見出し画像

知識ゼロから Zoom演劇を 生配信で上演した話② 作品とキャスティング編


(有料設定をしてますが、最後まで公開しています)

オンライン演劇 リーディング『音の世界』の裏側。


読んでくださってありがとうございます。Celebration of Possibilities西村壮悟です。

前回は、Zoomで創作をしようと決めた流れを、書きました。

創作を決めてから、いくつかのオンライン演劇の動画を見たりしました。

小劇場で動きが早く話題を集めたのは『未開の議場オンライン』でした。
僕も今回の製作をするにあたって、とても参考にさせていただきました。裏側でどういうことをしていたのかを記事にしてくださったのは、すごく有難いことです。

一方、公演中止になってしまったリーディング『リア王』の稽古を、ラジオドラマ化することになり、僕の提案で、Zoomで開始しました。
この企画は、Zoom演劇、ラジオドラマ両方で発表するために製作をしています。


『リア王』の稽古と収録を重ねるうち、そこでのトライアンドエラーも蓄積され、

Zoomで創作するなら、
ごく日常的な会話劇(現代口語的な)よりも、非日常的な作品のほうがかえって面白くなるんじゃないか


という考えに至りました。
非日常的な作品とは、たとえば、シェイクスピアだったり、今回の岸田國士のような何十年も前の日本の物語です。

発表されているオンライン演劇は、Zoomというオンライン会議システムを使用している事実をそのままに設定に取り入れているものがほとんどです。
Zoomでの会議劇、あるいは友人や恋人がZoomで会話する劇。

Zoomを使っているという現実を取り入れるという考え方は僕もよく理解でます。


しかし、そもそも演劇では
「ここは劇場で、舞台で起こることはフィクションだ」という現実を、
演者・観客双方が前提として受け入れて上演・観劇し、
そこで起こる様々な虚構の世界を、一時、信じます。
だから、Zoomを使っている現実に縛られず作品づくりができるはずだし、
他とは違うことをやっていれば、それが特色にもなります。

僕は、この作品での第一の目標を「岸田國士の作品の世界、約90年前の日本人たちの世界をZoomで感じてもらいたい。中身のあるお芝居を楽しんでもらいたい」
と設定しました。



岸田國士『音の世界』について

岸田國士作品の魅力は、それぞれの登場人物の内面に流れる心の機微です。
計算し尽くされたセリフの下にある思考の流れ、登場人物同士のやり取りの細かさが面白い作品が多い。
岸田國士はそういう人間の有様を、悲喜劇として軽やかに描いています。

今回の『音の世界』も、そんな作品。
さっと読めば25分くらいの短さながら、嘘と本当の入り混じった男女の駆け引きのなかに、愚かさと哀しさや滑稽さが見える隠れた名作です。

それに加え、電話での会話シーンが前半のメインで、離れたまま演じなければいけない現在の状況に合うんじゃないかと考えたのです。

実は、10年以上前、新国立劇場演劇研修所での試演会で、僕はこの作品をやったことがあります。
宮田慶子さん演出で、大変だったけど充実した稽古を経ることができ、でも結果的には力量不足を痛感した公演でした。
「いつかまたこの作品、この役にチャレンジしたい」という思いがずっとありました。



さて、キャスティング

このツイートに、今回『音の世界』の女役で出演してくれた廣田明代さんが反応してくれました。
めっちゃ早い反応でした。しかも後から聞くと「たぶんあの作品だ」と分かったらしいです。すごい嗅覚!
レスの速さに若干ビビりながらも、明代さんが興味を持ってくれたことに内心興奮しました。
僕のマイズナーテクニックのWSで数回見ていて、彼女だったらこの役にピッタリだと思ったからです。
でも、こういう嗅覚、行動力ってほんとに大事。チャンスは自分で掴みに行く。求めるからこそ与えられる。行動の繰り返しが、その人を作る。
直感でバッと動ける人は魅力的に見えます。

男甲役は迷うことなく、山森信太郎さんに声をかけました。
声質、見た目。甲という男にピッタリです。同じ俳優から見て、何ともうらやましいものを持っています。
その立派な髭のせいか一見怖いんですが(僕が初めて彼を見た役も怖かった・・・)、
実はお茶目で優しい人。でもそのギャップが良いんです。
山森さんも髭亀鶴という自身の企画で、戯曲を読む会をやっています。
共演したこともあるし、一緒に戯曲読み合わせもしているので、腕もある俳優だと分かっています。


このとき、僕がやった男乙役は誰か若い俳優に任せようかなと思っていました。僕は演出とト書きをやるつもりでした。
ですが、候補に考えた俳優の通信環境がいまいち良くなく、難しそうだったので、結局僕がやることに。
まぁ、欲が出たんですね。自分がやりたいところをやっちゃう。主宰・演出あるあるです。


キャスティングの重要性を端的に表す言葉で、

「演出の大部分はキャスティングで決まる」

というものがあります。

フランク・ハウザーのこの本にもそういうことが書かれています。
それだけ、選ぶ側も慎重に吟味し、選んだ俳優たちに期待をかけます。

ちなみに以前、新国立劇場演劇部門芸術監督の小川絵梨子さんがWSで

「あなたがキャスティングされたのだから、自信を持ってやってください」

と言っていました。

自分自身や演出に余計な疑いを持たずに、
エゴを捨てて(つまり自分の演技が上手くいっているか、上手くできているか、などと気にせずに)、
相手と関わってくれ。

ということです。


初回の読み合わせをして、僕は二人に「この作品をオンラインで上演したい」ということを伝えて、出演のオファーをしました。

そこから、
ト書きを瑚海みどりさんにオファー。
映画の他に、吹き替えのお仕事を沢山している女優。
リーディングの核となるト書きは、演者たちの呼吸を感じながら全体の世界観を作るので、とても難しいパートですが「この人なら大丈夫!」とお願いしました。
瑚海さんは、マイズナーWSでは相手に飛びかかるような動物的で、遊び心のある女優なので、役でなくト書きというのはちょっと勿体ない使い方というか、なんとも贅沢でもあります。

それから、出番は少ないんですが、商店のシーンに出てくる二役。
実はこれも最初は「自分がやればいいか」と思っていました。
今考えると「何言ってんだ」ですね。早替え+カツラでもするつもりだったんでしょうか。企画・演出と男乙をやり、ト書きも読もうかと思ってたのに。


少年役を、関西とドイツで劇作家・演出家として活躍するせんすさんに。
昨夏、沖縄の児童青少年演劇祭・りっかりっかフェスタでのクロアチア人演出家イヴィツァ・シミチのWSで出会った縁から。
関西弁で少年に見える、ということで思い浮かんだのですが、俳優ではないので「やってくれるかな?」と思いながらオファーしたところ、
「わーった。ええよ」と快諾してくれました。

実際、関西弁喋れる若い俳優は他にもいます。それでも彼女の顔が思い浮かんだのは、それだけじゃない何かがあったんです。
あの濃密なWSでともに経験した創作の天国と地獄。
そこで見た彼女の創造性。

それから、兵庫県にいるせんすさんがカンパニーのなかにいる、というのはZoomで稽古・上演するからこそ出来ることです。
地理的制限を超えて、一緒に作品を作れるということが、僕や他のメンバーに新しい感覚を与えてくれました。

彼女は、自粛要請のためにピンチに陥っている劇場や演劇をなんとかしたいと、無観客公演の生配信を5月から継続して行っています。
そこでの経験もカンパニーにとって有益なものとなりました。


それから、一番最後に出てくる主人役を、小川浩平さん。演劇集団円の文芸部所属の演出家です。作秋、『ヴェニスの商人』で劇団本公演を演出しました。
小川さんは地元が近所(京都伏見、向島)で、僕が大阪の劇団にいたときの先輩でもあります。出演はもう長いことしてないのですが、クセが強い俳優だったので、短い出番ながら強い印象を残してくれるはず。何よりまた一緒に芝居作りが小川さんとしたかったです。
「全部仕事飛んでもーたしヒマやでー。やろやろ」と二つ返事で引き受けてくれました。


でも、色々と書いたけど、一番大事だったのはこれですね。

その企画を面白がってやれるかどうか。

今回だったら、オンライン演劇というよく分からないものを、やってみようと思えるかどうか。
だって、本当に賛否両論、いや否定的な考えのほうが多かったですから。
「やっぱり生のほうがいい」って。

「知ってるわ」つぅ話ですよ。

そんなこと百も承知で、やってみようとしてるんです。
僕だってマイズナーテクニック教えてる人間ですからね。

会えないという致命的な制限のなかで、どこまでいけるか、遊んでみたいのです。
それに乗れるかどうか、です。


いよいよ稽古開始

全員揃っての顔合わせ・初稽古。
もちろん、初回からオンラインです。
僕以外は、ほとんどがお互い面識のない者同士。

「よく考えたら、初演出の稽古場に二人も本職の演出家がいるってめちゃくちゃ緊張するやん・・・」

あまりよく考えずに動いた結果です。あれこれ考えてたら、あんまり出来ることじゃないです。

ですが、「我が我が」な人たちではなく、僕が何をやりたいのかをよく聞いて自分の役割に集中してくれる人ばかりで、すぐに僕もそんな心配は忘れて、初回の稽古は無事終了しました。


演劇作品を作るのに、演出家は稽古開始の何ヶ月も何年も前から準備します。
しかし、今回はこの自粛期間中のなか生まれた企画なので、そんな準備している間はゼロでした。初めての演出でそれでいいのかとは思いますが、
とにかく決めて、すぐスタート。
走りながら、考える式。

「やりたい、だからやる」で動いて、
そのために必要なことが徐々にはっきりしてきました。

出演者のみんなは、そんな僕をあたたかく見守ってくれたのだと思います。
「あれは大丈夫?」「どうなってるの?」「これはどう?」
と不確かなところを聞いてくれたり、提案してくれたり。

小川さんは演出部での経験も長いので、率先して小道具を製作してくれたり、使用する音楽を用意してくれたり、作品のためのサジェスションをしてくれて、とても助けてもらいました。

僕は俳優の経験はそこそこありますが、演出や裏方の経験は全くありません。

一本のお芝居を、公演として成立させるためには、俳優だけの力では不可能です。

演出家や作家、プロデューサー、制作、照明と音響プランナー・オペレーター、衣裳、舞台美術家、大道具、演出部、他にも音楽監督、振付、アクションコーチ、ムーブメントディレクター、方言指導、所作指導、歌唱指導、翻訳家、ドラマツルギー、当日受付、会場案内、劇場スタッフ・・・etc

実に数多くの専門家の力が結集して、お客様にお届けすることができます。


公演ができないということは、少なくともこれだけの人たちが仕事をできないということなのです。
このことがどれだけ、演劇界にとって大きな痛手であるかイメージできるでしょうか。

このnoteの題字で言う僕の「知識ゼロ」というのは、オンライン会議やYouTube配信だけじゃなく、これらの専門性についても欠けているということです。


とにかく、こうやって『音の世界』は、本格的に始動していきました。


(記事は最後まで読めるようにする方針ですが、もしも気に入ったら是非、
購入というかたちでご支援をお願いします。あるいは下記ページでもカンパをしていただけます)

こちらの公演情報でも、あらすじ等が読めます。




続きをみるには

残り 0字

¥ 300

ご支援ありがとうございます!いただいたお金は今後の活動費に当てさせていただきます。