

原油価格の低下
=>エタノール需要の低下
=>エタノール生成過程で副産物として生産できる二酸化炭素ガスの生産量低下
=>ビールや炭酸飲料の原材料不足 

という一連の流れで発生したニュースだ。現在はガソリン需要・原油価格がある程度戻っているので、ビールが飲めなくなるという事態には陥いっていないが、今でも業界では二酸化炭素ガス供給がひっ迫している状態という。

この状態に今後ドライアイス製造用の二酸化炭素需要が全世界で発生することが想定される。ドライアイス・二酸化炭素ガス不足をどのように解決していくのか?各社の対応が求められている。

関連企業の動向

Pfizer (PFE)
Fedex, UPS, DHLとワクチンの運搬を計画。各社はフライトから、トラック輸送まで担当。今回のワクチンのケースでは、伝統的な商流である卸を通さずにオペレーションを実現するとのこと。需要も大きく、低温輸送は時間との闘いであるため、卸に在庫は積まない方式を採用するとのこと。

Source :
https://www.wsj.com/articles/pfizer-sets-up-its-biggest-ever-vaccination-distribution-campaign-11603272614

McKesson (MCK)
医療物流大手。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)との契約により、アメリカでのワクチンのDistributionをサポートすると発表。(8/14付)

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Source : 
https://www.mckesson.com/About-McKesson/Newsroom/Press-Releases/2020/McKesson-Distribute-Future-COVID-19-Vaccines-Operation-Warp-Speed/

Fedex (FDX)
2009年 H1N1インフルエンザパンデミック時に米政府からワクチン輸送の契約を受託
。当時冷凍庫の設備を倍にしたものの、最終的にはそこまでウィルスは広まなかった。以来、冷凍庫の設備を更に強化、また航空機でのドライアイス輸送の承認を政府から得てオペレーションを前進させてきている(ドライアイスは溶けると二酸化炭素となり、パイロット・クルーの安全を脅かすため積載が制限されている)。-80度に対応できる物流センターをメンフィス、インディアナポリス、パリに構えており、冷蔵トレーラーをオークランド、ダラス、ロスアンジェルスに導入している。なお一部設備にドライアイスの製造機を導入済み。

ちなみに現在このプロジェクトを率いているのは創業者の息子のリチャード・スミス氏。

Source : 
http://3.227.230.1/cold-chain-focus/now-freezer-farms-for-potential-covid-19-vaccine-delivery/

UPS (UPS)
オランダのVenlo、米国ケンタッキー州のLouisvilleに"Freezer Farms"を構築中。全体で600台の冷凍庫を導入し、48,000 vials ワクチンを保管できる。追加で南米、ドイツ、イギリスにも同様の設備を導入予定。ドライアイスの製造設備の導入を検討。

Source : 
http://3.227.230.1/cold-chain-focus/now-freezer-farms-for-potential-covid-19-vaccine-delivery/

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Source : 
https://www.cnbc.com/video/2020/09/18/ups-is-building-vaccine-freezer-farms.html

DHL (DPSGY)
米国インディアナポリスに20,000-sq.ft.規模のライフサイエンス物流センターを開設。温度管理可能な(15-25, 2-8, -20度)倉庫でFree Trade Zoneに設置されているため、税関を通さず国際物流ハブとして機能可能

Source :
http://3.227.230.1/cold-chain-focus/now-freezer-farms-for-potential-covid-19-vaccine-delivery/

Kuehne+Nagel (KHNGF)
スイスを拠点とするグローバル Freight Forwarder。ブリュッセルとヨハネスブルクにPharma/Healthcare Hugを新設。これらの施設は、駐機場から直接低温コンテナでの輸送に対応し、施設内に温度別管理の区画を持つ(<-20°C, +2° to +8°C and +15° to +25°C)。また施設内にドライアイスの追加を行うことができる設備を保有する。

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Source :
https://www.pharmaceuticalcommerce.com/cold-chain-focus/logistics-providers-are-getting-ready-for-a-covid-19-vaccine-surge/

日通
米国にてライフサイエンス物流のMD Logistics and MD Expressの買収を完了。同時にシカゴにライフサイエンス専用の物流センターをOpen。また欧州ではオランダのスキポール空港にこれまでの二倍となるキャパシティを誇る物流センターを建設中。今後、温度管理された地上輸送手段の買収検討、インテルと共同で新しいサプライチェーン管理システムの構築に取り組んでいる

Source : 
http://3.227.230.1/latest-news/nippon-express-acquires-md-logistics-building-up-its-pharma-base/

Corning (GLW)
Corningは政府に低温対応のガラス容器不足を警告。6月に米国政府から$204M (約213億円)の容器製造契約を獲得。

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Source :
https://www.corning.com/worldwide/en/about-us/news-events/news-releases/2020/06/us-departments-of-defense-health-human-services-select-corning-valor-glass-packaging-to-accelerate-delivery-of-covid-19-vaccines.html

雑感、関連株は存在するか?

ワクチン開発レースも終盤戦に差し掛かり、徐々にどのプレーヤーが可能性があるか見えてきた。その中でワクチンのデリバリー側の検討も、先頭を走るグループを念頭に進んできている。すなわち、Biontech (BNTX), Moderna (MRNA), Johnson & Johnson (JNJ), AstraZeneca (AZN)など。

今後ワクチン関連投資は、ワクチン開発・製造ではなく、物流、投与サービスのほうにシフトしていくことが想定される。その中で探したいのは、大企業ではなく、ワクチン特需によって売上が数十%以上増加するような中小企業。そんな企業があるのかどうかはわかりませんが。。。

ワクチンデリバリーに携わる企業は以下の企業グループと考えられる。

ワクチンデリバリーの総元締め企業
McKesson (MCK)がCDCから米国内のワクチンDistributionに関して契約を獲得している。契約内容の詳細はわからないが、国に代わって実務的にワクチンのDistributionの音頭を取る立場のように見える。総元締めで必ず商流上McKessonを通してワクチンのDistributionを行う美味しいポジションのようにも感じたが、Pfizerは上述のようにMcKessonのような卸を中抜きしてワクチンDistributionを行う旨をすでに宣言している。そのため、おそらくこれは単純にデリバリー計画・運用の音頭取りの役務サービスの提供だけなのであろう。とするとこの巨大企業(売上$231B)に対しての売上・利益インパクトは小さいと想定するべきだろうか。

物流企業
国際物流会社の最大手は、Fedex, UPS, DHL。これに地域運送会社やライフサイエンス物流専門会社が入ってくることになる。ここにきて大手各社-80度超低温冷凍での運搬・保管が必要となるRNAワクチンを前提としての動きが活発化している。もしRNAワクチンが初期段階でこけていたら、誰も超低温冷凍運搬・保管のための設備投資はしなかっただろうが、風向きからするとどうやらRNAワクチンが一番可能性が高そうなので、ワクチン物流のビジネスを獲得するためには各社対応を加速しているといったところだろうか。正直に言って3社を比べてどの会社が一番コールドチェーンの設備が整っており、一番大きなビジネスを獲得できるかを客観的に比べられるデータは見つからないので、どの会社が一番大きな果実を得られるかはわからない。個人的には、H1N1インフルエンザパンデミック時の米国政府とのウィルス運送契約の経験から、Fedexがこの分野の対応が進んでいるように見える。自社設備にてドライアイス製造できる機能なども他社に比べて充実しているように見える。が、これらの企業も巨大企業(売上$69B)なので、正直ワクチン物流ビジネスがどのくらい売上・利益に影響を与えるのかわからない。

ドライアイス製造
市場調査レポート目録によれば、以下の企業がドライアイスの製造・販売を行う企業として挙げられている。これらの企業を見ていくことが投資先を見つけるヒントになるかもしれないと思って、軽く調べてみたのだが上場している会社は規模が大きすぎドライアイス関連事業が全体の中でそれほど大きくなさそうなのと、専業に近い会社は上場しておらず株が買えなかったりする。

● Linde
● Air Liquide
● Messer Group
● SOL Group
● Taiyo Nippon Sanso
● Polar Ice
● Air Products (ACP)
● Hunan Kaimeite Gases

ドライアイス製造機器
同じく市場調査レポート目録によれば以下の企業がドライアイス製造機器市場の主要プレイヤーであるとのこと。前述のドライアイス製造・販売を行う企業への設備の販売を行っている企業との理解。また今回は物流会社の物流センターへも機器を販売する特需がどこかの会社には発生しているはず。が、これも株を買える企業がない。。。このカテゴリの会社が売り上げ規模が小さく、ある程度専業でドライアイス事業をやっているので特需の影響を業績的に受けそうなのに。どうしてーーーーー。

● Cold Jet
● ASCO Group
● Karcher
● Artimpex nv
● CO2 Air, Inc
● TOMCO2 Systems
● Tooice
● Aquila Triventek
● Lang and Yüzer Otomotiv A.S.
● FREEZERCO2
● ICS ice cleaning systems s.r.o.
● Ziyang Sida
● Wuxi Yongjie

ワクチン容器
Corningが超低温でも割れず、成分に影響を与えない無ホウ素ガラス容器を開発。米国政府から$204M (約213億円)の契約を獲得済み。しかしこれも全体売り上げ($11.5B)の2%くらいなので業績への影響は軽微か。

二酸化炭素ガス原料企業
うーむ。エタノールの生成過程で生まれるという記事は読んだのだが、具体的に誰が主要なサプライヤーなのかわからない。

GPSタグ
Pfizerはワクチン運搬小型パッケージにGPSタグをつけてトラッキングできるようにしている。Supply chainの可視化、セキュリティの確保のため。他社も同様の対応をしてくることが想定される。このGPSタグ、かなりの数の製品が出荷されると思うので、仮に中小企業メーカーの製品であれば、売り上げ増の効果は期待ができる可能性がある。主要サプライヤーは追いきれていない。

冷凍庫メーカー
物流企業が大量導入、またワクチン投与する現場での保管のため病院や薬局でも導入される可能性がある。そもそも市場規模が小さいニッチ業界なので、ワクチン需要が業界の例年の需要に与える増加のインパクトはすさまじいものになると想像。ただ、パナソニックやハイアールなど業務用冷凍庫は超大手が多い印象で、全体事業に与える影響は軽微か。もう少し深堀が必要。

と、ここまで調べてみたものの、正直、何か買ってみようという企業に行き当たることはできなかった。一番チャンスがありそうだと感じるのはドライアイス製造機器、あるいは超低温冷凍庫のメーカー(あくまでもRNAワクチンが承認され広く使われることになった場合)。まだ上場して株が買える会社が見つからないので。関連企業がないか継続して要調査。

また今回はワクチン物流に関して調べてみたが、今後ワクチン投与サービスをどのように行うかについても関心の高いところ。これもワクチンのタイプによって対応可能な企業が異なると想定されるので、ワクチンの承認に向けて注意深く観察していく必要がある。

以上です。

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