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知識ゼロから Zoom演劇を 生配信で上演した話④ ~失敗と気付き

制作編

オンライン演劇 リーディング『音の世界』の裏側。
『音の世界』の公演情報はコチラ

読んでくださってありがとうございます。Celebration of Possibilities西村壮悟です。

前回は、Zoomでの稽古で気づいたことについて、書きました。

今回は、制作面について書きたいと思います。
ちょっとボカシたいところもあるけれど、率直にいきたいです。


一人でやれること

まず、今回の企画に関しては、僕一人で制作的なことをやっていました。
これは端的に、予算がなかったからです。

企画の趣旨は
「濃厚接触を避けたオンライン上で、スタンダードな会話劇を、しかも近代劇の代表的作家である岸田國士戯曲を上演し、自粛生活中のお客様に広く楽しんでもらう」
です。
広く楽しんでもらうために、無料(カンパ制)にしました。
チケット収入が基本的に無いので、予算はできるだけかけないようにしました。
なので、演出・出演しながら自分で制作もやりました。
そのなかでやれる範囲のことをやったという感じです。

やったことを具体的に挙げると、

スケジューリング、公演情報の掲載(自分のブログ上)、カンパ先の用意、YouTubeチャンネルの開設、YouTube Liveでの生配信テスト、SNSでの宣伝、配信について詳しい方への相談

といったところでしょうか。


理想的には、制作・演出・出演の三つを兼ねないほうが良いです。
このうち二つを兼ねることは、まぁよくあるかと思いますが、三つになるとどれかが後回しになります。

今回の優先順位は演出、出演、制作という順でした。
(実際はそこまで明確に順位づけておらず、全部100%やるつもりでしたが、あらためて振り返ってみると)

制作は、最低限のラインでした。
稽古や本番の配信、お客様の視聴に支障がないように。分かりやすいように。誰かに迷惑をかけたり不信感を与えたりしないよう意識しました。
もしも、誰かに制作を担当してもらえば、宣伝も自分のできる範囲内でなく、もっと仕掛けることができ、視聴者数を増やすことができたはずです。

もうひとつ、その三つを兼ねないほうが良い理由は、
本番中に裏でバックアップをする人が必要だからです。
もし自分の出番がほんの少しだけだったら良かったのですが、今回のようにほとんどずっと出ていると、何か問題が起きたときに即対処することができません。
いずれにしても、問題なく配信がされているか常にチェックする人が必要です。

ここにオンライン演劇の特徴があると思います。
舞台であれば舞台監督が進行を取り仕切って、滞りなく上演されるように監督するのですが、オンライン演劇では配信やインターネットの知識が必須です。
また、舞台と違って皆それぞれの家にいるので、何かトラブルが起きたときに直接助けに行くことができません。言葉で説明して解決へ導く力も必要です。何より重要なのは、多少のトラブルが起きても対応できるように準備をしておくことです。

しかし、ここまで書いたようなことは、経験があれば、ある程度の兼業も可能ではないかと思います。
僕はYouTubeに動画をアップしたことも配信したこともないし、制作業務の経験もゼロ、演出も初めてだったので、一度に初めてのことが重なりすぎた感があります。
全部、これまで俳優として公演に関わってきた感覚と経験でやりました。
自分がやりたいからスタートした企画なので、全部自分でやるというスタンスでしたが、準備ができていればもっと上手なやり方はいくらでもあると思います。

スケジューリング

出演者のスケジュールを聞いて、稽古日を2時間×週1日ないし2日程度で設定しました。(どのくらい稽古したのかを公表することはリスクもあることですが、オープンにします)

回数は5回。GP(ゲネプロ。開演前の段取りから全て本番通りに行う最終リハーサル)を2回。
低予算リーディング公演の一般的な稽古日数を元にし、稽古後にノートを出し俳優にはそれを咀嚼してもらい次に反映できる時間/前にやった感覚を忘れないで呼び戻せる時間でスケジュールを作りました。

2時間×5回の稽古で、短編とは言えど、岸田國士戯曲をあのクオリテイで作れたのはひとつの達成だと思っています。
それぞれの俳優の力(戯曲分析と演出意図への理解、そしてそれを表現する技術)があったからできたことです。

GPは本番が夜1回、午後1回だったので、その前日ないしは前々日に同時刻に行いました。
生配信の生命線となる通信環境は曜日や時刻によって大きく変わるのと、
メンバーそれぞれが自宅で生活と繋がった流れでバラバラに本番に入るので、その流れを事前に知っておくことが大事なので、舞台での公演と同様にGPは重要です。


満足できていないこと


それは出演者に十分なギャラを支払えていないことです。

無料(カンパ制)に設定したので、チケット収入が見込めません。
カンパ収入をギャラに当てる予定ですが、満足できる額を支払うことは難しいでしょう。

僕も俳優なので、本来であれば、ちゃんとしたギャラを支払うべきだと考えています。自分で無料に設定したこととはいえ、このことが今回の企画全体で一番満足できていません。
しかも、俳優たちは皆、今回の自粛で仕事ができておらず収入がない状態です。業界のことを考えると、チケット料金を設定して仕事を作るべきでした。

ですが、企画趣旨にあるように「自粛生活中のお客様に広く楽しんでもらう」を優先させたことと、今回が初めての試みだったので有料設定する段階ではないと判断したために、無料(カンパ制)と設定しました。
結果的に、僕自身としては有料設定にできるだけの中身のある作品を作れたと思っています。

SPACの芸術監督・宮城總さんが「演劇蟹カマボコをお届けします」ということをおっしゃって、それに共感した演劇人は多かったと思います。僕もその一人で、今回作った作品は僕なりの「カニカマ」です。

こう書いていると、僕のやっていたことは「演劇の火を消すな」だったんだとあらためて気づきました。
できなくなったからこそ、やりたい。切り離されてしまったからこそ、繋がりたい。
しかし、その演劇をやる人間が演劇で食べていけるようにすることは、今回はできなかった。それが今後の課題です。


ちなみに宮城さんは、オンラインコンテンツを提供する最終的な目的は
「本当の演劇とのオンラインコンテンツの決定的な違いを観る人に感じてもらうこと」ともおっしゃっています。

( ↓ 宮城さんとワジディ・ムアワッドさんの対談はおすすめです)

おそらく、その違いを、ある人は、決定的なものと感じただろうし、そこまで気にならなかったという人もいるだろうと僕は思います。
作り手としては、明らかに決定的な違いがある、オンライン演劇には決定的なものが欠けていると思うのですが、
「演劇とは」ということを追求する一方で、狭い視点にあまりこだわらずに今発見した新しい可能性をどう活かしていくか考えるのが有益だと思います。作品の質を上げれば必ず多くの人に見てもらえるというわけではありません。
演劇を持続可能なものにしたいですからね。

外からの視点

一人で制作をしたと書きましたが、アドバイスをくださった方がいます。
まず「僕が何をしたいか、どんなものを作りたいか」ということを汲み取って、そのなかで何を優先させたいかを整理してくれました。
そしてそのためにやるべきことは何かを明確にする手助けをしてくれたのです。

これは僕にとっては本当にありがたいことでした。
一人で考えていると、見落としていたり、
「あとで取りかかればいい」と、つい後回しにしがちなこと、
「これで良い」と決めたけど本当にそれで良かったのか自信が持てないことがあります。

今回自分が演出を初めてやって実感したのが「良い制作がいてくれると、作品づくりに集中できる。違う視点から意見をもらえる」ということでした。

結局、その相談にのってくださった方には、テクニカル打ち合わせをまとめていただき、本番・ゲネプロでは配信の確認、本番中・前後にトラブルが起きたときの対処手順を考えるサポートまでしていただきました。
そうやって裏で進行のバックアップをしてくれる人がいることを、今まで舞台での公演をやっているときとまた違う感じで頼もしく、有り難く感じました。自分が出演した過去の舞台でお世話になった方ですが、今回のように快く助けてくださることに、本当に感謝するばかりです。


『音の世界』は6月末まで限定でアーカイブ公開しています。
ぜひ、どんな作品となったか見てください。本編27分です。

こちらの公演情報でも、あらすじ等が読めます。

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