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オンライン演劇『音の世界』という企画に関わって① 出演者から

ー『音の世界』という企画にまつわる文章を、出演者の皆さんに書いていただきます。第1回目は、せんすさん(少年役)。

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 「音の世界」という岸田國士の戯曲をリモートリーディング演劇としてやる。
そんな企画を、主宰である西村壮悟から聞き、私は役者としてこのリモート企画に参加することになった。
本来演出家である私が役者のオファーを受けることは滅多にないのだが、彼からメッセージがきたのは2020年の4月の終わりだったのだ。
4月末。緊急事態宣言の真っ只中。
日本中がこれからどうなっていくのか、業種を問わず私たちはまるでトンネルの中にいた。

私は彼からのオファーを即決で、「はい、ええよ。」と直感でOKした。
なんとなく、あの時の空気を思い返してくれれば、おそらく、ふんわりと、二つ返事で承諾した私の気持ちに共感してくれる人はいるだろう。

彼も、もがいていたんだと思う。
私も、もがいていた。
演出家としての仕事はどうなるんだろう。周りでは劇場やアーティストたちが文字通り死んでいっている。私にできることはなんなのだろう。
私がしてきたことは、ただの独りよがりでこんな時に何にもならないじゃないか。
演劇をしたって疫病は消えないじゃないか。

きっとだから、私は感覚的にOKした。
単純にその時、必要とされていることが嬉しかった。
役割を果たそうと決心した。衝動と感覚で。

岸田國士の「音の世界」は遠い昔に何かで触れたことがあったが、その内容はすっかり忘れてしまっていた。
しかし、改めてその内容に触れてみると、何故、主宰がこの本を選んだのか。ああ、彼もやっぱり悩んでいるんだ。彼も動かずにはいられないんだ。と妙に納得してしまった。
と同時に、彼の頭の中にはこの戯曲をストックとしてあったのか、と感心した。
真面目で勉強熱心な役者なんだな。と尊敬した。

この企画は最初から最後までzoomを使って、リモートで行われた。
顔合わせも、飲み会も、稽古も、もちろん本番も、全てだ。
zoomなんて私自身つい最近知ったツールである。
ミュートを消し忘れたりなんていう凡ミスから電波状況によるトラブルなどにも良く対応して本番を迎えたなと思う。

それはただひたすらに、ここに集まった人々の演劇が好きだ。という愛がこの作品を完成させたのだ。
それだけは、この企画において、断言していいことだろう。
ここに集う全員が愛だけで動いていた。
それはきっと、演劇から何かを受け取った。もしくは救われた。そんな過去があるからこそ、生まれた愛なんだろう。
形は分からないけれど、確実に見えない愛だけで動いていた。そんな座組みだった。

彼らの芝居の変化を見るたびに、彼らと語らうたびに、演劇の底力、ただ演劇をやりたい人間の力を毎回感じた。
それは間違いなく、私も含めて我々は演劇というものが生活の中にないと死んでしまう。どうにかしたい。どうか消さないでくれ。これは必要なんだ。そんな叫びのようなものも感じた。
だから、無事に本番を迎える事が出来たのだ。

これを書いている今は2020年6月3日、午前2時すぎ。
主宰からオファーを頂いた4月末から、何かが変わったようだけれど、まだ実際何にも見えない。トンネルを抜けたとは到底言う事が出来ない。
確かに、我々は目隠しをして光を失い座っているだけなのかも知れない。

だけど、リモートワークで「音の世界」をやったということは、一つの事実であり一つの光である。
私は、その光に誇りを持って、これからも演劇をしていきたい。
だって、やっぱり演劇は、私にとってなくてはならないものであるから。


せんす

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せんすおぶわんだぁ主宰。
脚本家・演出家・元高校教師。
日本とドイツの2拠点で創作活動、教育活動を行う。


(西村壮悟より)
せんすの紹介は前回記事「知識ゼロから Zoomオンライン演劇を 生配信で上演した話②」を読んでいただくとして、これをお知らせしたいです!

自粛要請のために危機に陥っている関西の演劇と小屋を救いたいという熱い思いで、オンライン公演を配信!
僕も前回5月の公演を見ました。劇中歌がとても素敵でした。毎回配役と歌が変わるのにも注目!

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