小説 visible(4)
「オニー、サッカー部入らないの?」
今井が教室でしゃべりかけてきた。
今井は小学校のころからなぜか毎回クラスが一緒になる男友達。
「はぁ。なんか違うことやってみようかなって思ってるんだけど、まだどれがいいかわからないんだよね。」
そう言った瞬間、今井の目がきらきらした。
「じゃあ、柔道やろうぜ。」
そうだった。今井は柔道一家で小学生のころから柔道一筋のやつだった。
「柔道かぁ・・・。」
まったく柔道というスポーツに頭がなかった俺。
「とりあえずちょっと放課後のぞきにこいよ。」
「わかった。ちょっとのぞきにいくわ。」
特にやりたいことがなく、ぬけがらの毎日だったからなんとなく流れで放課後見学にいくことになった。
放課後になり教室からでて廊下を歩いていると
「オニー、帰るの?」
順子がちょうど前にいた。
「いや、柔道部の見学にいくことになった。」
「そうなんだ。楽しいといいね。」
順子はダンス部に入っている。
小学校のころから踊るのが好きだったから予想はついた。
「順子も部活がんばれよ。」
「ありがとう。じゃあねー。」
柔道場は体育館のとなりにある。
とびらを開けると汗くさい男のにおいがした。
ちょっとしかめっつらになったが表情をもどして中へ入った。
中に入るとバン!バン!とたたみにたたきつけられる音が聞こえた。
「見学謝?」
俺に気づいた柔道着の180cmくらいある巨体の人が話かけてきた。
「はい。今井くんに誘われて見学にきました。」
「じゃあ、はじっこに座って見てて。」
入り口近くのたたみに座って練習を見てると柔道もなかなかおもしろいもんだ。
今井は小さいのに大きな選手を次から次へと投げていく。
さっきの180cmくらいの人と今井が組み合ってる。
「すげーな。けっこういい勝負してるじゃん。」
「それまで!」
ストップウォッチをもってた柔道着の人が大きな声をだした。
今井は180cmある人とかなり体格の差があるのに最後まで投げられなかった。
「オニー、柔道見ててどう?」
今井が息を切らしながらしゃべりかけてきた。
「今井すげーなー。でもやるのは難しそうだな。」
「ちょっと着替えてやってみない?」
「えっ!柔道着ないし。できないよ。」
「柔道着あまりのあるからそれ着てやれば大丈夫。」
ちょっと見ててやってみたいと思ってる俺もいた。
着替えて今井とまずは受け身の練習をした。
「オニー、センスあるかもよ。」
いろんな受け身をした後に背負い投げと足払いという技の練習をした。
「投げるのおもしろいな。」
投げた瞬間なんか今までかかってた相手の抵抗がなくなる、
その瞬間がなんか気持ちよかった。
「じゃあ、俺と試合してみようか。」
さっきの180cmくらいある人が言ってきた。
「えっ!試合とかムリですよー。」
「いいからいいから。なにごとも経験だから。」
いきなり試合することに。
「絶対投げれるわけないじゃん。」
心でそうつぶやいて組み合った。
「オニー、もっと左右に動いてー。」
外から今井がアドバイスしてくれる。
とりあえず動きながら足払いをしかけた。
「今だ、背負い投げ。」
今井のアドバイスどおり背負い投げに入った。
バーン!
柔道場に大きな音が響いた。
「一本!」
「オニー、すごいじゃん。一本勝ちだよ。」
自分の倍くらいある体格の人を投げた感触はたまらなく快感だった。
「オニー、柔道のセンスあるよ。柔道やろうぜ。」
「うん。柔道おもしろいかも。」
そうやって柔道部に入ることになった。
柔道部に入ってから聞いたのだが、あの試合は先輩が柔道好きになってもらいたくてわざと投げられたとのこと。
まんまと俺ははまってしまったわけだ。
わざとかもしれないけどあの投げた感触は気持ちよかったことはまちがいない事実だ。
柔道部に入ってひとつだけいやだったのは
「一年は全員ボーズな。」
意味わかんないルールでボーズにさせられたこと・・・。
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